渡辺、悲願の名人獲得

渡辺、悲願の名人獲得

ライター: 渡部壮大  更新: 2020年09月03日

 実力、実績十分ながら、名人戦に縁がなかった渡辺明二冠がついに大舞台へ。豊島将之名人は初のタイトル防衛を目指す。本来は4月開幕予定だったが、緊急事態宣言のため見送られ、6月に遠征が解禁されてから開幕となった。豊島は叡王戦、渡辺はヒューリック杯棋聖戦と、ともに番勝負を並行して過密日程との戦いでもある。

第78期名人戦七番勝負第1局

 第1局は三重県鳥羽市「戸田家」にて。角換わり腰掛け銀から双方手待ちで出方をうかがう難しい将棋となった。

【第1図は▲7三飛成まで】

図は最終盤。ここで△6三金が勝ちを読み切った手。▲5五桂~▲6三桂成で打った金を取られてしまうが、△4七歩成から先手玉が詰む。熱戦を制して挑戦者が先勝。

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撮影:常盤秀樹

第78期名人戦七番勝負第2局

第2局は山形県天童市「天童ホテル」にて。相掛かりから後手の豊島がリードするが、終盤にもつれ形勢が激しく揺れ動く競り合いとなった。

【第2図は▲3六歩まで】

△4一飛が決め手で、後手の勝ちが決まった。▲4二角を受けながら、桂を持てば△6四桂の詰みがあるため、先手は指しようがない。▲5二成桂ではつらく、△6六角と出て受けなしだ。豊島が1勝1敗のタイに。

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撮影:金子光徳

第78期名人戦七番勝負第3局

第3局は東京「将棋会館」にて。渡辺の雁木に急戦を仕掛けた豊島が早々と優位に立つ。一方的な将棋になるかと思われたが、徐々に局面が怪しくなっていく。

【第3図は△5七金まで】

先手玉は食いつかれた状態で、おまけに後手玉は深い。流れは逆転模様だが、▲2三歩が鋭い反撃で踏みとどまった。△7八銀不成▲5九玉△4八金▲同玉と駒をボロボロ取られたが、まだ先手玉は詰まない。△2三玉と戻した手に▲4四歩が詰めろで、際どく先手が残している。この後も後手の追撃をかわしきり、豊島が2勝目をあげた。

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撮影:常盤秀樹

第78期名人戦七番勝負第4局

第4局は東京都文京区「ホテル椿山荘」。いつもは開幕戦の常宿だが、日程変更の関係で第4局での登場だ。相矢倉の脇システムから、先手の渡辺が前例の少ない進行を選ぶ。

 

【第4図は▲3三金まで】

ここでの2択が勝敗を分けた。本譜は自然な△5三玉だが、▲5八飛△8七歩成▲同玉△6九角▲7八飛△8六歩▲7六玉で先手の勝ち筋だ。△7八角成には▲6五桂打から、先手玉の存在が大きく後手玉は詰む。図では代えて△5二玉ならこの詰み筋がなく、後手に分のある終盤戦だった。2勝2敗の五分に。

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撮影:金子光徳

第78期名人戦七番勝負第5局

第5局は再び東京「将棋会館」にて。序盤早々、見たこともない力戦となる。

【第5図は▲8二飛まで】

後手は玉一枚だが、先手も攻め駒が少ない。△7三玉が力強い受け。▲8一飛成に△8二銀が竜の捕獲と△8七歩成を見せた手で優勢になった。先手としては▲8一飛成で▲8六飛成から長く指す方がまさったようだ。渡辺が3勝目をあげて初の名人まであと1勝。

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撮影:常盤秀樹

第78期名人戦七番勝負第6局

第6局は大阪「関西将棋会館」にて。関西将棋会館で名人戦が行われるのは初。矢倉の出だしから、後手の豊島が急戦を目指した。

【第6図は△7五歩まで】

いよいよ攻め合いになったのが第6図。ここで▲5三歩が軽手。△同銀左なら▲4五桂だし、△同銀右や△同金は▲7五歩と手を戻された時が難しい。実戦は△7六歩と取り込んだが、強く▲7四歩△7七歩成▲同金寄△7四金▲2四歩と攻め合い、先手の堅陣が生きる展開となった。以下は押し切って先手が制勝。
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撮影:金子光徳

渡辺は4勝2敗で悲願の名人奪取。局後に「縁がないと思っていた」と語ったように、これまで手が届かなかったのが不思議なくらいだった。三冠に復帰し、将棋界の第一人者となった。豊島の初防衛はまたもお預けとなったが、秋には竜王戦で防衛戦が待っている。

注目対局プレイバック

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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