ライター渡辺弥生
上田初美女流四段の奪取か、里見香奈清麗の防衛か。第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負の行方は?
ライター: 渡辺弥生 更新: 2020年07月02日
上田初美女流四段が第2期ヒューリック杯清麗戦の挑戦者に
2020年6月12日、東京・将棋会館の「特別対局室」で第2期ヒューリック杯清麗戦の挑戦者決定戦が行われた。予選・本戦トーナメントを勝ち上がってきたのは上田初美女流四段と伊藤沙恵女流三段。実力者同士の相居飛車の熱戦を制したのは上田だった。
7月から始まる第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負の展望を予想する。
初代清麗・史上初の女流六冠
上田を迎えうつのは里見香奈清麗。清麗のほか女流名人、女流王位、倉敷藤花の四冠を保持する女流棋界の第一人者。タイトル獲得数は40期、タイトル戦登場回数は48回。クイーン名人、クイーン王位、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格保持者だ。
昨年の8月から9月にかけて行われた甲斐智美女流五段との第1期ヒューリック杯清麗戦五番勝負を制し、初代清麗の座に就くとともに、史上初の女流六冠に輝いた。その後、第41期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負と第9期リコー杯女流王座戦五番勝負では西山朋佳女王(現女流三冠)に敗れ、女流王将と女流王座を失うが、第27期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負では伊藤沙恵女流三段を破り防衛、通算10期目の倉敷藤花を獲得。
今年に入ってからは1月から2月にかけて行われた第46期岡田美術館杯女流名人戦で室谷由紀女流三段を3連勝で下して女流名人11連覇を達成し、元女流棋士の林葉直子さんが持つ女流王将戦10連覇を抜いて最多記録を更新した。3月にはこれまでの実績を認められ、女流六段に昇段。この6月に行われた第31期女流王位戦五番勝負では加藤桃子女流三段の挑戦を3連勝で退け、女流王位を防衛。勝ち方は危なげなく、終盤も正確。相変わらずの強さだ。1月からはタイトル戦が続き対局数は少ないものの、現在6連勝中。調子はまずまずだろう。
第1図は加藤との第31期女流王位戦五番勝負第3局の中盤戦。後手の加藤が角取りに5一の飛車を△5四飛と浮いた局面。
【第1図は△5四飛まで】
▲1五歩△4四飛▲1四歩△1六歩▲1三歩成△同桂▲1四香△2四歩▲1三桂成△同銀▲1五歩
なんと里見は角を逃げずに▲1五歩。△1五同歩は▲1三桂成△同桂▲6六角で、次に▲1四歩や▲5五金が残る。最後の▲1五歩が種駒を消さないための落ち着いた好手。このあとも里見の正確な指し回しが光り、最後は加藤の猛追を凌いで後手玉を即詰みに打ちとった。
育児で忙しい中でのタイトル戦出場
挑戦者となった上田は2009年秋の第31期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負でタイトル戦に初登場。2011年春の第4期マイナビ女子オープン五番勝負で甲斐智美女王(当時)を3連勝で下し、初タイトルの女王を獲得。タイトル獲得数は女王2期、タイトル戦登場回数は今度の第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負が9回目となる。このほか2012年に大和証券杯ネット将棋・女流最強戦で優勝している。
上田は今期の清麗戦では予選トーナメントの2回戦で敗れ、再挑戦トーナメントにまわった。ここから一気に調子を上げる。初戦から順に鈴木環那女流二段、小髙佐季子女流1級、山口恵梨子女流二段、加藤桃子女流三段、中村真梨花女流三段を破って本戦入り。本戦では岩根忍女流三段、伊藤沙恵女流三段に勝ち、挑戦権を獲得した。上田はこの時期を含む11月から5月にかけて公式戦で11連勝と絶好調。常に好成績を挙げている上田だが、育児で忙しい中でのタイトル戦出場は素晴らしい。
第2図は伊藤との第2期ヒューリック杯清麗戦の挑戦者決定戦の中盤戦。先手の伊藤が▲3六歩と突いた局面。次は▲3七桂から▲3五歩がうるさい攻め。ここから上田が巧みな手順で飛車角をさばく。
【第2図は▲3六歩まで】
△4三歩▲6四歩△同飛▲4三歩成△同金▲3三角成△同桂▲8二角△6六歩▲同金△同飛▲同銀△3九角
▲3三角成で▲4四歩は△同角▲同角△同飛と飛車をぶつけて後手良し。本譜、伊藤は角交換してから▲8二角と打ち込んだが、△6六歩の突き出しが厳しい。最後の△3九角が飛車と銀の両取りだ。このあとも伊藤が入玉模様で粘り熱戦が続いたが、正確に寄せ切った上田が挑戦権を手に入れた。
名局賞特別賞
里見と上田はこれまでに19度の対戦があり、里見の14勝、上田の5勝。このうち13戦が2013年の第39期ユニバーサル杯女流名人位戦五番勝負と第6期マイナビ女子オープン五番勝負、2017年の第43期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負という3度のタイトル戦での対戦となっている。いずれも里見の防衛、または奪取という結果に終わってはいるものの、第39期女流名人位戦と第43期女流名人戦の五番勝負はどちらもフルセットの大熱戦で、今回上田がタイトルを奪取する可能性も十分だろう。
二人とも居飛車振り飛車どちらも指すので、戦型は相居飛車から相振り飛車まで考えられる。特に里見の振り飛車に上田が居飛車の持久戦を選択することが多く、居飛車と振り飛車の対抗型を多く見ることができそうだ。またこの二人の将棋は評価が高く、第39期女流名人位戦第5局と、第43期女流名人戦第5局は将棋大賞のうちの名局賞特別賞を受賞している。序盤から終盤まで、一手一手レベルの高いねじり合いをご期待ください。
第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負第1局は7月4日、「東京・将棋会館」にて開幕する。