痛恨の敗局【瀬川晶司六段編】(5)わかってはいるけど治らない

痛恨の敗局【瀬川晶司六段編】(5)わかってはいるけど治らない

ライター: 大川慎太郎  更新: 2020年02月28日

前回のコラムはこちら:(4)冴えがなかった終盤戦

第29期竜王戦ランキング戦6組準々決勝 VS近藤正和六段戦

わかってはいるけど治らない

▲7五桂に△8四歩と突いた第10図は先手が勝勢です。先手玉は絶対に詰まない、いわゆる「ゼ」の形なのが大きいんです。ただこちらも完全にあきらめたわけではなく、ずっと潜在的にあった▲7一角成という有力な手を指してきたら、△同金▲同成銀右に△2九馬と自陣に利かせて頑張るつもりでした。

ですが近藤さんは正着を指してきました。▲7一成銀右。一見、遅いようですが、△7九銀が詰めろにならないことを見越しています。

【第10図は△8四歩まで】

16分考えて△7九銀と形作りに出ました。負けと分かっていながら時間を使ったのは、自分に負けを言い聞かせていたからです。もちろん後悔もしていました。なんでこの将棋が負けになっちゃったんだろう、と。

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▲7九同銀△同金▲同角△7八銀▲8三金(投了図)で投げました。以下は△同金▲同桂成△同玉▲7二銀△7四玉▲7五金までの即詰みです。

【投了図は▲8三金まで】

50代も精一杯指す

あまりにひどい逆転負けを喫したので、投了してすぐに「なんで投げなかったの? 普通は投げるでしょ」と言ってしまいました。もちろん近藤さんと親しい間柄だからで、ほかの棋士にそんなことは言いません。「いやー、ゴメンゴメン」と謝ってきましたが、満面の笑顔で少しイラっとしました(笑)。

もちろん自分がいけないんです。近藤さんには奨励会時代からこういう逆転負けを何回もしているんだから、絶対に油断をしちゃいけなかった。

ここまでお読みいただい方はよくわかると思いますが、まさに自分の甘さを象徴する一局です。わかってはいるんですけど、簡単には治らないんですよねえ。

前期の2018年度は3年ぶりに勝ち越すことができましたが、今年度はいまのところ負け越し。私は3月で50歳になります。残りの現役生活を意識するようにもなりました。甘さはなかなか克服できませんが、うまく付き合いながらまだまだ奮闘したいと思います。

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※写真はすべて2015年7月31日 第74期順位戦C級2組3回戦 瀬川昌司五段 対 上村亘四段戦で撮影(段位は当時)
撮影:常盤秀樹

痛恨の敗局

大川慎太郎

ライター大川慎太郎

出版社退社後、2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著作に『将棋 名局の記録』(マイナビ出版)、『不屈の棋士』(講談社現代新書)などがある。趣味は音楽鑑賞、サッカー観戦。映画、海外ドラマも好きで、最近はデヴィッド・フィンチャー監督の「マインドハンター」に度肝を抜かれた。

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