ライター相崎修司
渡辺永世棋王の8連覇達成か、新鋭・本田五段の初戴冠か。第45期棋王戦五番勝負の展望は?
ライター: 相崎修司 更新: 2020年01月31日
第45期棋王戦が2月1日より、石川県金沢市で開幕する。棋王位を7連覇中の渡辺明棋王に挑戦するのは、新鋭の本田奎五段である。本田五段は2018年10月にプロ入りしたが、初参加となる棋王戦でいきなり挑戦権を獲得し、大きな注目を集めた。初参加棋戦における挑戦権獲得は史上初の快挙である。
今期の本田は予選1回戦で勝又清和六段を破ると、以降は中村修九段、阿部光瑠六段、永瀬拓矢二冠、増田康宏六段を連破して挑戦者決定トーナメントに進出した。棋王戦において初参加での挑決トーナメント進出は藤井聡太七段と佐々木大地五段が第43期で達成して以来のケースとなる。
トーナメントでも本田の勢いは止まらず、行方尚史九段、佐藤天彦九段、村山慈明七段らの実力者を下してベスト4入り。棋王戦はベスト4から敗者復活戦があるが、その恩恵を受けることなく丸山忠久九段、広瀬章人八段を負かして挑戦者決定戦進出を果たす。
挑戦者決定戦の第1局では、前年度の最多勝利賞を受賞した佐々木五段に敗れたが、第2局で雪辱し、檜舞台への登場を果たした。
本田五段 撮影:常盤秀樹
本田の強さの源泉はどこにあるか。一つは相掛かり戦法だろう。今期の棋王戦では先手番を持つと、相手が飛車を振らない限り相掛かりとなっている。また後手番でも構わずに相掛かりを受けて立つ。
もう一つは棋王戦における「持ち時間4時間」という舞台設定か。この持ち時間で行われる棋戦は棋王戦の他に王位戦があるが、本田はこちらでも無敗のまま王位リーグ入りを果たした。持ち時間4時間の棋戦ではここまで16勝1敗の勝率0.941と、勝ちまくっている。棋王戦五番勝負と並行して行われる王位リーグでの戦いぶりも、番勝負の行方を占う材料となりそうだ。なお初戦では豊島将之竜王・名人と当たることが決まっている。
本田五段 撮影:常盤秀樹
新鋭の挑戦を受けて立つ渡辺棋王はとみると、7連覇を果たした前期と比較して調子は変わっていないどころか、あるいは上回っているかもしれない。王将戦七番勝負と並行して番勝負を戦うのは昨年と同じだが、他棋戦を見ると、棋王戦の決着を引き継ぐ形で行われる名人戦ではすでに圧倒的強さで挑戦を決めており、また同時期の叡王戦でも挑戦者決定戦進出を果たしている。気になるのは勝ち過ぎることで生じた対局過多くらいだろうか。本人も自身のブログで「日程的には厳しい」と書いている。昨年の2月は8対局と、週2局ペースでの対局だったが、今年はどうなるだろうか。
渡辺棋王 撮影:八雲
また、渡辺が年下の棋士と番勝負を指すのは今回が8度目(過去の対戦は15年度竜王戦の対糸谷哲郎八段戦、15年度棋王戦の対佐藤天彦九段戦、16年度棋王戦の対千田翔太七段戦、17年度棋王戦の対永瀬拓矢二冠戦、18年度棋王戦および19年度王将戦の対広瀬章人八段戦、19年度棋聖戦の対豊島将之竜王・名人戦)となるが、現在進行中の王将戦を除くと、1度も年下棋士に番勝負では負けていない。後輩への分厚い壁となっているのだ。
本田にとっては厳しい戦いとなることが予想されるが、棋王戦の開幕局が渡辺―本田の初手合いとなる。上記の後輩で、番勝負開幕局が初手合いだったのは千田七段だけであり、その千田は敗れたとはいえ2勝3敗とあと一歩まで追い詰めた。絶対王者とはいえ、未知の相手の対応へ苦慮する可能性がないとは言えない。また同じく持ち時間4時間の舞台である王位戦で渡辺のリーグ入りを阻止したのが佐々木だったことは、本田にとってのプラス材料となり得るだろうか。
戦型予想についてだが、まず本田が先手の時はほぼ相掛かりで確定だろう。本田が公式戦で先手を持ったのは30局ほどだが、そのうちの9割が初手▲2六歩であり、当然ながら相掛かりへの進行率が最も高い。そして後手番を持った渡辺が初手に▲2六歩を突かれた前例は120局ほどだが、そこから相掛かりに進行したのが30局ちょっとで、これは角換わりや横歩取りと比較しても、数としては多い。敢えて避けるということは考えにくい。
渡辺棋王 撮影:八雲
対して渡辺が先手の時がどうか。過去に渡辺の先手番は500局ほどあるが、そのうち初手に▲2六歩を突いたのは100局にわずかに足らないくらいである。無論▲7六歩が400局と、圧倒的多数派だ。そこから矢倉、角換わり、横歩取りなど、戦型の進行はより取り見取りだが、渡辺の初手▲7六歩勝率はほぼ7割であり、これは自身の通算勝率と比較しても3分以上は高い。よって本田の後手番対策がどうなるかということに注目が集まりそうだ。
永世棋王が8連覇を達成するか、新鋭が棋王戦ドリームを実現するか。要注目の五番勝負が始まる。