ご当地アイドルから、大盤解説でのおやじギャグまで。渡部愛VS里見香奈、女流王位戦第3局の裏側をご紹介!

ご当地アイドルから、大盤解説でのおやじギャグまで。渡部愛VS里見香奈、女流王位戦第3局の裏側をご紹介!

ライター: 山口絵美菜  更新: 2019年06月13日

挑戦者・里見香奈女流四冠が先勝して幕を開けた第30期女流王位戦五番勝負。北海道での第2局は渡部愛女流王位が制し、地元で白星を飾りました。五番勝負の要となる第3局の舞台は福岡県飯塚市。初防衛に王手をかけるのか?復位にあと1勝と迫るのか?現地大盤解説の模様をお届けします!

対局前日

5月28日、大阪は雨。関係者は新幹線「さくら」に乗り込み、雨雲とすれ違うように博多へ。東京発の関係者は飛行機で向かいます。曇天の博多からバスに揺られて1時間。福岡県飯塚市に到着です。飯塚市は先の第77期名人戦七番勝負第4局の舞台にもなったゆかりの深い地で、筑豊で最大の人口を擁します。

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旧伊藤伝右衛門邸の庭園(撮影:山口絵美菜)

対局場はそこから車で10分程の距離にある「旧伊藤伝右衛門邸」。「筑豊の炭鉱王」伊藤伝右衛門が2014年上半期にテレビ放送された「花子とアン」に登場する白蓮さんのために改築した邸宅です。飯塚市の有形文化財であり、ツツジの花が鮮やかに咲き誇る庭園は国の名勝に指定されています。白蓮さんの居室である二階は銀箔で彩られた襖など細部まで作りこまれており、豪華絢爛。閉館時間間際まで観光客の姿が絶えず、閉館後に検分が行われました。

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旧伊藤伝右衛門邸の前で撮影に応じる対局者の2人(撮影:山口絵美菜)

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室内の様子(撮影:山口絵美菜)

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検分の様子

夕刻より、のがみプレジデントホテルにて前夜祭。ステージには筑豊ご当地アイドルの「Smile」が登場し、地名がたくさん盛り込まれた「Smile」等2曲を披露し、駆けつけたSmileファンも含め大盛り上がり。その後、渡部女流王位が「内容の良い将棋をお見せできるように頑張ります」里見女流四冠が「自分の力を精一杯出し切れるよう、盤上に集中して頑張りたい」と意気込みを述べました。

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ご当地アイドル「smile」

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「smile」のメンバーから花束を受け取った対局者の2人

第30期女流王位戦五番勝負第3局 対局当日

5月29日、福岡は晴れ。定刻である9時を迎え、立会人である豊川孝弘七段の合図で対局開始。瞬く間に手が進み、戦型は予想通りの対抗形へ。三間に飛車を振った里見女流四冠に対し、渡部女流王位が急戦か、持久戦か、どちらの策をとるかに注目が集まります。

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対局開始

のがみプレジデントホテルでは午前中に地元の支部の方を対象とした指導対局が行われ、豊川七段と私・山口が指導に当たりました。

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指導対局の様子

そうこうするうちに、両対局者に午前中のおやつが出されます。今回の記録係である藤井奈々女流1級にもおやつが出され、「対局者よりも量が多い」と話題に。前日のうちにおやつの注文を済ませていた藤井女流は「匂いがするといけないので、おやつはすぐに食べるようにしています」と笑顔を見せていました。

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里見香奈女流四冠のおやつ

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渡部愛女流王位のおやつ

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藤井奈々女流1級のおやつにはアイスコーヒーも追加された

盤上は早くも中盤に。里見女流四冠の▲3六歩を見て、30分近く考えた渡部女流王位が△5五歩と仕掛けました。控室では「おー」と声が上がり、「後手が負けたとしたら、この手がターニングポイント」と検討が進みます。一気の勝負になるかと思いきや、里見女流四冠が穏やかな順を選んで長い展開に。

大盛り上がりとなった大盤解説会

昼食休憩を終え、午後3時からは、のがみプレジデントホテルで大盤解説会が始まりました。拍手で迎えられた解説の豊川七段のヘアスタイルはなんと丸刈り。先日飯塚市で行われた名人戦第4局の際に封じ手を△4三銀と予想し「外したらマルガリータ」と話していた豊川七段。しかし封じ手は△8六歩。そのことがネットでも話題となり、帰宅後御子息に「お父さん丸刈りにするの?」と聞かれたのだとか。「それで丸刈りにしないわけにはいかないですよね」と豊川七段。大盤解説会では次の一手が2回出題され、「これはこの一手!外したらマルガリータ・・・といっても、もうかけられないからね」と会場に笑いを巻き起こしていました。

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丸刈りで登場した豊川孝弘七段

将棋は里見女流四冠を持ちたいという声が多い中、渡部女流王位が引き離されないように趣向を凝らしていく展開に。中段に金がのし上がり、飛車を転換する構想に「さすがです」と豊川七段。「同志社大学」「遮断法人」「青野とるいち」垂れ歩の「たらちゃん」など豊川七段の代名詞ともいうべきおやじギャグを披露し、そのたびに会場からは大きな笑い声が聞こえてきました。聞き手は私・山口が務めたのですが、「ここでは渡部さんがイナバウアーだね」「でもイナバウアーはのけぞる技だから違うか」「山口さん、意味わかる?」と問いかけられてしばし戸惑い。「イナバウアーだから、荒川静香さん、つまりこの局面では荒く暴れていく順が必要ということ?」と考えていたのですが、正解は「捻り」。おやじギャグの奥深さが身に沁みました。

80人キャパの会場はだんだんと席が埋まっていき、夕方には満席に。学校帰りの小学生の姿も見えました。中には東京から駆け付けたファンの方も。大盤に熱視線が注がれます。

対局の行方は?

互いに持ち時間を投入し、ねじり合いの中盤戦。そして終盤の入り口が見えてきた局面で次の一手が出題されましたが、この後少し雲行きが怪しくなっていきます。形勢はずっと里見女流四冠が優位と言われていましたが、渡部女流王位が盛り返し、互いに角を取り合って難解に。そして渡部女流王位が一分将棋に突入。後手の玉は右辺に逃れ、先手の玉が6段目まで追われ、手に汗握る展開になりました。里見女流四冠が放った▲1六角に「名人戦を思い出しますね」と豊川七段。先日飯塚市で行われた名人戦第4局では豊島将之二冠(当時)が1日目の封じ手前に▲1六角と放って千日手を打開していました。その角が遠く後手玉を睨み、渡部女流王位は必死に迫るも受ける術がなくなりました。▲5三歩成に投了を告げ、149手の大熱戦は里見女流四冠の勝利で幕を下ろし、会場からは両者をたたえる大きな拍手が送られました。

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第3局は里見香奈女流四冠が勝利を挙げた

2勝目を挙げ、女流王位への復位にあと一勝と迫った里見香奈女流四冠。第4局は6月13日に徳島県徳島市「JRホテルクレメント徳島」にて行われます。ぜひご覧ください!

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おまけ。飯塚市より関係者に贈られた飯塚市の品々。日本酒「ボン・デ・クリック」と豆乳をベースとしたリゾットとネギ。(撮影:山口絵美菜)

※山口絵美菜女流1級撮影以外の写真は女流王位戦中継ブログより(撮影:飛龍)

山口絵美菜

ライター山口絵美菜

1994年5月生まれ、宮崎県出身の女流棋士。2017年に京都大学文学部を卒業し、在学中に研究した『将棋の「読み」と熟達度』を足掛かりに、将棋の上達法を模索している。
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。

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