奨励会を退会したきっかけは?―加藤桃子女流三段が語る、今の気持ち【女流棋士とデザート】

奨励会を退会したきっかけは?―加藤桃子女流三段が語る、今の気持ち【女流棋士とデザート】

ライター: マツオカミキ  更新: 2019年05月15日

女流棋士とデザート

ローソンのプレミアムロールケーキを食べながら、和やかな雰囲気で女流棋士にお話を聞くこのシリーズ。今回は加藤桃子女流三段のインタビューをお送りします。12年間在籍した奨励会を退会した胸の内や、4月から女流棋士になって感じたことなどをお話いただきました。

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「明日で終わりなんだな」奨励会最後の対局前日の心境

――プレミアムロールケーキ、召し上がったことはありますか?

学生時代、将棋道場からの帰り道によく買ってました。ホッとするような安心感のある味で、おいしいんですよね。なんだか、見た目がちょっと変わりましたか? スポンジの内側の層、高校生の頃に食べた時はなかったような気が‥‥!

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――えっ、すごいところに気がつきましたね! プレミアムロールケーキは何度かリニューアルしているのですが、以前のリニューアル時にスポンジの内側の焼き目を残すようにしたそうです。

やっぱりそうですよね、当たってて良かった~! 焼き目があると、少し香ばしさも感じますね。

――小さな変化も見逃さないなんて、さすが女流棋士です‥‥。

高校生の頃は頻繁に食べていたので、その時の記憶と何か違うなぁと思って。ちなみに当時は、プレミアムロールケーキにイチゴが入っている日を狙って買ってましたよ!

――毎月22日のショートケーキの日は、イチゴが入っているんですよね。イチゴ、お好きなんですか?

イチゴも含め、フルーツが大好きなんです。フルーツが入ったデザートを特別な時に食べることにしています。対局の前日に自分を奮い立たせるために食べたり、対局後に「よく頑張りました」という気持ちで食べたり。最近だと、奨励会最後の対局前日に、「明日で終わりなんだな、頑張るぞ」と思いながらイチゴゼリーを食べました。

――3月末で奨励会を退会されましたもんね。今回は、その時の心境などもお伺いしたいです。

人生の半分もの間、奨励会で戦ってきた自分を褒めたい

――奨励会を退会しようと決めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

もともとは、年齢制限のギリギリまで戦い抜こうと思っていました。しかし、プレッシャーやストレスで半年ぐらい前から眠れなくなるなど、身体に支障が出始めてしまって‥‥。このままでは、自分にとっても、将棋に対する姿勢としても、良くないなと。

――そうだったんですね。決断したのは、いつでしたか?

決断したのは、3月中旬ぐらいでした。自分の将棋の弱さを認められた時に初めて、「奨励会を退会する」と決断できたように思います。

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決断してからは前向きに考えられるようになり、本来の「明るい自分」を取り戻しました。今は、新しい世界へのワクワクした気持ちでいっぱいです!

――奨励会に入会したのは12歳の時でしたっけ?

そうなんです。12歳の時に奨励会に入会して、今は24歳なので‥‥。私、人生の半分もの間、奨励会に居たんだなって。よく頑張ったな、と思いました(笑)。

――人生の半分‥‥!

早い人なら3年ぐらいで抜けていく奨励会で、12年間も。結局四段には上がれなかったけれど、それでも自分を褒めてあげたいと思います。

――師匠である安恵照剛八段に「退会する」と伝えた時は、何か言われましたか?

「残りの奨励会での対局を楽しみつつ、全力を尽くしなさい」と言っていただいたので、その教えは守ろうと思って全力で指しました。それでも、最後は連敗で終わってしまいましたが(苦笑)。

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普段は放任主義の師匠ですが、私が苦しんでいる時は必ず相談に乗ってくれます。師匠から頂く言葉は胸に響くものばかりで、これまで何度も支えられてきました。師匠は、私の可能性をいつも信じてくれるんですよ。四段に上がることも、私以上に「できる」と信じてくれていました。そうやって信じてくれる人の存在は、とても心強かったです。

――特に印象に残っているアドバイスはありますか?

「桃子ちゃんなら、頑張ればいけるよ!」と熱く前向きにアドバイスしてくれるのが、自分にとってはプラスになっています。私の場合、負けが続くような苦しい時期は気持ちが落ち込んでしまうのですが、師匠は「落ち込む感覚」がわからないみたいで、いつでも前向きなんです(笑)。でも、前向きな師匠から精神面でのアドバイスをもらうことで、モチベーションを上げることができました。

――師匠の前向きな考え方にも、支えられてきたのですね。

そうですね。奨励会では辛い時期が何度もあったのですが、そのたびに支えていただきました。6級に2年も停滞した時や、初段から1級に落ちた時など‥‥。師匠に励ましていただいたからこそ、ここまで頑張ってこれたんだと思います。

「自己肯定感が低かった」自信を持てるようになったきっかけ

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――奨励会を退会されてからまだ日は浅いですが、お休みなどリフレッシュする時間は取れましたか?

先日お休みを取れたので、私が大好きなキャラクター「コウペンちゃん」の原画展を見てきました(※4月10日までの期間限定)。すごく和んで、癒されてきました!

――SNSで人気のキャラクター・コウテイペンギンのコウペンちゃん、ですよね。ちょっとしたことでも「えらい!」って肯定してくれる。

そうです! 私、自己肯定感がもともと低いので、コウペンちゃんの言葉は私にとって救いなんです‥‥(笑)。

――自己肯定感が低い、というのは意外でした! 勝負をするのが仕事だから、やはり女流棋士の方々は自信があるのかと‥‥。

いえ、私は全然、自信が持てなくて‥‥。もちろん勝負の世界なので顔には出さないようにしますが、心の中では自信がなくて不安だったりします。でも、コウペンちゃんと出会ってからは、自己肯定感を高めることが大切だと思うようになったんです。おかげで、勝負においてもプラスに考えられるようになりました。

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――お休みの日は、そうやってお出かけすることが多いですか?

そうですね、温泉や整体に行って体のメンテナンスをしたり、奨励会の仲間とダーツやカラオケに行ったり。あと、今はバレエを習っているので、週に一回教室へ通っています。

――どうして、バレエを?

もともと5歳の頃に習っていたのですが、やめてからもずっと「またやりたいな」と思っていて。最近引っ越しをして、近所にバレエスタジオがあったので、通い始めました。バレエの先生が熱血系なので、すごく楽しく教えてもらっています。

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先日、バレエの先生から「練習で120%の力を出せば、本番で100%の力が出せると言われがちだけど、実際は80%しか出せないから練習は140%の力でやりなさい」って言われたんですよ。私には、まだ140%の世界はちょっとわからないけど‥‥(笑)、でも意識することは大切ですよね。

――将棋でもバレエでも良い指導者の方と出会えたのですね!

本当にそうですね。今気づきましたが、バレエの先生も師匠の安恵八段も熱血系なので、そういう教えられ方が好きなのかもしれません(笑)。

「プロとしての自覚を」加藤女流三段の決意

――4月から女流棋士になって、何か変わりましたか?

自分にとっては「新しい世界」なので、初心に戻り、たくさんのことを学んで吸収したいです。それと「ちゃんとしなきゃ!」とも思っています。

――ちゃんとしなきゃ、というと?

女流棋士になるにあたって、これまでずっと「プロとしての自覚」が欠けていたことに気づきました。今までも女流棋戦には出ていましたが、やはり「まだ自分は奨励会員だからプロではない」という気持ちがどこかにあったと思います。これからは、「修行中の身ではなくプロなんだ」と自覚しなきゃいけないですね。

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――これから、どのような女流棋士を目指していきたいですか?

まだ先のことは考えられていないのですが、新しい世界なので、とりあえず様々なことに挑戦してみようと思います。奨励会時代は将棋だけに打ち込む日々でしたが、女流棋士になったからには、対局はもちろん普及面でも多くのことに挑戦して、自分には何ができるのかを見極めていきたいな、と。

――将棋や普及以外に、何かやってみたいことはありますか?

そうですね‥‥。私、「知的に見られたい」という気持ちがありまして‥‥(笑)。

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――知的に。どうしてでしょう?

女流棋士には、知的なイメージがあると勝手に思っているんです。でも私は、これまで本当に将棋漬けの毎日だったので、何も世間のことを知らないというか...。将棋以外のことに関しても、いろいろ勉強しなければならないと思います。

‥‥って、こう言ってしまったら、もう知的なイメージ持ってもらえないですよね(笑)。あと数年のうちには「加藤桃子は、本当は知的なんだ!」と思ってもらえるよう、頑張ります!

まとめ

にこやかで明るいイメージがあった加藤女流三段ですが、奨励会を退会するまでの葛藤なども、飾らない言葉で真摯にお話してくださったのが印象的でした。取材日は奨励会退会直後の4月上旬でしたが、まさに「これから」に対してワクワクしている感じが伝わってきましたよ! また、「プレミアムロールケーキ」を差し入れてくれたローソンクルーのあきこちゃんには、素敵なメッセージをいただきました。

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取材協力加藤桃子女流三段

1995年3月9日生まれ。静岡県牧之原市出身。安恵照剛八段門下。 奨励会退会後、2019年4月1日に女流三段で女流棋士デビュー。 タイトル戦登場は13回。獲得は女王4期、女流王座4期の合計8期。

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マツオカミキ

ライターマツオカミキ

2014年からライターとして活動する平成元年生まれ。28歳にして初めて将棋に触れました。将棋を学びながら、初心者目線で楽しさをお伝えします!普段は観光地や企業、お店を取材して記事を執筆中。

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