ライター武蔵
藤井聡太七段が2連覇達成か、渡辺明棋王らトップ棋士が阻止するか。第12回朝日杯将棋オープン戦の展望
ライター: 武蔵 更新: 2019年02月16日
2019年2月16日(土)に第12回朝日杯将棋オープン戦の準決勝、決勝戦が開催される。勝ち進んできたのは、渡辺明棋王と行方尚史八段、千田翔太六段、そして前回の覇者であり、現在最年少棋士でもある藤井聡太七段。10代から40代の実力者がそろった。前期は藤井五段が、準決勝で羽生善治竜王、決勝で広瀬章人八段(いずれも肩書は当時)を破り、全棋士参加の棋戦で史上最年少優勝を果たして世間を賑わせた。今回の朝日杯は果たしてどうなるのか。展開を予想してみよう。
前期、全棋士参加の棋戦で史上最年少優勝を果たした藤井五段(肩書は当時) 撮影:常盤秀樹
まず、左の山から勝ち上がったのは渡辺棋王。居飛車党で堅い玉形を好み、細い攻めをつなげる技術は棋界トップクラス。今期順位戦では1期でA級復帰を果たし、現在挑戦中の第68期王将戦七番勝負でも3連勝中。第63期以来の王将位復冠まであと1勝としている。順位戦B級1組以上在籍のトップ棋士を相手に、怒涛の15連勝を記録したのも記憶に新しい。今期の成績は32勝8敗(0.800)。棋士人生初の負け越しで終えた前年度の不調が嘘のように、勝ち星を重ねている。まさに完全復活といっても過言ではない。
王将戦、棋王戦ともに王手をかけている渡辺棋王 王将戦中継ブログより
そんな絶好調の渡辺棋王と対戦するのは、今期勝率7割超えの千田六段。今期の成績は、33勝9敗(0.786)。居飛車の力戦を得意とし、定跡にとらわれない新しい発想でファンを魅了する。また、AIを使った研究の先駆者は、間違いなく千田六段だ。いち早くAIの感覚を取り入れた将棋は、我々に驚きと将棋の新たなる可能性を示した。両者の対戦成績は、渡辺棋王の3勝、千田六段の2勝。これは第42期棋王戦五番勝負での成績で、この番勝負を制した渡辺棋王は永世棋王の有資格者となった。
第42期棋王戦は、渡辺棋王と挑戦者・千田六段がフルセットを戦った。写真は第5局 撮影:常盤秀樹
続いて、右の山から勝ち上がってきたのは、第1回の朝日杯で優勝を果たした行方八段。今期の成績は18勝15敗(0.545)。棋風は居飛車党の本格派。鋭い攻めを持ち味としながら、粘り強い指し回しで終盤力にも定評がある。A級在籍経験もあり、第73期順位戦A級ではプレーオフを制して名人戦七番勝負で羽生善治名人(当時)に挑戦した。しかし、棋戦優勝は第1回の朝日杯から遠ざかっている。ここは40代の意地を見せたいところだろう。
第1回朝日杯将棋オープン戦で優勝した行方八段 撮影:日本将棋連盟広報
一方、対する藤井七段も居飛車党。詰将棋を根底とした読みの深さには定評があり、終盤力を生かした踏み込みは他の棋士も一目置いている。多くのメディアから取り上げられ、その人気はとどまるところを知らない。先日、第77期順位戦C級1組で順位戦初黒星を喫し、中原誠十六世名人の記録を抜く順位戦連勝記録の達成とはならなかったが、他力ながら昇級の目を残しており、その他の棋戦も順調に勝ち上がっている。今期の成績は38勝7敗(0.844)で、今年度の勝率ランキングは1位、勝数ランキングでも2位に食い込むなど、その快進撃は止まらない。朝日杯では、過去に羽生九段が3連覇(第7回から第9回)を達成しており、その記録に近づけるかどうかも、要注目である。
前期では準決勝で羽生竜王を破った藤井五段(いずれも肩書は当時) 撮影:常盤秀樹
両者は公式戦で相まみえるのは初めて。しかし、AbemaTVの番組企画「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」では対戦があった。藤井七段から「非常にかっこいい棋士」として行方八段が対戦相手に指名され、藤井七段が非公式戦ながら勝ちを収めた。行方八段にとっては、公式戦で借りを返す絶好の機会といえる。
次に、戦型について考えてみよう。今回登場する4棋士は、いずれも居飛車党で角換わりを得意としている。渡辺棋王は裏芸で振り飛車を用いることはあるものの、非常に高い確率で相居飛車、それも角換わりが予想される。現代では角換わりの4八金、2九飛型(6二金、8一飛型)が主流になっている。将棋のスピード化時代を象徴するような早い戦いや、逆に手待ち作戦でじっくりと落ち着いた展開も考えられる。この辺りは棋風が出るところで、各棋士の特徴が存分に発揮されることになるだろう。
もうひとつ気になるのは振り駒で決まる先後の手番だ。近年は、将棋界全体でも先手の勝率が高い傾向にある。各棋士の直近20局の先手番での勝敗を調べてみると、渡辺棋王18勝2敗、行方八段11勝9敗、藤井七段18勝2敗、千田六段15勝3敗2千日手。なかでも、渡辺棋王と藤井七段の先手勝率は、上記の成績を見ても群を抜いている。振り駒で先手を引けるかどうかも重要なポイントになりそうだ。
以上、各棋士の棋風や対戦成績などを列挙して傾向を考えてみた。朝日杯は持ち時間40分のチェスクロックを使用し、切れたら1手60秒未満の着手で戦う。時間の短い棋戦だからこそ、終盤戦は白熱した、手に汗握る攻防を楽しめるだろう。生の対局に触れられ、盤上で静かに火花散る光景を目のあたりにできる対局観戦チケットも完売した。そのことからも、本局の注目度の高さが垣間見える。第12回朝日杯将棋オープン戦もいよいよ大詰め。緊張感あふれる頭脳戦、名勝負を期待したい。
※成績は2月13日(水)現在のもの。