ライター山口絵美菜
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。
ライター: 山口絵美菜 更新: 2018年10月02日
中村太地王座に斎藤慎太郎七段が挑戦する第66期王座戦五番勝負。神奈川県秦野市・元湯 陣屋での開幕局は斎藤七段が制しました。中村王座が星を五分に返すのか?斎藤七段が初戴冠に王手をかけるのか?今回は注目の第2局の模様と、現地で行われた大盤解説会・西日本豪雨チャリティーイベントのレポートをお届けします!
勝負の舞台は雨降る京都。現地では関西若手将棋ユニット・西遊棋実行委員会の有志が西日本豪雨チャリティーイベントを行いました。大盤解説、指導対局、脳内将棋トーナメント、チャリティー物販など盛りだくさんなプログラムで、糸谷哲郎八段、稲葉陽八段、大石直嗣七段、船江恒平六段、宮本広志五段、古森悠太四段、室田伊緒女流二段、山口絵美菜女流1級、藤井奈々女流2級の総勢9名が出演しました。
足元が悪い中、会場のウエスティン都ホテル京都には午前中から長蛇の列。12時半に受付が始まると会場はあっという間に満員になりました。女性の方や遠方からお越しの方も多く、本局の注目度がうかがえます。糸谷八段が受付、船江六段が司会進行を務めるという西遊棋のイベントならではの光景に、受付では「糸谷先生!本物だー!」「握手してください!」という声も。
司会を務めた船江六段
船江六段
14時からは指導対局やチャリティー物販も並行して行われました。
指導対局は応募者多数のため抽選となり、始まるや否や大勢のギャラリーがぐるっと取り囲むほどの大賑わい。両対局者の直筆扇子や久保利明王将や菅井竜也王位(現・七段)、豊島将之棋聖(現・二冠)、高見泰地叡王のタイトルホルダー色紙、イベント出演者の色紙が数多く並ぶチャリティー物販ブースは販売開始と同時に多くの人が詰めかけ、あっという間に売り切れ続出。会場の熱気がますます高まっていきました。
15時過ぎからは王座戦恒例の「脳内将棋」のコーナー。王座戦の現局面から棋士が脳内将棋で指し継ぐというもの。現局面を覚え、アイマスクをつけた棋士が一手10秒という過酷な条件のもと指し手を符号で読み上げていきます。糸谷八段、稲葉八段、大石七段、古森四段が参戦し、「負け残り」のトーナメントを行いました。初戦は糸谷八段と大石七段の兄弟弟子対決。目に炎が宿ったアイマスクの糸谷八段とほんわかしたキャラクターのアイマスク姿の大石七段。早々とアイマスクをつけてしまったため、目隠しをしたままじゃんけんで先後を決めることになり、連続あいこの末に先手番を獲得した大石七段が猛攻を仕掛け、糸谷八段がノータイムで指し手を読み上げるという手に汗握る展開になりました。結果は糸谷八段の勝利。感想を求められた糸谷八段が「アイマスクをつけている本人からアイマスクは見えませんが、見えている皆さんからするとなかなかシュールな光景かもしれませんね」とコメントすると「いまさらそれをいうか!」と解説陣から総ツッコミ。和気あいあいとしたやりとりが繰り広げられます。
続いては稲葉八段と古森四段の対局。じゃんけんに負けて後手になった稲葉八段が「頭の中の盤をひっくり返すのに時間がかかるから少し待って」という場面も。お互い10秒ぎりぎりまで考えての応酬が続く中、古森四段が投了を告げると「持ち駒まで答えないと勝ちじゃないですよ!」と解説の糸谷八段・室田女流二段からプレッシャー。稲葉八段がみごと正解し、最終戦は大石七段と古森四段の対決に。糸谷八段と稲葉八段による舌戦の中で古森四段が勝利し、大盛り上がりの脳内将棋トーナメントでした。再開した大盤解説には立会人の淡路仁茂九段や新聞解説の北浜健介八段がゲストとして登場し、じりじりとした中盤戦の解説を進めていきます。その間も会場の座席はぞくぞくと埋まっていき、夕方には立ち見が出るほどに。慌てて座席を増やしましたが、それもあっという間に埋まってしまいました。大盤解説には続いて古森四段と京都在住の藤井女流2級が登場。お互いプロデビュー間もないこともあり、「大盤解説はほぼ初めてです」という古森四段に「私も3回目くらいです」と藤井女流2級。初々しいやりとりが続きましたが「この時はどう指しますか?」という問いかけに古森四段が読みに沈むと「10秒・・・20秒・・・」と藤井女流2級が秒読みをするという場面もあり、会場が笑い声に包まれました。
日が暮れ、夕食休憩の時間。会場では休憩に合わせて「次の一手」が出題されました。候補手は(1)▲2五同飛車(2)▲4七金(3)その他で、集計してみると票が大幅に割れる大混戦。休憩の間も会場のスクリーンには盤上に没頭する中村王座の姿が映し出されていました。
夜になってから来場する方も多く、座席を増やしてもまだまだ足りず、仕切りを外して会場を広げて対応することに。延べ300人を超える方にご来場いただきました。休憩後は稲葉八段と宮本五段が登場し、大盤解説もいよいよ佳境へ。これまで検討陣の見解は先手持ちだったものの、長考に沈む中村王座に「何か誤算があったんですかねぇ」という声があがります。続いて大石七段と京都在住の西田四段の兄弟弟子コンビが登壇。スクリーンに▲4七金が映し出されると「おおっ」と会場はどよめきました。続いて糸谷八段と藤井女流2級にバトンタッチすると夕食休憩の話題へ。「中村王座はうな重を注文されたんですが、召し上がられてないみたいなんですよ」「控室にうな重がそのままあるんでしょうか?」という藤井女流2級に「え?うな重を食べない?」と驚く糸谷八段。うな重の行方が注目される中、解説は宮本五段と私・山口に交代。「さっき控室にいたら、うな重食べませんか?って聞かれましたよ~」と宮本五段。最終的には記者さんが召し上がることになったそうです。そうこうするうちに局面は終盤へ。「斎藤七段に流れがきているんじゃないか」と後手持ちの声が多くなっていきます。難解な局面を迎え「次の解説陣が詳しく解説してくれるでしょう!」と糸谷八段・稲葉八段のコンビにバトンタッチし、ハイペースでの解説が繰り広げられました。
中段に逃げ出した中村王座の玉を斎藤七段が寄せきるのか?はたまた中村王座が凌ぐのか?会場の視線が一心に大盤に向けられる中、解説は古森四段と室田女流二段、続いて船江六段と西田四段に交代していき、様々な変化を検討していきます。そしていよいよ最終盤。解説陣の意表をつく勝負手の数々に「全然当たらんな!」と船江六段。するすると逃げ回る中村王座の玉を、斎藤七段の金銀がひたひたと追い詰めていき、会場の熱気は最高潮に。局面が複雑になり接戦になったものの、最後は斎藤七段が抜け出して勝利を収めました。会場での感想戦に先がけて、マイクは糸谷八段と私・山口にバトンタッチ。ほどなくして、割れんばかりの拍手の中、両対局者が迎えられ、大盤での感想戦が行われました。
激闘を終えた両対局者の姿には激闘の余韻がにじんでおり、一局の重みがひしひしと伝わってきました。感想戦の後に抽選会が行われ、長時間にわたる現地大盤解説会・西日本豪雨チャリティーイベントは幕を下ろしました。最後になりましたが、西日本豪雨で被害にあわれた皆様には心よりお見舞い申し上げます。また、日本経済新聞社様、チャリティーイベントにお越しいただいた皆様に感謝申し上げます。
挑戦者の斎藤七段が第2局も勝利し、初タイトルにあと一勝と迫った第66期王座戦。第3局の舞台は宮城県仙台市です。中村王座がカド番を凌ぐのか?斎藤七段がストレートで奪取するのか?注目の第3局は10月2日です!
写真撮影:山口絵美菜、虹
ライター山口絵美菜