ライター相崎修司
将棋界の未来を担う「東西の王子対決」 中村太地王座に斎藤慎太郎七段が挑む、第66期王座戦五番勝負の見どころとは?
ライター: 相崎修司 更新: 2018年09月20日
中村太地王座に斎藤慎太郎七段が挑む、第66期王座戦五番勝負が進行中。両者の持つ洗練された雰囲気から「東西の王子対決」などとも言われている。第1局は挑戦者の斎藤が制したが、この後の五番勝負がどうなるかを占ってみたい。
第65期王座戦五番勝負第1局は、終盤に形勢が二転三転する激戦だった。撮影:常盤秀樹
まずは中村王座。前期に羽生善治王座(当時)から奪取し、自身初のタイトル獲得。今期が初の防衛戦となる。
第65期王座戦五番勝負第4局終局直後の模様。この対局に勝って悲願の初タイトルを中村が獲得。羽生王座から奪取したとあって、中村自身感慨深いものがあったことだろう。撮影:常盤秀樹
これまで、タイトルを1期でも獲得した棋士は中村を含めて41名。そのうち、自身の初タイトルを防衛できたのは15名(初の防衛戦が進行中の中村および菅井竜也王位、防衛戦が始まっていない高見泰地叡王・豊島将之棋聖を除く)。
裏を返せば22名のタイトル経験者が初防衛に失敗しているのだ。この中には中村の師匠である米長邦雄永世棋聖(故人)や、将棋界の生けるレジェンド・加藤一二三九段の名もある。最強世代を代表する羽生竜王・佐藤康光九段・森内俊之九段の3名も、初タイトルの防衛にはことごとく失敗している。
なぜ初タイトルの防衛が難しいかを考えてみよう。まずタイトル獲得の前後では取り巻く環境が全く異なってくる。タイトルホルダーとしての仕事や広報活動がけた違いに増えるのが一つの理由だ。そうなると将棋の研究に充てる時間が減るのはやむを得ず、結果としてタイトル獲得後に調子を落とす棋士も多い。
また、「初の防衛戦」なので、タイトルホルダーとはいってもそれほど場数を踏んでいるわけではない。事実、上記の22名の防衛戦では、自身よりはるかに場慣れしている挑戦者に名を成さしめてしまった、というパターンが多い。
今期の中村王座はどうか。前期の決着局から今期の開幕局の間、他棋戦の公式戦を22局指しているが、10勝12敗と負け越している。これは本人にとっても不満だろう。ただ、タイトル戦の場数では4度目となる中村に対して、斎藤七段は今期が2度目のタイトル戦なので、場慣れという意味では分がある。第1局を落とした直後に、王将戦では斎藤を破り、リーグ入りを決めたのも上昇に転じる好材料か。
対して、開幕戦を飾った斎藤はどうか。タイトル戦の舞台は昨年の棋聖戦に続く2度目の登場となる。上記41名のうち、自身2度目のタイトル戦で初のタイトルを獲得したのは13名いる。升田幸三実力制第四代名人や中原誠十六世名人、渡辺明棋王がそうだ。師弟関係で見れば斎藤の大伯父にあたる内藤國雄九段や森安秀光九段も、自身2度目のタイトル戦で、初タイトルを獲得している。また斎藤の前期棋聖戦決着局から今期王座戦開幕局までの公式戦は36勝21敗と、こちらはまずまずの好勝率だ。
第65期王座戦挑戦者決定戦の時の斎藤七段。関西若手棋士の中でも期待の高い斎藤七段。果たして、初のタイトル奪取となるか?撮影:常盤秀樹
王座戦という舞台で見ると、タイトル戦となった第31期以降、過去の35期では、奪取が9期に対して防衛が26期と、こちらはタイトル保持者が圧倒している。王座戦でタイトル戦19連覇を達成した羽生善治(竜王)の存在が大きい
その絶対王者を破って戴冠した中村が長期政権を築けるかどうか。第1局を落としたのは防衛への黄色信号だが、今期は特に各タイトル戦における先手番勝率が高い。先手番の第2局をキープできれば、星を五分に戻すだけでなく、場数の違いがものを言うかもしれない。
今期五番勝負緒戦を制したのは、挑戦者・斎藤七段だった。この勢いをシリーズ中維持できるか?それとも中村王座の巻き返しなるか?第2局以降も目が離せない。撮影:睡蓮
斎藤にしてみれば第1局を制した勢いに乗ったまま、3連勝でタイトル奪取を目指すという気概で臨んでくるだろう。いずれにせよ、20日に行われる第2局が大きな意味合いを持ってくる。直接対決における過去の戦績は2勝2敗と全くの五分(上記の王将戦まで)だ。将棋界の未来を担う若者の熱き戦いに注目したい。