プロ棋士の段位はどうやってあがる?藤井聡太四段の昇段条件とは

プロ棋士の段位はどうやってあがる?藤井聡太四段の昇段条件とは

ライター: 相崎修司  更新: 2017年08月24日

昨年10月のプロデビューから、いきなり29連勝と最多連勝記録を更新し、一躍時の人となった藤井聡太四段ですが、「こんなに勝っても四段から段位は上がらないの?」という疑問を持たれた方もいるかもしれません。

では、プロ棋士の段位はどのように上がるのでしょうか。今回は「段」が上がる仕組みと最も早く昇段するにはどのような方法があるのかを見ていきます。

プロ棋士のスタートは四段ですが、まず四段になるためには奨励会を通過するか、プロ編入試験で既定の成績を挙げるか、いずれかの条件が必要となります。詳しくはこちらに。

では、四段から五段に上がるための条件とは何でしょう。四段から五段へ上がる昇段規定には以下の5つがあります。

1.竜王ランキング戦連続2回昇級または通算3回優勝
2.順位戦C級1組昇級
3.タイトル挑戦
4.全棋士参加棋戦優勝
5.公式戦100勝

このうち、公式戦100勝はわかりやすいですね。四段になってから100局勝てばいいのです。舞台が公式戦であればよく、相手がアマチュア・女流棋士・奨励会員でも問題ありません。

タイトル挑戦と全棋士参加棋戦優勝もお分かりいただけると思います。なお全棋士参加棋戦とは現時点で朝日杯将棋オープン戦、銀河戦、NHK杯戦の3つです。そしてタイトル戦のうち、最高棋戦の竜王戦は特別で、こちらは挑戦を決めると一気に七段まで昇段します。先日、竜王戦の本戦トーナメントに進出したことでも話題になった藤井四段ですが、もし竜王挑戦を果たしていたら、四段から五段、六段を飛び越えて一気に七段への昇段が決まっていました。

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では、その竜王戦の昇段条件を見ていきましょう。竜王戦は1組から6組まで、6つのランキングに分けられている棋戦です。新四段は最下位の6組に所属します。各ランキングのトーナメントで勝ち上がると(原則成績優秀者4名)1クラス上がりますが、2年続けてランキング戦での昇級(6組→5組→4組、5組→4組→3組など)を果たすか、ランキング戦トーナメントの優勝を通算3回達成すれば昇段となります。ただし四段の時に竜王戦のランキング戦を2回優勝し、その後、五段昇段を果たした後に、ランキング戦の優勝をしても、五段から六段に昇段することはありません。

また竜王戦では2組昇級を果たすと六段、1組昇級は七段という規定もあります。

最後に順位戦での昇段を紹介します。プロ棋士は四段デビューを果たすと、順位戦のC級2組に所属します(フリークラス昇段を除く)。順位戦は1年間を通して戦うリーグ戦ですが、そこで上位3名に入るとC級1組へと1ランク上がります。この時、段位も四段から五段に上がるのです。同様にC級1組からB級2組へは上位2名(以下同じ)六段へ、B級2組からB級1組へは七段へ、B級1組からA級へは八段へ昇段します。ただしC級2組に所属する五段がC級1組へ昇級しても六段になることはありません。これは他の段、クラスでも同様です。

他の昇段規定もそうですが、一度上がった段はその後に負けが込んで降級しても落ちる(例えば六段から五段に落とされる)ことはありません。

ここまで、昇段の条件はお分かりいただけたと思います。では四段から五段まで、最も速い昇段の条件は何でしょうか。なお、四段デビューのタイミングは奨励会三段リーグの結果によって4月と10月に分かれますが、この差でも違いが出てきます。「デビューから100連勝すればいいんじゃないの」という声も聞こえてきそうですが、まず100局指すだけでも1年以上かかりますし、それだけ連勝できれば、他の昇段規定を満たしてしまうでしょう。

まず、竜王挑戦が最速条件の候補に挙がります。10月に四段昇段を果たした棋士が竜王戦を勝ち進むと、最速で挑戦が決まるのが翌年の8月末頃ですから、この場合はわずか10ヵ月で四段から(五段、六段を通り越して)七段への昇段が決まります。

竜王戦では敗れた藤井四段ですが、棋王戦でまだ挑戦の可能性が残っています。勝ち進むと棋王戦は12月末に挑戦権を得られる可能性が濃厚ですから、四段から1年ちょっとで五段に昇段が決まります。

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しかし藤井四段がこの条件を満たしても、最速の五段とはなりません。では、過去の棋士で最も速く四段から五段に昇段したのは誰でしょうか。

調べた限りでは、答えは「新手一生」の升田幸三実力制第四代名人です。戦前の話ですから現在とは昇段規定が異なりますが、升田の自伝には1936年4月に四段昇段、同年の11月に五段昇段(免状は12月18日付)とあります。「全四段登龍戦」で優勝したことによる昇段でした。

また、藤井四段以前の最年少四段記録を持っていた加藤一二三九段は、1954年の8月1日に四段昇段を果たし、翌年の4月1日に五段昇段を決めています。やはり現在とは奨励会の規定が異なり、また順位戦開幕の時期も遅かったため、開幕にぎりぎり間に合って、かつ1期抜けを果たしたことから生まれた記録です。いずれも現在では破られない不滅の記録でしょう。

現行の規定で最も速かったのが、青嶋未来五段です。15年の4月に四段デビューを果たすと、順位戦1期抜けを果たして16年の3月3日に五段昇段を果たしました。以前は順位戦による昇段の日付は、年度が変わる4月1日付でしたが、数年前に規定が変わり、昇級が決まったその日になっています。なお、斎藤慎太郎七段も12年の4月にデビューを果たし、1期抜けを果たしていますが、昇段が決まったのは13年の3月5日です。16年がうるう年だったことを含めると、わずか1日の差ですが青嶋五段に更新されてしまいました。

「昇級が決まったその日に昇段」という条件から、4月デビューの棋士が順位戦1期抜けを果たす場合、理論的には翌年の1月に昇段が決まる可能性はあります(自身が8連勝で競争相手が軒並み5勝3敗以下)が、実現確率は相当に低いといわざるを得ないでしょう。

なお、4月デビューの棋士がデビュー1年以内にタイトル挑戦を決めることは、これまでの規定だと物理的にあり得なかったのですが、今期から新たにタイトル戦へ昇格を果たした叡王戦がどうでしょうか。過去2期の前例では12月に番勝負進出者が決まっていたので、これからもそうだとすると、4月デビューの棋士が最も速く五段昇段を果たすには、叡王戦挑戦が一番速い道となります。

そして、タイトル獲得はイコール七段昇段、竜王獲得はイコール八段昇段ですから(名人戦は挑戦が決まった時点ですでに八段になっている)、やはりタイトル獲得が昇段への一番速い道のりといえるでしょう。

また、竜王戦にはランキング戦6組に奨励会三段の参加枠が1枠ありますから、三段として竜王戦を勝ち進む→その間の4月に四段昇段→竜王挑戦・奪取となればプロデビューから八段昇段までの期間がわずか半年ちょっと、というのもありえないことではありません。 ちなみに、太平洋戦争終戦直後の混乱期ということもあり、現在とは昇段規定が異なりますが、丸田祐三九段と五十嵐豊一九段の2名は四段昇段からわずか2年で八段まで昇っています。

現在の棋士で九段まで最も速く昇段したのは渡辺明竜王で、デビューから5年8ヵ月です。渡辺竜王は五段への昇段が順位戦C級1組だったのをのぞくと、全て竜王戦による昇段規定を満たしたものです。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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