将棋コラム

史上初の外国人女流棋士、カロリーナ女流2級。NARUTOで将棋を知り、ネット将棋で腕を磨く【カロリーナ女流2級紹介前編】

史上初の外国人女流棋士、カロリーナ女流2級。NARUTOで将棋を知り、ネット将棋で腕を磨く【カロリーナ女流2級紹介前編】

更新: 2017年03月01日

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カロリーナ女流2級紹介

2017年2月20日、歴史上初めて外国から来日した女流棋士が誕生しました。その快挙を成し遂げたのはポーランド生まれのカロリーナ・ステチェンスカ女流2級です。 日本の漫画で将棋を知り、インターネットで将棋を覚え、女流棋士を夢見て来日し、日本で生活しながら将棋の勉強を続けてきた彼女が、ついに正式な女流棋士となる女流2級に昇級したのです。

そんなカロリーナ女流2級のこれまでの歩みをご紹介したいと思います。

カロリーナ16歳。将棋との出合い

カロリーナ・ステチェンスカ女流2級は1991年6月17日生まれの25歳。ポーランドのワルシャワ出身で師匠は片上大輔六段です。 2008年の1月、16歳の時、ポーランドでも人気だった日本の漫画『NARUTO -ナルト-』を読んでいたカロリーナは、登場人物の奈良シカマルが作中で指していた将棋というゲームと運命的な出合いを果たします。 将棋とはどんなゲームなんだろう? チェスと違って取った駒を自分の味方として使えるのはどうしてだろう? 疑問に思ったカロリーナはインターネットで将棋について調べ、調べるほどに興味が増し、やがて日本将棋連盟が後援する無料のインターネット将棋対戦サイト「81Dojo」で、実際に対局をするまでになります。「81Dojo」は英語が公用語となっている国際版が存在しており、世界中の将棋プレーヤーがそこで腕を磨いています。

16歳のカロリーナは「81Dojo」での対局を重ね、棋力も急上昇。数年後、『ヨーロッパにとても将棋が強い女の子がいるらしい』という噂となって、日本の女流棋士、北尾まどか女流二段の耳に届きました。そこで、北尾女流二段は「81Dojo」でカロリーナと実際に対局し、その強さに驚きます。絶対にこの子と会いたい、と思った北尾女流二段はチャットを通して来日を勧めました。カロリーナの両親を説得するため、渡航費は北尾女流二段がすべて負担、日本では自宅にホームステイさせるという条件だったといいます。

カロリーナもまた日本に行ってみたい、日本で将棋の勉強をしたいという強い思いを両親に伝え、来日の予定が決定します。 そうして2011年6月17日、カロリーナは初めて日本へやってきます。日本に向かう飛行機の中で彼女は20歳の誕生日を迎えていました。

カロリーナ20歳。初めての来日

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来日した時の将棋カフェにて。

北尾女流二段は来日したカロリーナを温かく迎えます。自らを「カロリーナの日本のお母さん」と称して、日本の文化や生活を教え、各地の将棋道場に連れていったり、カロリーナを支援してくれる仲間を集めて将棋カフェを開いたりするなど、精力的に活動します。

筆者もこの時初めてカロリーナと会いました。将棋カフェで日本の将棋ファンと対局を楽しむカロリーナ。日本語はまだ全然できません。話せる単語は「ショーギショーギ!」「ヨロシクオネガイシマス」「アリガトウゴザイマシタ」の3つ程度。 とにかく「ショーギショーギ!」でコミュニケーションを取った思い出があります。

しかし、言葉は通じずともその対局姿は堂に入っており、指し手も鋭く、このまま将棋が強くなったら女流棋士になれるのでは、とその場にいた多くの将棋ファンが思ったのです。

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将棋カフェでの対局姿

最初の来日は2週間ほどでした。初めての日本、初めて食べる日本食、初めて行った将棋会館。そして初めて会った日本の将棋ファンたち。日本での滞在をきっかけに、カロリーナの中に一つの明確な目標が生まれていました。

「日本で女流棋士になりたい!」

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ポーランドへの帰国前夜。東京の夜景を見てカロリーナは何を思っていたのでしょう

2度目の来日。女流王座戦で公式戦初勝利

ポーランドに戻り、再びインターネット対局で腕を磨くカロリーナにすぐに2度目の来日のチャンスが巡ってきました。第2期リコー杯女流王座戦で、海外招待選手に選ばれ、一次予選に出場できることになったのです。そうして初来日から約1年後、2012年5月にカロリーナは再び日本へ。5月19日に行われた1次予選での対局相手は高群佐知子女流三段。初めての女流棋戦での対局を前にカロリーナは「女流棋士になるのが私の夢であり、いまの自分の力がどれくらい通用するのか知りたい。ベストを尽くしたい」と意気込みを述べています。

そして得意の三間飛車で挑んだこの対局で、カロリーナは勝利します。その時の棋譜はこちらで、 その日の中継ブログはこちらで見ることができます。二次予選進出をかけた2局目では千葉涼子女流四段に敗れてしまいましたが、カロリーナはこの日、外国人女性として女流棋戦での初めての勝利者として歴史に名前を残すことになりました。

また、この時の滞在中、カロリーナは2012年6月2日に行われた第6期マイナビ女子オープンのチャレンジマッチにも出場しています。
・当時の中継ブログ

結果は、現在女流棋士として活躍している飯野愛アマ(当時)に1回戦で敗れ、敗者復活戦では1回勝利したものの、決勝で藤井奈々アマ(当時)に敗れています。 なお、藤井奈々アマはその後女流棋士を目指し研修会に入会、奇しくもカロリーナが女流2級に昇級した同日の2017年2月20日付で女流3級となっています。

・飯野アマ-カロリーナ戦棋譜
・チャレンジマッチ結果

このカロリーナの2度目の来日中、2012年5月29日に、将棋ファン有志による「カロリーナ応援将棋カフェ」が開催されました。その会のシークレットゲストとして来てくれたのが香川愛生女流1級(当時)です。実はこの日、香川女流は関西将棋会館で女流棋戦の対局があったのですが、それが終わってから新幹線に飛び乗ってそのまま東京に戻り、その足でこのカフェに参加してくれたのです。その理由は「カロリーナは友だちだから」と。

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その日の写真です。

この2度目の来日期間中、カロリーナは女流王座戦、マイナビ女子オープンという2つの棋戦で戦い、日本の将棋ファンとも交流を深め、ますます『女流棋士になりたい』という夢を膨らませることになります。ポーランドに戻ったカロリーナはさらに将棋の勉強に打ち込みます。

3度目の来日。第3期女流王座戦で公式戦2勝目

翌年2013年の第3期女流王座戦の一次予選にもカロリーナは海外招待枠として出場します。 5月18日に行われた一次予選の対局相手はLPSA所属の鹿野圭生女流二段。相振り飛車となったこの対局でカロリーナは持ち前の終盤力を発揮して勝利し、女流棋戦での2勝目をあげます。 その時の棋譜はこちらで、 その日の中継ブログはこちらで見ることができます。

2局目では山口恵梨子女流初段(当時)に敗れ、二次予選出場はできませんでしたが、昨年に続いての勝利は多くの報道陣によって日本中でニュースとなりました。その年の5月25日に開催された『女流棋士との親睦将棋会』にカロリーナも姿を見せていました。もちろん、一般のお客さんとしての来場です。 美しく着飾った女流棋士たちが勢ぞろいした華やかなイベント。カロリーナは、いずれ自分もその一員となるんだ、と決意を新たにしたことでしょう。

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日本のお母さん、北尾女流二段と

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友人の香川愛生女流初段(当時)とおしゃべり(英語で)

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会場の自由対局コーナーで、遊びに来ていた上野裕和五段と練習将棋

そして、この来日期間中、カロリーナは夢への具体的な第一歩として研修会の入会試験を受けていました。女流棋士になるには、まず研修会に入会し、そこで規定の成績を上げてC1クラスに昇級する必要があります。カロリーナは5月26日と6月23日の研修会で合わせて8局指して3勝5敗、研修会のC2クラスに合格しました。 そして一時帰国。次に来日するときは、研修会員として、いよいよ日本での生活がスタートします。女流棋士を目指し、日本で暮らし始めたカロリーナ。 将棋の勉強以外にも文化の壁、言葉の壁が彼女を苦しめます。 後編では数々の困難を乗り越え、カロリーナが女流2級にデビューするまでの道のりをご紹介します。

カロリーナ女流2級紹介

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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