5年ぶりの挑戦を目指す! 王将リーグでの久保利明九段の実績を紹介

5年ぶりの挑戦を目指す! 王将リーグでの久保利明九段の実績を紹介

ライター: 直江雨続  更新: 2016年11月01日

今期の王将戦挑戦者を決める第66期王将戦挑戦者決定リーグ戦が開幕しました。このコラムでは王将リーグを戦う7人の棋士をご紹介していきます。第2回は久保利明九段です。関西所属のトップ棋士、久保九段のこれまでの王将戦でのエピソードや王将リーグでの実績をご覧ください。

久保九段のプロフィールと棋風について

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久保九段は1975年8月27日生まれの41歳。兵庫県加古川市出身で淡路仁茂九段門下です。タイトル獲得は5期、タイトル戦登場回数は11回、棋戦優勝5回、竜王戦は1組所属(1組7期)、順位戦はB級1組所属(A級9期)。

『捌きのアーティスト』の異名を持ち、数々の名局を生みだしてきた、現代を代表する振り飛車党のひとり。軽い捌きを得意とする棋風から『カルサバ流』とも呼ばれる久保九段ですが、形勢が悪くなってくると今度は『粘りのアーティスト』とも言われるような簡単には土俵を割らない指し回しを見せることでも有名です。その粘りは対局だけではなく、久保九段の棋士人生においても発揮されています。

もし、僕に才能があったとすれば、折れない心だけなんです。

という久保九段の名言は将棋ファンに広く知られています。

そんな久保九段が初めて王将リーグ入りしたのは1999年度の第49期王将戦の時、プロ入り後6度目の挑戦でついにつかんだチャンスでした。この時の王将リーグは2勝4敗で陥落。最難関リーグの洗礼を浴びてしまいます。しかし、翌年の二次予選を勝ち上がり、第50期王将戦でも久保六段(当時)はリーグ入りを果たします。以来10年連続で王将リーグを戦い、残留以上の成績を残しています。特に9回目の王将リーグとなった第57期では、5勝1敗でついに1位となり、羽生王将に挑戦します。しかし、七番勝負では1勝4敗で敗退。翌年は3勝3敗で残留となり、第59期には5勝1敗の成績で再び羽生王将への挑戦者に名乗りを上げるのです。

5度目の挑戦にしてついに、、久保王将誕生の名局

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2009年度の第59期王将戦での羽生善治王将(当時)との七番勝負、久保九段のタイトル戦の中でも屈指の名勝負となりました。過去タイトル戦で羽生三冠に挑戦すること4度、いずれもその厚い壁に阻まれてきた久保棋王(当時)が5度目の挑戦でついに羽生王将からタイトルを奪取したのです。

そのシリーズは羽生2勝、久保3勝で迎えた第6局で有名なエピソードが生まれます。将棋ファンの間で通称『トリプルルッツ』と呼ばれている終盤の3連続限定合駒です。このとき久保棋王が選んだのはゴキゲン中飛車。先手の羽生王将が▲5八金右超急戦を選択しましたが、実はここまで羽生王将はこの戦型で久保九段と過去5局戦い、すべて勝利していました。タイトル獲得のため6度目の正直での勝利を狙う久保棋王でしたが、終盤は羽生王将優勢との評判でした。

誰もが羽生王将の勝利かと思った局面で、久保棋王だけが奇跡的な手順で自玉が詰まないことを読み切っていました。

△7三銀合、△5三銀合、△8五角合(変化手順)の3連続限定合駒で久保玉は詰みを逃れていたのです。タイトル戦でのカド番の羽生王将に勝ち切るということの大変さと、それを実際にやってのけた久保棋王の強さが印象に残る名局でした。この劇的な対局に勝利し、4勝2敗でついに久保王将の誕生となったのです。将棋世界2010年5月号より、この時の行方尚史八段のコメントをご紹介します。

この戦型をここまで濃密に指せる二人はさすが。名局という言葉は安易に使いたくないが、本局の限定三連打は奇跡的で、トリプルルッツより凄い。

久保王将は翌年の2010年度、第60期王将戦七番勝負、20歳でのタイトル初挑戦となった豊島将之六段(当時)の挑戦を受けます。関西所属棋士同士でのタイトル戦となったこのシリーズを久保王将は4勝2敗で防衛。しかし、その翌年の2011年度、第61期王将戦では挑戦者佐藤康光九段に1勝4敗で敗れてタイトルを失冠してしまいます。

久保九段のその後の王将リーグの実績

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第62期、久保九段は王将のタイトルを失冠したため、再び王将リーグを戦うことになりますが、2勝4敗の成績で陥落してしまいます。しかし、第63期では二次予選を勝ちあがって再び王将リーグ入り。ただし、1勝5敗で2年連続の陥落となってしまいます。第64期では二次予選の決勝で豊島七段に敗れてリーグ入りできず。前期となる第65期は二次予選の決勝でまたも豊島七段と対局しますが、これに勝利して王将リーグ入り。リーグでは5勝1敗の成績で1位タイとなり、羽生名人(当時)との挑戦者決定戦を行いますが、そこで敗れて郷田王将への挑戦はなりませんでした。今期は前期2位の成績での王将リーグとなります。

今期王将リーグでは久保九段は2011年度以来の七番勝負への登場、そして王将復位を目指して戦っています。もちろん総当たりのリーグ戦ですから、羽生三冠との直接対決も避けることはできません。かつてタイトル戦で羽生三冠に挑戦するたびに涙を飲んできた久保九段、そして昨年はプレーオフで敗れて王将挑戦の夢を絶たれた悔しさも当然ながらあることでしょう。そのリベンジの機会がまさに今期王将リーグなのです。

もうひとつ、久保九段の名言をご紹介します。

負けることが大事です。今思えば、羽生さんに負け続けてよかった。もし、最初に勝っていたら、僕はそこで終わっていたかもしれない。羽生さんに強くしてもらったんです。

久保九段は今期が15回目の王将リーグ入りとなります。過去14回の成績をまとめますと、挑戦2回(奪取1回、敗退1回)、残留9回、陥落3回です。この15回目の王将リーグという数字は、今期リーグの7人の中では最多となります。王将リーグでの戦い方を知り尽くした男、久保九段がタイトル挑戦の切符をつかむ姿は見られるのでしょうか。全国の振り飛車党の期待を背負って戦う久保九段の対局をぜひ全局ご覧ください!

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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