ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2024年10月10日
藤井聡太王座に永瀬拓矢九段が挑戦した第72期王座戦五番勝負。八冠制覇で歴史的なシリーズとなった昨年と、立場を入れ替えての戦いだ。昨年は結果こそ藤井の3勝1敗だったが、内容的には永瀬が押している時間が長く、逆の結果が出ていてもおかしくなかった。永瀬にとっては借りを返す格好の舞台だ。
第1局は神奈川県秦野市「元湯 陣屋」にて。角換わりから後手の藤井は△3三金型早繰り銀で動いていく。渋い応酬の続く難解な中盤だったが、戦いが始まってからは藤井が抜け出した。
【第1図は▲1三桂成まで】
寄せ合いの終盤戦だが、玉の広さに差がある分、後手が形勢をリードしている。どう勝つかだが、△6八角▲7八金△1三香が冷静な指し回し。▲2四香に△同角成▲同飛△2三香で局面をはっきりさせて、後手勝勢が明らかになった。藤井が後手番で好スタートを切った。
写真:文
第2局は愛知県名古屋市「名古屋マリオットアソシアホテル」にて。角換わり腰掛け銀から互いに研究十分の進行であっという間に終盤に突入する。
【第2図は△8四桂まで】
次に△7六桂と王手で取られる形で、反射的に▲6七銀左と逃げてしまいそうなところだが、藤井は熟考に沈む。そして▲4六香と拠点を生かして攻め合いを目指した。当然△7六桂と取られるが、▲7七玉とした形が意外に攻めにくく、先手からは▲2五角など厳しい攻め筋が残っている。実戦は△8六歩▲同歩△4五歩▲同香△5四銀としたが、平凡に▲7四歩がうるさく、先手ペースとなった。いかも正確に押し切って藤井が2連勝。
写真:八雲
第3局は京都府京都市「ウェスティン都ホテル京都」にて。角換わり腰掛け銀から後手の藤井は右玉に組み替え、待機策を取る。終盤まで難解な形勢が続いていたが、永瀬がチャンスをとらえる踏み込みで勝ちに近付く。そのまま押し切るかに思えたが、藤井が底力を発揮した。
【第3図は▲5四成桂まで】
銀を取られる手が詰めろでは、万事休すの雰囲気だが、△8二玉がしぶとい早逃げ。▲6二馬としたが、そのタイミングで△7九銀の王手が飛んできた。▲9八玉と逃げた手に△9六香が見えにくい追撃。そこで▲9七桂なら先手の勝ち筋だったが、秒読みの中で▲9七歩としたため、△7八銀で大逆転。9筋に歩が利かなくなったので、後手玉への詰めろが消えていた。香を9一~9四に打っていれば▲9七歩としても後手玉が狭く詰むのだが、9六に打つのが逆転を呼ぶ妙手となった。
写真:武蔵
藤井は3連勝で王座初防衛。第3局の終盤こそピンチだったが、昨年と違い全体的に内容でも押して成長を見せたシリーズだった。これでタイトルは早くも25期目。
ライター渡部壮大