ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2024年09月11日
藤井聡太王位に渡辺明九段が挑戦した伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負。実績十分の渡辺だが意外にも王位戦七番勝負は初登場。一方の藤井は5連覇と永世王位の資格が懸かるシリーズとなった。
第1局は愛知県名古屋市「徳川園」にて。後手の渡辺は巧みな駒組から右玉に構えて先手の仕掛けを封じる。藤井にしては珍しく、戦いも起こせずに千日手に持ち込まれてしまった。指し直し局は相掛かりへ。先手を得て、さらに持ち時間の多い渡辺が快調な指し回しでリードを広げ、押し切るかに思われたが......。
【第1図は△4七角まで】
ここで▲3九玉なら△9二角成に▲4二銀成から即詰みに打ち取って先手の勝ちだっただろう。だが、実戦は▲2七玉とかわしたために△3七歩成▲同玉を利かされてから△9二角成と取られる。違いは6九の馬が2五へ利いていることで、後手玉を詰ます難易度が上がってしまった。実際にはそれでも後手玉には詰みがあったが、一分将棋の中では正確に詰ますことができず大逆転。藤井が苦しみながらも開幕戦を制す。
写真:虹
第2局は北海道函館市「湯元 啄木亭」にて。渡辺が先手で、相掛かりから第1局と同様の形へと進めた。強く踏み込んで渡辺がリードを奪う。
【第2図は△4二銀まで】
▲2五角が強烈な王手。△4三金と寄ったがこれでは薄く、▲5三桂成△同銀▲4三角成△同玉▲5五桂まで後手投了。渡辺が快勝で1勝1敗に。
写真:文
第3局は徳島県徳島市「渭水苑」にて。角換わりから後手の渡辺が速攻を仕掛けてペースをつかむ。だが、藤井も追いすがり、際どい終盤戦となった。
【第3図は△5四玉まで】
先手玉は受けがなさそうだが、後手玉を5四まで追ったことにより、▲5六飛△同馬▲同銀のしのぎが利いた。以下△4九飛▲5九金△6六香▲6八歩で先手玉は容易に寄らなくなり、この後も攻防手の掛け合いを制した。▲5六同銀には△6六香▲6七歩△5九金▲同玉△5七飛で5六の銀を抜く筋なら後手に分のある終盤戦だったようだ。藤井がハイレベルな終盤を抜け出して2勝目。
写真:武蔵
第4局は佐賀県唐津市「洋々閣」にて。渡辺は矢倉を目指し、藤井は中央から急戦で動いていった。総攻撃を掛けて一気に先手陣を潰しに掛かる。
【第4図は▲7八同玉まで】
バッサリと△5七角成が鋭い攻め。▲同飛△5六銀打▲5九飛△6七銀不成▲同玉△8七飛成▲7七銀△5六歩と畳みかけ、駒損の攻めだが先手は受け切るのは困難になった。以下も的確に攻めて寄せ切り、藤井が快勝で3勝目。
写真:琵琶
第5局は兵庫県神戸市「中の坊瑞苑」にて。渡辺の雁木に先手の藤井は急戦を目指す。先手は悪形をうまくまとめてペースをつかんだ。
【第5図は△5七銀まで】
後手も何とか迫っていくが、9六の角がよく利いている。▲3九角△5八銀不成▲2八角と攻めを余しにいった。以下△6九銀不成▲8八玉△6八金が詰めろだが、▲3一飛の合駒請求が厳しい。△4一銀には▲6一飛で詰むため△4一金と合駒するよりないが、▲2一飛成で金を使わせて先手玉の寄りがなくなった。以下は数手で後手の投了となっている。
写真:翔
藤井は4勝1敗で王位を防衛。棋聖に続く5連覇で、永世王位の資格を得た。大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、羽生善治九段に続き、歴代4人目となる。
ライター渡部壮大