伊藤が叡王奪取 6月下旬の注目対局を格言で振り返る

伊藤が叡王奪取 6月下旬の注目対局を格言で振り返る

ライター: 渡部壮大  更新: 2024年08月01日

 激闘の叡王戦五番勝負は伊藤匠七段が3勝2敗で制しました。藤井竜王・名人はタイトル戦の番勝負で初めて敗れ、七冠に後退しています。令和のライバル対決はまだまだ始まったばかりです。

第9期叡王戦五番勝負第5局

【第1図は▲6六銀まで】

 第1図は第9期叡王戦五番勝負第5局(▲藤井聡太叡王△伊藤匠七段)。穴熊から先手の猛攻が続いていましたが、後手もうまく粘って攻守が入れ替わったところです。△8六歩▲同歩△8七歩が「金は斜めに誘え」の手筋。▲同金なら守りが大幅に弱体化し、△6七飛など厳しい手が生じます。実戦は▲7一飛から粘りに出ましたが、8七の垂れ歩が残り、先手がかなり勝ちにくい形になりました。逆転で伊藤七段が制し、八冠を崩す初タイトルとなりました。

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写真:牛蒡

ヒューリック杯第95期棋聖戦五番勝負第2局

【第2図は△4七銀まで】

 第2図はヒューリック杯第95期棋聖戦五番勝負第2局(▲藤井聡太棋聖△山崎隆之八段)。後手の意表の向かい飛車に対し、居飛車がうまく戦いを起こしました。図の△4七銀は部分的には厳しい両取りですが、先手はあえてこの変化に誘導しています。▲5五桂が「両取り逃げるべからず」の切り返し。飛車を取れば▲4三桂成から▲3二角で先手優勢。実戦は△5五同歩▲同金△3八銀不成としましたが、▲6四歩△5二銀右▲5四歩として先手が一手勝っている寄せ合いです。快勝の藤井棋聖は2連勝で、永世称号まであと1勝です。

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写真:琵琶

第83期A級順位戦1回戦

【第3図は△3三同桂まで】

 第3図は第83期A級順位戦1回戦(▲増田康宏八段△菅井竜也八段)。新A級の増田八段の開幕戦。大きな駒得で陣形も堅く、形勢は先手勝勢です。▲6五歩が「遊び駒は活用せよ」の決め手で、眠っていた角がついに働きました。以下△4四歩に▲5五角△5七歩▲6四角と気持ちよくさばいてはっきりしました。

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写真:潤

第83期A級順位戦1回戦

【第4図は▲6八銀まで】

 第4図はA級順位戦1回戦(▲千田翔太八段△稲葉陽八段)。こちらも新A級の千田八段の開幕戦です。いよいよ戦いが始まる中盤戦。△3五歩に▲2四歩が「開戦は歩の突き捨てから」で、激しい流れに突入しました。以下も難しい戦いが続きましたが、最後は穴熊の堅さを生かして先手の快勝となりました。新A級の二人が揃って開幕戦を白星で飾っています。

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写真:夏芽

第45回将棋日本シリーズJTプロ公式戦

【第5図は▲4九竜まで】

 第5図は第45回将棋日本シリーズJTプロ公式戦(▲伊藤匠叡王△稲葉陽八段)。将棋日本シリーズの開幕戦で、伊藤叡王は本棋戦初登場です。三間飛車から乱戦となりましたが、うまく駒得に成功した後手が優位に立ちました。△5四馬が「馬は自陣に引け」の好手で、後手陣は手厚い格好です。以下▲2三歩△2一歩▲7六歩に△4二香が「下段の香に力あり」。駒得を生かして着実に盤面を制圧していきます。以下は手数が掛かったものの、確実に差を広げていった稲葉八段の快勝となりました。

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写真:銀杏

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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高崎一生

監修高崎一生七段

棋士・七段
1987年生まれ、宮崎県日南市出身。2005年10月に四段。(故)米長邦雄永世棋聖門下。 攻める棋風を持ち味としている振り飛車党。
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