ライター生姜
大成建設杯第6期清麗戦五番勝負展望
ライター: 生姜 更新: 2024年07月08日
7月10日(水)に大成建設杯清麗戦五番勝負が開幕する。福間香奈清麗に挑戦するのは加藤桃子女流四段だ。本棋戦では第3期、第4期に続いて3回目の顔合わせとなる。女流棋界といえば福間と西山朋佳女流三冠によるカードのイメージが強いが、本棋戦ではその限りではない。
両者の対戦成績は福間43勝、加藤13勝。スコアは3倍以上の差がついており、データの面ではやはり福間が手厚い。今期の女流王位戦五番勝負でもふたりの戦いになったが、3勝0敗で福間の防衛となった。
【終盤力トップクラスの福間】
福間は鋭さと粘り強さを併せ持ち、攻守に力を発揮する。これまで幾度も終盤での逆転劇を演じてきた。もちろん出雲のイナズマの切れ味は衰えを見せない。前期の清麗戦五番勝負第4局、防衛を決めた西山女流三冠との将棋を紹介する。
写真:翔
【図は79手目▲5七同金まで】
△2六歩▲同金△4八角と打ち、2六の金を狙う。▲3七桂と受けられて後続が難しく思えるが、△3九銀▲3八玉に△5五銀が鋭い決め手。▲5五同銀は△5七角成だし、▲5八金も△6六角成で攻めが止まらない。途中で△3九銀▲3八玉の交換をいれるのが隠れたポイントで、単に△5五銀は▲7二角成△同玉▲3八金の粘りを与えた。△5五銀以下は▲8二歩△同玉▲8三歩△同金▲7五歩△6六銀▲同金△4九銀まで福間の勝ち。最終手も「玉は下段に落とせ」の格言通りの鮮やかな一着だった。▲4九同玉に△6六角成で決まりである。
【終盤勝負は加藤にも期待十分】
福間の終盤力が高すぎるとはいえ、加藤にとっては終盤が課題といえるだろうか。先述の女流王位戦五番勝負では、序盤でリードを奪ったあとにミスが出て敗れる将棋が見受けられた。だが今期の挑戦者決定戦では、西山女流三冠を相手にいい内容の将棋を披露していた。西山女流三冠はまたも切られ役で恐縮だが紹介したい。
写真:銀杏
【図は86手目△6九銀まで】
上図はすでに先手優勢。しかし長引くと西山女流三冠も力を出してくる。ここで▲4三と△同金▲7四歩が粘りを許さない攻めだった。△7四同歩は▲5五角や▲7三歩の攻め筋が生じるため指しきれない。よって△8四桂とアヤを求めたが、▲6七銀△6六歩に▲6一角△4二金▲7二角△同玉▲6四歩と踏み込んで加藤が勝ちきった。投了は少し早くも見えるが、指せば指すほど差が広がりやすく、攻防ともに見込みがない。加藤の実力も信頼してのことだろう。西山女流三冠といえば公式戦で棋士を相手に勝ちまくっている強敵である。その相手にほぼ一方的に攻め続けて力を出させなかったのだから、仕上げてきている感は否めない。
【戦型は福間の中飛車が本命】
戦型予想としては加藤の居飛車、福間の振り飛車による対抗形が濃厚。特に多く見られるのは中飛車だ。自信の表れか福間は先後を問わない。対して最近の加藤は多用していた超速以外にも穴熊や丸山ワクチンを用いるなど、的を絞らせていない印象だ。今シリーズに向けての布石かもしれない。何を使うか楽しみでならない。福間が警戒すれば駆け引きのすえに相居飛車になる可能性もわずかにあると見る。具体的な展開としては、序盤研究に定評のある加藤が早指しでリードを奪い、福間が離されずに収めてついていく。そして終盤の熱戦が繰り広げられる。あとはどう出るか。ちなみに直近3年での両者による平均終局手数は120.8手。長期戦の傾向があり、日の浅いうちに終局する可能性は低そうだ。
持ち時間は各4時間(チェスクロック使用)と女流棋戦では長時間の部類に入るため、体力面でも勝負の影響が大いにあるだろう。両者ともベストコンディションで臨まれることを願う。
【豪華な対局場にも注目】
開幕局の舞台は東京都港区「The Okura Tokyo」。清麗戦五番勝負は株式会社大成建設の手がけた全国各地のホテルで対局するのが特色だ。対局の内容とともに、豪華絢爛の対局場と食事、おやつにも注目いただけたらと思う。両者とも英気を養う点では心配はいらないだろう。歴史に残る名勝負を期待したい。
なお、対局の模様は、Rチャンネルにて初めてライブ配信(解説・山本博志五段、聞き手・貞升南女流二段)されるので、ぜひ、ご覧ください。