チーム永瀬VSチーム斎藤 ABEMAトーナメント2024~予選Bリーグ第二試合振り返り~

チーム永瀬VSチーム斎藤 ABEMAトーナメント2024~予選Bリーグ第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2024年06月20日

 6月15日(土)に放送されたABEMAトーナメント2024予選Bリーグ第二試合。チーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢九段、増田康宏八段、森内俊之九段)とチーム斎藤「1993」(斎藤慎太郎八段、高見泰地七段、三枚堂達也七段)の対戦を振り返る。

 振り駒の結果、チーム高見の先手に決まり、増田-三枚堂戦が組まれた。相掛かりから後手の増田が3筋の歩を取って1歩得に。増田は雁木に組むと、三枚堂の仕掛けをうまく対応してペースをつかんだ。そのまま勝ちきりそうな展開だったが、最終盤で詰ましにいったものの三枚堂の玉が詰まずに逆転。三枚堂が九死に一生を得る勝利を得た。フィッシャールール百戦錬磨の増田でさえミスが起こるのだから、将棋は難しい。

【第2局 森内俊之九段―高見泰地七段】

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 2局目は森内ー高見戦。高見の作戦は一手損角換わり。普段の公式戦ではほとんど見られない作戦で、この大会に向けて準備してきたことがうかがえた。

【第1図は▲7八玉まで】

 中盤戦。ここで高見は△8七銀▲同玉△6七角と攻めたが、▲2七角がうまい切り返しだった。△8九角成に▲8一角成と取り返し、先手が銀得に。問題は先手玉が不安定なことだが、そこは受けの森内。するすると上部に逃げていき、入玉を果たした。高見も入玉されてから妖しく抵抗を見せるのだが、森内が際どくしのいで逃げきる。非常に見応えのある攻防で、ハラハラした方も多かったのではないか。筆者も先手目線で見ていたが、何度も悲鳴を上げてしまった。

 3局目は永瀬と斎藤のリーダー対決。相居飛車のこってりした序盤となった。先攻したのは永瀬。端攻めで戦機を捉えると、流れるように上部を攻め立て、気づけば斎藤の囲いが半壊。そこからは斎藤にチャンスをほとんど与えず、いとも普通に勝ちきったのだが、これが並大抵の力ではできないことはお分かりだろう。日頃の鍛錬が垣間見えた対局だった。今大会も永瀬は恐ろしく強い。

【第4局 森内俊之九段―三枚堂達也七段】

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 4局目。この日筆者が最も胸を打たれた対局であった。役者は森内と三枚堂。相居飛車の力戦形になる。次の三枚堂の手は当たるだろうか。

【第2図は▲7五角まで】

 なんと△4二歩である。悩みに悩み抜いていたのだが、それも当然の非常に打ちづらい歩だ。というか見たことがない。△3一玉~△2二玉を作って容易に負けない姿勢が見られた。それでも森内はさほど動じずにペースを握る。

【第3図は△2二金まで】

 先手玉が寄るかどうかの勝負で、どうやら寄らないことがはっきりしてきた。終局近しと思いきや、三枚堂は△2二金。▲3四銀にも△3二角成でファイティングポーズ。△4二歩を打った人なら納得ともいえる剛毅な指し回しを見せた。これがドラマを生んだ。容易に崩れない三枚堂を見て森内も焦る。

【第4図は△2三銀打まで】

 最終盤。ここまで何回逆転したかわからないが、最後の最後で森内に致命的ミスが出てしまった。▲4三金と打ったのが悪手。△同角とタダで取られてしまって後続がない。代えて▲7三飛成として、▲2二馬△同玉▲3三金以下の詰めろをかけていれば有望だった。しかしその冷静さを求めるのは酷といえよう。 厳しい見方をすれば悪手だらけの一局と見られるかもしれない。しかしこういう将棋が最もファンを熱くさせるのである。総手数212手。力いっぱい戦った両者をたたえたい。

 と、まるで終わったかのようだがまだスコアは2勝2敗。正直満腹気味......いやはや贅沢な悩みである。5局目は永瀬と高見が激突。中盤で高見に銀をタダで取られるうっかりが出て、永瀬がはっきり優勢に。心折れて投了する人もいそうだが、高見は指し続ける。しかし相手が悪かった。永瀬は得した銀を自陣に埋め、じわじわとリードを拡大。舞い上がってしまいそうなのを堪え、冷静に徹して指し続けたのはなんと表現すべきか。

 第6局は再び増田と三枚堂の顔合わせ。戦型も1局目と似た形になった。展開も同様に増田がよくなったのだが、三枚堂が鋭い踏み込みを見せ、瞬く間に逆転。急転直下の幕切れであった。三枚堂はこの日3連勝。チームのスコアも3勝3敗のタイに。ふたりを支える。

【第7局 永瀬拓矢九段―斎藤慎太郎九段】

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 第7局はまたも永瀬と斎藤の頂上対決に。永瀬の寄せを紹介したい。

【第5図は▲8一角成まで】

 △2八竜▲5八歩△3九竜▲7九香△6九桂成▲同金△同竜▲7八銀打に△6八竜が寄せを読みきったであろう着手。以下▲9六歩△7七金まで鮮やかに永瀬が決めた。▲7七同玉は△6八角、▲7七同桂も△9九角で先手玉は詰み筋。△6八竜では▲2四桂をケアして△2九竜と戻りたくもなりそうだったが、瞬時にこの寄せが浮かぶのはさすがである。三枚堂に続いて永瀬も堂々の3連勝。貫禄を見せた。

 第8局は森内と高見が再戦。高見が陽動振り飛車を採用し、振り飛車らしいさばきを見せて快勝。リベンジを果たした。

 第9局。フルセットまで持ち込まれた。ここまでまだ勝ち星のない増田と斎藤。絶対に負けられない戦いは、増田が相掛かりの戦いを制し、チームに勝ち点1をもたらした。敗れたチーム斎藤も勝ち数により2位以上での予選突破が確定。斎藤は本戦での挽回を期待したい。

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【総合成績】
第1局 増田●-○三枚堂(第1局はチーム斎藤が先手番。以下は第8局まで交互。第9局は振り駒でチーム永瀬の先手)
第2局 森内○-●高見
第3局 永瀬○-●斎藤
第4局 森内●-○三枚堂
第5局 永瀬○-●高見
第6局 増田●-○三枚堂
第7局 永瀬○-●高見
第8局 森内●-○高見
第9局 増田○-●斎藤
総合5勝-4勝

【個人成績】
永瀬九段 3-0
増田八段 1-2
森内九段 1-2
斎藤八段 0-3
高見七段 1-2
三枚堂七段 3-0

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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