優勝賞金は女流棋界最高額の1500万円! 女流棋界唯一の七番勝負!―ヒューリック杯第3期白玲戦七番勝負展望―

優勝賞金は女流棋界最高額の1500万円! 女流棋界唯一の七番勝負!―ヒューリック杯第3期白玲戦七番勝負展望―

ライター: 田名後健吾  更新: 2023年09月01日

 ヒューリック杯第3期白玲戦七番勝負が、いよいよ9月2日(土)に東京都港区「グランドニッコー東京 台場」で行われる第1局から開幕する。 里見香奈白玲に挑むのはやはりこの人、西山朋佳女流三冠。五冠対三冠、8つの女流タイトルを分け合う二人による頂上対決だ。

【西山のリターンマッチ】

 ヒューリック株式会社が主催社となって創設された白玲戦。棋戦名には「『令』和の『王』者が真っ『白』なページに時代を刻む」という意味が込められている。
女流順位戦(A級からD級まで4クラス)が設けられ、A級リーグで最もよい成績を収めた者が挑戦者なる。その栄えある第1期(2021年)で初代白玲に輝いたのが西山だった。
翌年の第2期は里見がタイトルを奪ったが、今期は西山がA級リーグを制して挑戦者として戻ってきた。白玲戦の歴史はまさに、令和の2人の王者が刻んでいる。

【絶好調の西山】

 西山は今期絶好調。8月24日現在で20勝3敗(勝率0.870)の成績で、ランキングトップを走っている。昨年度から続いた連勝は18でストップしたものの歴代3位の記録で、もちろん今年度の連勝賞候補だ。昨年は、わずかな期間ながらタイトル一冠にまで落ち込んだこともあったが、そこから三冠に復帰したのはさすがの一言。今シリーズで白玲を奪還すれば四冠復帰で、タイトル数は里見と五分となる。
まるで長刀を振り回すような豪快な棋風が西山の持ち味だが、今期はそれに「受け」のセンスが加わったと評判だ。7月に開催されたイベントで、振り飛車党の藤井猛九段と鈴木大介九段が、タイトルを防衛した第16期マイナビ女子オープン五番勝負(対甲斐智美女流五冠)における西山の印象に残る一手について、両者とも攻めの手よりも地味な渋い好手を挙げ「まるで大山先生(十五世名人)の手のみたいだ」と口をそろえていた。

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写真:独楽

【直接対決で先行した里見】

 一方、里見もまずまずの調子だ。前年度は過去ワーストの15敗を喫した(それでも大きく勝ち越しているのだが)ものの、タイトルはしっかり5 つ堅持。今期は8月24日時点で14勝4敗(0.778)と3位につけている。4敗の内訳は、伊藤沙恵(4月26日:女流王位戦第1局)、小高佐季子(6月29日:女流王将戦本戦)、西山(7月25日:清麗戦第2局)、内山あや(8月10日:女流名人リーグ)。若手2人に黒星を喫しているのが少し気になるところではあるが、西山に対しては直近まで戦っていた大成建設杯第5期清麗戦五番勝負でタイトル防衛(3-1)を果たし、両者の今期タイトル戦直接対決では結果で先行している。

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写真:文

【両者の対戦成績データ】

 データ面を見てみよう。両者の通算対戦成績は、西山の奨励会時代を含む全局では里見29勝:西山25勝。ほとんど大差ないように見えるが、西山の女流棋士転身後(2021年4月より)の対戦に絞ってみると、里見21勝:西山13勝と、里見にやや分のよい印象だ。
また、両者の対戦での手番別成績を比較すると次の通り。

里見:▲17ー10 △12ー15
西山:▲15ー12 △10ー17

お互いに後手番で苦労しているが、負け幅は西山のほうが大きい。今シリーズも、後手番でどれだけ勝てるかがカギになりそうだ。

【戦型予想と見どころ】

 以上のようなことから、七番勝負の予想と見どころを考えてみたい。 戦型は、やはり「相振り飛車」中心のシリーズになるだろう。ほぼ中飛車一辺倒の里見に対し、西山は三間飛車(もしくは向かい飛車)が圧倒的に多い。里見が避けない限りは相振り飛車になることは間違いない。

 里見はあるときから西山に対しては序盤で工夫や趣向を凝らすようになった。西山の卓越した終盤力に対抗するため、序中盤でリードを奪いたい意図があるのだろう。その中で対西山にほぼ特化している興味深いオープニングについて触れておきたい。

【第1図は▲9六歩まで】

 まず、先手番で注目したいのが第1図のオープニングだ。角道を保留して中飛車に構え、左銀を飛車の頭に乗せたまま端歩を突いて様子を見る。西山の出方を見て臨機応変に自分の方針を決める作戦だ。
 先手中飛車vs後手三間飛車の相振り飛車ではたまに見られる形ではあるが、二人の対戦での出現が特に目立っている。2020年の第10期リコー杯女流王座戦第1局以降10局の実戦例があり、里見の6勝4敗。前期白玲戦七番勝負においては、第1・3・5局で西山の三間飛車に対して全てこのオープニングを採用し、2勝1敗の結果でタイトル奪取に貢献した。

【第2図は△1四歩まで】

 つづいて里見が後手番では、第2図のオープニングが多い。やはり角道を保留して左銀を5三へ据えて端を打診。ここから、▲1六歩に△2四歩~△2五歩と伸ばしていく指し方と、△3四歩と角交換を挑む実戦がある。前期白玲戦七番勝負では、後手番の第2・4・6・7局を全てこのオープニングで戦っているほか、直近の大成建設杯第5期清麗戦五番勝負においても第2・4局で用いるなど、かなりの頻出度だ。

 

いずれのオープニングも、西山に作戦の的を絞らせず、自分の土俵に持ち込もうという意図が感じられる。結果は、里見が白玲を奪取、そして清麗の防衛を果たした。西山にとっては対策が急務の作戦といえる。今回の七番勝負では、この里見流「西山シフト」に対して西山がどんな対策を用意してくるのか。このポイントに注目してみると、よりいっそう面白く観戦できると思う。

 とにかく、この二人の将棋は熱戦になりやすく、どちらかの一方的なストレート決着は考えにくい。女流棋界最高の技術と頭脳のぶつかり合いを、じっくり楽しんでいただきたい。

田名後健吾

ライター田名後健吾

1997年、日本将棋連盟入社。機関誌『将棋世界』編集部に配属される。2007年より同誌編集長となり、株式会社マイナビ出版移籍後の2023年6月まで16年間務める。同年7月より、同誌編集と並行してフリーランス活動もスタート。

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