ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2023年06月06日
藤井聡太叡王に菅井竜也八段が挑戦した第8期叡王戦五番勝負。菅井は久しぶりのタイトル戦登場、藤井にとっては初めて振り飛車党との戦いとなる番勝負となった。
第1局は東京都千代田区「江戸総鎮守 神田明神」にて。菅井がどんな振り飛車を見せるか注目されたが、後手三間飛車から角道を止める展開に。居飛車に9筋の位を取らせる趣向を見せる。後手は手待ちし、先手が打開できるかどうかの将棋になるが、藤井は果敢に局面を打開してペースをつかむ。
【第1図は△9二香打まで】
後手も端から逆襲して勝負に出ている。平凡な▲9四歩は△同香で歩切れの先手は受けにくい。▲4五飛が好手だった。9五で清算するのは数が足りないため△5五歩と止めたが、▲同歩で歩切れを解消できたのはポイント。以下△9五金▲同桂△同香▲同銀△同香と暴れるが、▲9四金が好防手になり、はっきり先手が抜け出した。最後は9五の香を取り切り、盤石の態勢を築いて藤井が先勝。
写真:常盤秀樹
第2局は愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」にて。菅井は再び三間飛車を選び、相穴熊へと進んだ。難解な中盤戦となるが、巧みな駒運びを見せた菅井がさばいて優位に立つ。
【第2図は△8六竜まで】
▲4六歩が当然とはいえ飛車を働かせる好手。△8八竜▲6八歩△9七角成に▲4五歩△同歩▲4八香と進み、先手の攻めが止まらない。以下も粘りを許さず菅井の快勝となった。
写真:飛龍
第3局は愛知県名古屋市「か茂免」にて先後を入れ替えて再び三間飛車の相穴熊へ。本局はシリーズ随一の激闘となった。中盤で藤井が千日手模様を打開するが、裏目に出て形勢は菅井に傾く。
【第3図は△2九飛成まで】
後手の穴熊は薄いようでも、8二には馬が、8一には飛車が利いており非常に遠い。よって次の△7七桂にまさる攻めはない。どう粘るかだが、▲2二角が妙防。△7七桂なら▲同銀△同歩成▲同角成が堅いし、△5五歩は自分の馬の利きを止めて危険。目先を変えて△9五歩と端から攻めたがこれは先手も簡単には寄らず、最後は端からカウンターが入り、逆転に成功した。
写真:潤
第4局は岩手県宮古市「浄土ヶ浜パークホテル」にて。菅井の三間飛車に藤井は銀冠模様。あっさり序盤で千日手になり、藤井が先手番を得た指し直しは菅井の三間飛車から相穴熊へ。藤井ペースから菅井が逆転したかに見えたが、必死の食い付きで激戦へ。
【第4図は△7二銀打まで】
先手の穴熊は薄いので攻め続けるよりない。▲7二同馬△同銀に▲7一銀がうるさい食い付き。△同銀▲同竜は後手玉を引っ張り出せる形になる。実戦は▲7一銀に△7三銀打と埋め、▲8二銀成△同銀▲7一銀△7三銀打......で、本日二度目の千日手が成立。
2度目の指し直しは先後を入れ替えて再び相穴熊へ。飛車交換から互いにと金を作るが、気が付くと形勢は居飛車へ傾いていた。
【第5図は▲1五歩まで】
苦しい先手は端攻めに勝負を懸けたが、△1五同角が意表の応手。▲同香△同歩で角を取られたが、△1六歩からの攻めが先手の玉頭を直撃して厳しい。以下は先手の粘りを許さず押し切った。
写真:金子光徳
藤井は菅井の振り飛車に苦しめられたが、終盤のしぶとさを見せて耐えきった。一方の菅井は敗れたものの、振り飛車の可能性を示したと言えるだろう。
ライター渡部壮大