ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2023年06月15日
渡辺明名人に藤井聡太竜王が挑んだ第81期名人戦七番勝負。藤井は谷川浩司九段が記録した史上最年少名人のラストチャンスでもある。
第1局は東京都文京区「ホテル椿山荘東京」にて。先手の渡辺は角道を止める趣向を凝らす。難解な攻め合いとなったが、竜をうまく使った藤井の攻めが急所に入る。
【第1図は▲5八玉まで】
一手争いの終盤戦だが、△1五角が絶好の飛び出し。目標になりそうな角を逃げながら挟撃形を築く価値の高い手だ。▲4二銀△6一玉▲5四馬に△4八金▲6七玉△4二角▲4八飛△5三銀打▲4三馬△5二銀と鉄壁の受けで突き放した。まずは藤井が先勝
写真:将棋世界
第2局は静岡県静岡市「浮月楼」にて。後手の渡辺はまたも角道を止める趣向。持久戦から互いに端を攻め合う展開になった。
【第2図は△3三玉まで】
後手は上部の厚みを頼りにしているが、▲2六歩がそれを打ち砕く好手だった。大駒よりも2五の金の価値が高い。実戦は△8九竜▲7七金△7七桂打▲5九玉△7九竜▲同銀△3七成香としたが、▲5三成香が厳しく先手の勝ち筋だ。藤井が2連勝。
写真:将棋世界
第3局は大阪府高槻市「高槻城公園芸術文化劇場」にて。序盤の駆け引きで本局は藤井が雁木を目指した。後手の藤井が快調に攻めていたようだが、先手にチャンスが訪れる。
【第3図は△5八飛成まで】
銀を取らせる▲5九歩が妙手。△4八竜に▲4五桂△3八竜▲5三角成が絶好の攻めになった。以下△同金に▲2三飛成と、渋滞していた攻め駒を一瞬のうちにさばき、先手の一手勝ちコースに入った。渡辺が踏ん張り1勝を返す。
写真:金子光徳
第4局は福岡県飯塚市「麻生大浦荘」にて。渡辺の雁木に藤井は急戦を仕掛けて早い戦いになるが、うまく攻めをいなした藤井が形勢をリードする。
【第4図は△4二玉まで】
ここで▲7四歩が大きな突き出し。▲7三歩成を見せるとともに、△8四飛に▲7五角を用意している。△5三角とラインを消しながら△4五歩の反撃を見せたが、▲6六角がそれを上回る好手で盤面を制圧。△4五歩に▲3七銀△2六角▲同銀△2八飛▲7五角打まで、短手数での決着となった。
写真:銀杏
第5局は長野県高山村「緑霞山宿 藤井荘」にて。第3局に続き渡辺が趣向を見せて藤井の雁木を誘う。渡辺がペースをつかんだかに見えた局面もあったが、藤井も強く切り込んで逆転に成功した。
【第5図は▲7九金打まで】
局面は後手勝勢で、後はどう着地するか。△9七桂も自然だったが、実戦の△8六桂も鮮やか。▲同歩に△8七銀が決め手で渡辺の投了となった。▲8七同銀は△7九角成▲同金△9九角成、▲同金は△8八角成~△7九角成だ。本局により4勝目をあげた藤井の奪取が決まる。
写真:中野伴水
藤井は4勝1敗で史上最年少の20歳で名人となった。同時に羽生善治九段以来、2人目の七冠も達成。一方の渡辺は20歳で竜王を獲得して以来、タイトルを保持してきたが藤井にタイトルを奪われ続けてついに無冠になった。
ライター渡部壮大