チーム永瀬VSチーム稲葉 ABEMAトーナメント2023~予選Aリーグ第二試合振り返り~

チーム永瀬VSチーム稲葉 ABEMAトーナメント2023~予選Aリーグ第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年04月25日

 4月22日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023予選Aリーグ第二試合を振り返る。第一試合を勝利で飾ったチーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢王座、増田康宏七段、本田奎五段)と前回王者のチーム稲葉「NIN NIN」(稲葉陽八段、出口若武六段、服部慎一郎六段)の対戦だ。

振り駒の結果、第1局の先手番はチーム稲葉に決まった。カードは増田-出口戦。出口が角換わり腰掛け銀の熱戦を制す。第2局は本田-出口戦。角換わりで本田が研究手を披露し、出口が序盤から時間を使って対応する格好に。どちらが勝つかわからない手に汗握る最終盤、時間切迫の中、出口が駒台の角をポロッと盤外に落としてしまうハプニング。着手が間に合わず、潔く投了となった。これで1勝1敗。勝負どころの第3局、チーム稲葉としては味の悪い展開で迎えた。

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第3局 永瀬拓矢王座-服部慎一郎五段

 リーダーの永瀬、ニンニン服部がぶつかる。戦型は矢倉戦に。

【第1図は▲5八銀まで】

109手目▲5八銀と打った局面。しぶとい受けの手だ。△5八同角成▲同金△同竜なら少し余裕が生まれる。しかし△5六歩が好手。2枚換えでも十分そうだが、さらに厳しい手があった。▲4九銀には△5七歩成から△6八とが速い。先手陣は崩壊している。
「強くない? 強すぎない? ちょっと」(増田)
「いやーいい手、めっちゃいい手」(出口)
と両チームの控室も称えたほど。
これで永瀬がはっきり優勢になり、最後は鮮やかな即詰みに打ちとった。筆者はお口あんぐり、言葉が出ない。大谷翔平選手の規格外なホームランを見たような気分になった。敗れたとはいえ服部も随所に力を見せており、非常に見応えのある将棋であった。

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第4局 増田康宏六段-稲葉陽八段

 これで流れはチーム永瀬に傾いた。第4局は増田、稲葉が出陣。稲葉はチームリーダーの意地を見せ、流れを取り戻したいところ。先手の増田が雁木から右四間飛車風味の駒組みにすると、稲葉は4筋に飛車を回って右玉に。長時間の公式戦を思わせるような長い序盤戦となった。

【第2図は△2二歩まで】

第2図は100手目の局面。ここまで先手ペースで進んでおり、リードを広げようと▲1三桂成と攻める。しかしこの手で形勢を損ねたというのだから将棋は難しい。△1三同香▲2三歩成△同歩▲1三角成に△2四歩が好手。馬の利きを止めて△5七桂成を見せている。増田は咄嗟に▲2七飛と対応したが、2筋が堅くなった。すかさず△8三桂と反撃。▲1四馬に△9四歩と端を攻めて後手も戦えるようになった。以降の稲葉の指し回しは圧巻。前回大会で破竹の勢いで勝ちまくった増田を相手に、力を出させずねじ伏せた。 そして勝負の第5局。

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第5局 稲葉陽八段-永瀬拓矢王座

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 第3局、第4局ともにリーダーがとにかく強かった。そのふたりが相まみえたのだからボルテージは最高潮。大注目の一戦は意外にも一方的な展開となった。

【第3図は▲5六角まで】

戦型は相掛かり。49手目▲5六角が好点の一着。△3三銀には▲3五歩(△同歩は2三が破れる)があり、▲7五歩の桂頭攻めも狙っている。永瀬は眉間を押さえて熟考。有効な手が難しいのだ。1分以上考えて△3三桂とひねり出したが、▲3五歩△同歩▲3四歩△4五桂▲同桂△同歩▲同角と自然に応じられて後手が苦しくなった。このままじりじりと差を広げて稲葉が勝利。リーダー対決を制したのは大きかった。

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 第6局も稲葉が名乗りを上げてなんと3連続出場。視聴者の期待(?)に応える英断だ。2勝3敗と巻き返されたチーム永瀬。チームメイトたちの敵討ちに本田が立ち向かったが、勢いを止められなかった。第7局は永瀬と服部が再び対戦。あと1勝といういいムードで肩の力が抜けたのか、服部が早い段階で優勢に。逆転を許さず冷静に勝ちきった。

 今回の主役は間違いなく稲葉だろう。3連投からの3連勝で完全に流れを自チームのものにした。これほど頼れるチームリーダーはいるだろうか。前回王者が初の2年連続優勝に向けて幸先のいいスタートを切った。またこの日は熱戦揃いで、両チームの充実ぶりもうかがえた。今後も熱戦を期待したい。

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 【総合成績】
第1局 増田●-○出口(第1局はチーム稲葉が先手番。以下は交互)
第2局 本田○-●出口
第3局 永瀬○-●服部
第4局 増田●-○稲葉
第5局 永瀬●-○稲葉
第6局 本田●-○稲葉
第7局 永瀬●-○服部

 【個人成績】
永瀬王座 1-2
増田七段 0-2
本田五段 1-1
稲葉八段 3-0
出口六段 1-1
服部六段 1-1

対局時の段位は当時のもの

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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