二強時代に終止符を―第34期女流王位戦五番勝負展望―

二強時代に終止符を―第34期女流王位戦五番勝負展望―

ライター: 武蔵  更新: 2023年04月24日

【女流王位戦開幕】

大型連休を前に、第34期女流王位戦五番勝負が始まる。里見香奈女流王位(女流五冠)に挑むべく、檜舞台に立ったのは伊藤沙恵女流四段。伊藤は今月18日に行われた対局に勝ち、女流三段昇段後130勝を挙げて、規定により女流四段に昇段した。里見と伊藤が女流王位戦の番勝負を戦うのは、第28期(2017年)以来、6年ぶりとなる。直近のタイトル戦では、2021年の第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負で顔を合わせた。結果は3勝1敗で伊藤が里見から女流名人位を奪取し、9回目のタイトル挑戦で念願の初戴冠となった。その後、伊藤は西山朋佳女王・女流王将(肩書は当時)の挑戦を受けて失冠したが、タイトル獲得経験を持って初めて挑む里見との番勝負は、これまでの戦いとはひと味違ったものになるだろう。

【成長した姿を】

伊藤は挑戦者決定リーグ白組に参加し、5戦全勝での優勝を決め、紅組リーグ優勝の甲斐智美五段と挑戦者決定戦を争った。甲斐女流五段は女流王位のタイトルを4期保持する実力者。第16期マイナビ女子オープンでも挑戦者に名乗りを上げ、その実力を示している。

【第1図は△3五銀まで】

第1図は挑戦者決定戦の将棋。先手の攻めがやや細いながらも、後手は受け間違えるとたちまち防戦一方に追いやられかねない。△5四金ではなく△3五銀と押さえ込みを図ったのが、伊藤の棋風が現れた一打。この銀打ちが手厚く、▲3九飛△3六歩で飛車角の押さえ込みに成功した。このあと、打った銀も先手玉の寄せに働く活躍を見せ、そのまま押しきった。局後のインタビューでは「タイトルは獲って終わりではなく、さらに戦っていかなければいけない。自分がタイトルを獲得してみて、里見女流王位の強さと凄みをあらためて感じた。前回、女流王位に挑戦したときよりもいろいろと経験を積んだので、成長した姿を見せられるように戦いたい」と抱負を述べている。

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写真:牛蒡

【結果よりも】

里見が初の女流王位のタイトルを獲得したのは第23期。それから現在まで通算8期の獲得を誇る。前期の番勝負では、西山白玲・女王(肩書は当時)の挑戦を退けて防衛を果たした。元奨励会三段同士の高レベルの熱戦は、女流トップの実力をあらためて世に知らしめたものでもあった。
里見は最近のインタビューで、「目の前の一局に集中して自分の力を出しきり、個性を出せるように」との回答が多い。勝負は心技体すべての要素が絡む総力戦。勝ち負けに執着するよりも全力を出しきるように、と考え方を変えると、結果を意識することが少なくなったという。己の棋力向上を第一に考え、目の前の一局に集中し続けることが、いい結果につながっている。女流棋戦タイトル通算獲得数52期は、女流史上1位の記録。記録は今後どこまで伸びるのか、興味深い。

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写真:牛蒡

【対戦成績】

 女流王位戦の持ち時間はストップウォッチ形式(1分未満の消費時間は切り捨て)の各4時間で、女流棋戦で最長となる。女流棋戦はチェスクロック方式(秒単位で持ち時間が消費される)が多く、持ち時間の使い方は、勝負の行方を左右する要素のひとつとなりうる。
これまでの対戦成績は里見の23勝、伊藤の9勝と里見が圧倒している。ただ、直近の5局では伊藤が3勝2敗と勝ち越しており、ここからの巻き返しに期待が持てる。戦型は相振り飛車から、里見の振り飛車、伊藤の居飛車という対抗形も数多く指されている。飛車を振る場所も向かい飛車から中飛車まですべて指されており、対抗形が濃厚ながら戦型を絞りきるのは難しい。だからこそ、序盤から入念な準備が必要で、双方の工夫が見られるのは間違いない。序盤の細かな駆け引きも、楽しみのひとつといえるだろう。

【女流棋界の行方を占う番勝負に】

現在、8つの女流タイトルは、里見と西山女流三冠で分け合う。しかし、昨年は女流名人のタイトルを取った伊藤が割って入った。二強時代ともいわれる現状に終止符を打つには、伊藤の活躍は欠かせない。この女流王位戦が、これからの女流棋界の行方を占う熱戦になることを期待したい。

第1局は4月26日(水)、兵庫県姫路市「夢乃井」を皮切りに始まる。対局の模様は女流王位戦中継サイトや、日本将棋連盟ライブ中継などで中継される。

武蔵

ライター武蔵

2016年10月から、日本将棋連盟の中継スタッフとして働く。趣味は音楽鑑賞、野球観戦。サザンオールスターズと広島東洋カープの話になると、ただでさえ止まらないトークが、より勢いを増す。

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