牙城は揺らぐのか、前人未到への挑戦 ―第72期ALSOK杯王将戦七番勝負展望―

牙城は揺らぐのか、前人未到への挑戦 ―第72期ALSOK杯王将戦七番勝負展望―

ライター: 飛龍  更新: 2023年01月07日

2023年1月8日(日)から開幕する、第72期ALSOK杯王将戦七番勝負を展望する。藤井聡太王将(五冠)に挑戦するのは永世王将の資格を持つ羽生善治九段。保持するタイトル数が現在最多の王将に、歴代最多タイトル獲得数を誇る挑戦者という顔合わせとなった。

藤井聡-羽生戦の意義

藤井王将の前に五冠を達成したのは羽生九段。七大タイトル当時、唯一七冠全冠を制覇するなど棋界の中心に君臨した。さらにその前に五冠を達成したのは中原誠十六世名人。羽生九段がトップ棋士の仲間入りを果たした頃、中原十六世名人も棋界トップを争いながらも、両者がタイトル戦で顔を合わせたことはない。その点はいまも悔やまれる声が聞かれる。羽生九段と、その次代の覇者といえる藤井王将がタイトルを争うことは、棋界にとっても大きな意義を持つことは間違いないだろう。なお、中原十六世名人と羽生九段との年齢差は23だったが、羽生九段と藤井王将は32歳離れている。藤井王将がこのような年齢差でタイトル戦を戦ったことはなく、これまでは木村一基王位(当時)との29歳差が最高だった。

安定して勝つ藤井王将

藤井王将はこれまで登場したタイトル戦11シリーズをすべて勝ってきている。七番勝負で2敗したのは昨秋の第35期竜王戦のみで、後手番で2局を落とした。逆にいえば先手番はしっかりと勝ち、後手番でも白星を挙げればタイトル戦を制すの構図が見える。今七番勝負開幕前の時点で見ると先手番では半年以上も負けがなく、17連勝継続中。先手番の通算成績、151勝20敗(0.883)の高勝率は圧巻というよりない。藤井王将を相手に番勝負を勝つとなれば、藤井王将の後手番の将棋を破るとともに先手番の将棋にも黒星をつけることが大きなポイントとなる。いままでは誰も成功したことがない。

また、藤井王将は今七番勝負の第4局の前に開幕する第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負で、渡辺明棋王(名人)に挑戦することが決まった。こうした番勝負の並行は、2020年に初めてタイトル戦に登場した当初から経験しており、密なスケジュールもさして問題なさそうだ。

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写真:中野伴水

数字では測れない羽生九段

羽生九段は挑戦者決定リーグ戦で6戦全勝と他を圧倒した。変則的な日程で進行し、4勝0敗のあとに残った2人が永瀬拓矢王座と豊島将之九段。両者の実力もさることながら、羽生九段から見た対戦成績も鬼門といえる数字が残る。すなわち、永瀬戦の時点では4勝12敗、直近は5連敗中、豊島戦では19勝26敗、直近10戦は7連敗を含む1勝9敗。数字だけを見れば連勝を予言するのは難しい。そうした逆境をはねのけ、堂々の6戦全勝で挑戦者に名乗りを挙げたことは、藤井王将との番勝負にかける並々ならぬ熱意の現れか。

対戦成績は羽生九段から見ると1勝7敗。王将戦では第69期から3期連続で挑戦者決定リーグ戦で顔を合わせ、3局とも後手が制した。交互に勝って藤井2勝、羽生1勝となっている。これまでの対戦は矢倉、横歩取り、角換わり腰掛け銀、相掛かりと相居飛車では幅広い戦型が指され、羽生九段の三間飛車も見られた。

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写真:八雲

戦型選択に注目

藤井王将はここ半年あまり、先手番で▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩の出だしになった場合、▲7八金からの相掛かりではなく、▲7六歩として角換わりを選んでいる。手順中、後手が△3四歩など変化する余地もあり、横歩取り、雁木、後手振り飛車などの戦型に派生していく。羽生九段の対藤井戦の勝局は横歩取りだった。序・中・終盤に隙を見せない藤井王将を相手にいかに戦うかは、どの対戦者も課題となる。藤井王将の直近のタイトル戦だった竜王戦では、挑戦者の広瀬章人八段が研究の最先端からは少し外れた形を掘り起こし、序盤でリードを奪う展開が多かった。単純にキャリアを考えれば、羽生九段にはそれ以上の経験の蓄積があるといえる。羽生九段がどのような戦型を選ぶのかは注目だ。いまや藤井王将が勝つのは誰も驚かない。七番勝負が盛り上がるには、羽生九段がいかに勝つかにかかっている。もしもタイトル奪取となれば、前人未到のタイトル獲得通算100期という点でも話題性は高い。

飛龍

ライター飛龍

日本将棋連盟のネット中継記者として関西将棋会館を中心に2013年11月から活動している。一般社団法人日本フォトロゲイニング協会登録監修者。

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