棋界最高峰の頭脳対決、始まる ―第35期竜王戦七番勝負展望―

棋界最高峰の頭脳対決、始まる ―第35期竜王戦七番勝負展望―

ライター: 武蔵  更新: 2022年10月06日

竜王戦開幕

秋が深まると、またひとつ楽しみな戦いが始まる。将棋界最高峰の棋戦、竜王戦七番勝負の季節がやってきた。第35期竜王戦七番勝負は、藤井聡太竜王(五冠)に広瀬章人八段が挑む。これまでの対戦成績は藤井の5勝、広瀬の1勝。タイトル戦の番勝負を戦うのは今回が初となる。 藤井は昨期、豊島将之竜王(肩書は当時)から竜王位を奪取し、今期は初防衛を見据える。防衛となれば、渡辺明名人(棋王)が持つ竜王位の最年少防衛記録(21歳7か月)の更新となり、またひとつ記録を塗り替えることになる。 広瀬にとっては、2019年の第32期以来となる竜王戦の番勝負で、復位を目指す戦い。奪取すると、竜王獲得2期(タイトル通算獲得3期)の規定によって九段昇段が決まる。どちらが番勝負を制しても、大きな区切りとなる戦いだ。

順風満帆の竜王

八大棋戦のうち、藤井はすでに五冠を獲得し、早くも全タイトル保持の記録が期待されつつある。弱冠20歳ながら貫禄は十分で、王者の風格が漂う。2022年度の番勝負はすべて防衛する立場でありながら、第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負から始まり、第7期叡王戦五番勝負、そして、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負で、すべて挑戦者を退けて防衛を果たした。これまでタイトル戦の番勝負に10回登場し、そのすべてに勝って奪取、または防衛を決めるという比類ない活躍を見せている。向かうところに敵はなく、順位戦や棋王戦でも破竹の勢いで勝ち進み、その内容からも充実具合がうかがえる。過去には2日制対局での体力不足を懸念する声もあったが、本人も「トレーニングを行っている」と公言しており、もはや体力の部分すら心配いらないだろう。

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父・広瀬章人

今期の広瀬は2組ランキング戦で、初戦から藤井猛九段、三枚堂達也七段、都成竜馬七段、森内俊之九段と、竜王獲得経験者を次々に破って優勝を果たした。決勝トーナメントでは丸山忠久九段、佐藤天彦九段、そして山崎隆之八段に勝ち、一度も敗れることなく挑戦権を獲得した。 かつては振り飛車党だった広瀬。2010年に王位を獲得した原動力となった戦法から、ついた呼び名は「振り穴王子」。そんな王子は棋風を大きく変えて居飛車党に転向し、2018年に羽生善治竜王(肩書は当時)に挑戦して、竜王位を奪った。羽生竜王のタイトル通算100期獲得を阻み、27年ぶりに無冠に追い込んでニュースとなったのは記憶に新しい。 前回の2019年のタイトル戦と大きく違うのは、子どもの存在だ。2016年に結婚し、2020年には一児をもうけ、守るものが増えた。挑戦者を決めた対局後のインタビューでは、「前回の竜王戦から、家族が増えて生活も変わった。大変なところはあるが、いい刺激になっているし、家族のために頑張るようにしている」と、家族の存在が広瀬を突き動かしているようだ。

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優位な流れを作り出すには

藤井は広瀬について「中終盤の鋭さを警戒している」と話す。広瀬も藤井の強さの要因を「序中盤の研究精度が上がって、終盤の強さは相変わらず。序中盤で出遅れることが少なくなって、完成度が年々上がっている」と分析する。 中終盤の強さに定評がある両者だけに、序盤の事前研究や作戦のストックの豊富さがものをいう。近年の2日制のタイトル戦は、定跡となっている局面は進行が早く、1日目の午前で勝負どころを迎えるケースが増えており、事前準備の重要性を顕著に感じるようになった。事前の研究は、もはや当たり前。そこから相手の研究をいかに外して勝負に出られるかが、優位な状況を作り出す鍵になる。序盤から現れるであろう、細かな工夫にも注目したい。 七番勝負の行方を占う大事な初戦は、第30期から6年連続で開幕場所となる、東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で、10月7日(金)から始まる。

武蔵

ライター武蔵

2016年10月から、日本将棋連盟の中継スタッフとして働く。趣味は音楽鑑賞、野球観戦。サザンオールスターズと広島東洋カープの話になると、ただでさえ止まらないトークが、より勢いを増す。

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