誰よりも藤井を知る男の挑戦 ─第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負展望─

誰よりも藤井を知る男の挑戦 ─第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負展望─

ライター: 夏芽  更新: 2022年06月02日

藤井聡太棋聖に永瀬拓矢王座が挑戦する第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負が、6月3日(金)に開幕する。

3連覇を目指す藤井に対し、永瀬は6年ぶり2回目の棋聖挑戦。両者がタイトル戦で顔を合わせるのは今回が初めてだが、どのような展開になるだろうか。

タイトル戦負け知らずの藤井

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写真:常盤秀樹

 藤井とって棋聖戦は、記念すべき初タイトルを獲得した棋戦。現在の五冠に至るまでの快進撃は、2年前の棋聖戦から始まった。

前期は初めての防衛戦に臨み、渡辺明名人とのリターンマッチを3連勝で圧倒。初防衛とともに九段昇段を決め、それぞれ最年少記録を塗り替えている。

【第1図は△7一飛まで】

中でも前期五番勝負第3局の△7一飛は、藤井の妙手のひとつとして記憶に残っているファンも多いだろう。7三の地点から引いた飛車だが、4四の馬が利いているからだ。

実戦は渡辺名人が▲同馬と取り、以下△7九竜▲4八玉△3六桂までで藤井の勝ちとなった。馬の利きがそれたため、△3六桂に▲5七玉は△6六金▲同歩△4八角と迫って先手玉が詰む。

藤井は3月の順位戦のあと、しばらく公式戦がなかったが、先日の第7期叡王戦五番勝負では出口若武六段の挑戦をストレートで退け、ブランクを感じさせなかった。

これまで8回のタイトル戦はすべて制している。近年は序盤からリードして押し切るケースも多く、さらに付け入る隙がなくなった印象を受ける。

永瀬の安定感

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写真:常盤秀樹

今期の永瀬は決勝トーナメントで丸山忠久九段、西田拓也五段、佐々木大地六段(現七段)、渡辺明名人に勝ち、五番勝負の挑戦権を獲得した。 3期連続で挑戦者決定戦に進みながらも、前々期は藤井に、前期は渡辺名人に敗れて涙を呑んだ。まさに「三度目の正直」と言える形で6年ぶりの棋聖挑戦を勝ち取った。

今期の決勝トーナメントは、4局とも中盤以降でリードを広げていく強い内容だった。

【第2図は▲7七飛まで】

第2図は挑戦者決定戦の一場面。後手は△8七歩、△8五歩、△9七歩などの攻め合いも考えられたが、△2四玉と上を目指したのが「負けない将棋」と言われる永瀬らしい一着。実戦も1七の地点で入玉を果たし、万全の態勢を築いてから穴熊を攻略した。

永瀬は各棋戦で安定した活躍を見せており、今年は棋王戦に続いて2つ目のタイトル挑戦。直近10局の成績も9勝1敗(5連勝中)と好調を維持しており、文字通り、勢いに乗った最強の挑戦者と言える。

難しい戦型予想

両者の対戦成績は、藤井が7勝3敗と勝ち越しているが、直近は永瀬の2連勝中。

居飛車党の藤井に対し、注目されるのは永瀬の作戦選びだ。第1局の振り駒によって、その後の第4局まで事前に先後が決まることになる。

角換わりや相掛かりが中心となりそうだが、過去の対戦では永瀬が振り飛車を指した例もあり、今回の五番勝負もどこかで対抗形が見られるかもしれない。 藤井にとっては、今までとは違った対策の立て方が必要になりそうだ。

両者は定期的に1対1の研究会を行っている。ABEMAトーナメント(準公式戦)では一緒にチーム組んだこともあり、永瀬は挑戦権獲得後のインタビューで「藤井棋聖の実力は自分が一番分かっている」と話した。

将棋、勝負に対してストイックな面は共通しており、互いに相手の強さ、手の内を知り合っているぶん、序盤の駆け引きから見逃せない展開が期待される。 一時の「4強時代」から頭ひとつ抜け出した藤井。果たして永瀬は、藤井のタイトル戦の連勝を止められるか。ファンにとっては待ちに待った大注目のカードだ。

夏芽

ライター夏芽

2011年から関西を拠点にインターネット中継記者として活動。将棋は指すより見て楽しむタイプ。暇さえあれば書店の将棋コーナーに足を運んでいます。

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