ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2022年05月30日
藤井聡太叡王に出口若武六段が挑戦した第7期叡王戦五番勝負。これまで叡王は防衛がなく、毎年タイトル保持者が変わる中で迎えたシリーズだった。
挑戦者決定戦は出口五段(当時)と服部慎一郎四段によるフレッシュな顔合わせで、どちらが勝っても初のタイトル戦登場となる。矢倉の出だしから乱戦となり、服部のペースで進むが出口も粘り強い指し回しでチャンスを待つ。
【第1図は▲4六飛まで】
混戦となり相入玉もチラつく局面だが、ここで△5四桂が好手だった。▲5四同歩なら△5五金、▲4九飛も△6六金▲同歩△同馬から下段に押し返すことができる。そうなれば後手は寄らない形ではっきり勝勢だ。実戦は▲6五玉と逃げたが△4六桂で飛車を取られたのは大きく、後手が逆転勝ちを収めた。
出口はタイトル戦こそ初登場だが、奨励会時代に新人王戦決勝で藤井と番勝負を戦っている。
写真:牛蒡
第1局は東京都千代田区「江戸総鎮守 神田明神」にて。相掛かりから難しい形勢が続いたが、徐々に藤井がリードを広げていった。
【第2図は△8八歩まで】
後手の攻めは時間が掛かるため、先手としては決め所だ。▲8一竜と入り、△7一金に▲6三歩が決め手。△8一金と竜を取られても、▲6二歩成でと金を作れるのは大きい。以下は確実に寄せ切って藤井が先勝。
写真:文
第2局は愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」にて。出口が先手で相掛かりとなったが、中盤に飛車で馬を追い掛ける形となって千日手となった。指し直しは先後を入れ替えて再び相掛かりに。持ち時間は少ないが、中盤で藤井が鋭い踏み込みを見せた。
【第3図は△2二銀まで】
第3図から▲2一角が決断の一手。△2三銀▲3二角成△2四銀で飛車を取られたが、▲8二歩△9三桂▲8一歩成△同銀に▲4四金が好手で攻めが続く。後手は飛車の位置が悪く、受けの手段が限定されているからだ。以下も細い攻めを巧みにつなぎ、藤井が連勝を決めた。
写真:紋蛇
第3局は千葉県柏市「柏の葉 カンファレンスセンター」にて。戦型はまたも相掛かりに。出口が巧みな指し回しで徐々にペースをつかんでいくが、藤井もさすがの勝負術を見せて際どい終盤戦に。
【第4図は▲3一同竜まで】
第4図での次の一手が勝敗を分けた。一見△7五角が好防手のようだが、▲3五桂△同歩▲3四金△同玉▲3五歩△同玉▲2五飛以下の詰みがある。実戦は△4二銀と受けたが、▲2二竜△8八角に▲3五桂△同歩▲3四金以下の即詰みに打ち取った。
図では△4二角が好手だった。3三に利かせておけば▲3五桂以下の詰み筋は消えているし、本譜同様の▲2二竜なら△8六角の飛び出しが厳しい。
写真:琵琶
熱戦の第3局を制し、藤井が3連勝で叡王を防衛。タイトル戦では昨年の王位戦第5局から負けなしで、13連勝とした。番勝負として見ても初のタイトル戦から負けなしで8期目のタイトル。10代ではあるが、早くも歴代9位タイの獲得数となった。
ライター渡部壮大