若者同士の爽やかな戦い、第7期叡王戦五番勝負展望

若者同士の爽やかな戦い、第7期叡王戦五番勝負展望

ライター: 相崎修司  更新: 2022年04月27日

 2021年度に五冠を達成し、2年連続の最優秀棋士となった藤井聡太叡王は、第7期叡王戦の防衛戦が新年度の初陣となる。未だ年齢で数えると19歳、現役棋士の中では二番目に若い藤井叡王だが、名実ともに将棋界のトップであることは間違いない。新年度も多くのファンから活躍を期待されるだろう。

 その藤井叡王に挑戦を決めたのは、今回がタイトル戦初登場となる出口若武六段。藤井ほどではないが、26歳でタイトル戦出場というのは過去の例と比較しても若い年齢である。若者らしい爽やかな戦いが期待されるだろう。五番勝負は4月28日の第1局「江戸総鎮守 神田明神」から始まるが、これまでの両者の戦いを見ていこう。

充実著しい挑戦者 出口若武六段

【第1図は△2四玉まで】

 まずは挑戦者の出口六段の将棋から。第1図は4月2日に行われた今期叡王戦挑戦者決定戦の対服部慎一郎四段戦。ここでは先手の服部が有利だが、図からの▲2一金が緩手で、このスキを出口は見逃さなかった。△1五歩▲4六飛と追ってからの△5四桂が必殺で「狙っていました」と出口は振り返っている。この桂打ちに対して▲同歩は△5五金から飛車を取られてしまい、かつ玉を下段に落とされるので先手の勝ち目がなくなる。また△5四桂に▲4九飛は△6六金▲4七玉△4六香で、これも後手勝勢だ。実戦は▲6五玉の上部脱出に望みを託したが、出口は飛車を取ってから的確に先手玉を追い詰めて、自身初のタイトル戦出場を勝ち取った。この挑戦者決定戦は出口にとって2022年度の初陣だが、昨年度は39勝14敗、7割3分6厘で勝ち数と勝率が全棋士中5位、対局数が7位という好成績を上げていた。この充実度を武器に、タイトルへ挑む。

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写真:牛蒡

絶対王者 藤井聡太叡王

 対する藤井叡王は前述した通り、第1局が22年度の初戦となる。一ヵ月以上公式戦の舞台から離れているのは、実戦感覚が取り戻せるかという点で気になるところだが、過去にも類似の状況で幾度となく圧勝劇を見せており、この空白期間は実戦感覚が鈍るというよりも、更なる自力強化に向けての充電の期間と言えそうだ。昨年度はタイトルが五冠というだけでなく、52勝12敗の勝率8割1分2厘(対局数と勝ち数が1位、勝率が2位)と、数字の上でも文句のつけようがない成績である。

【第2図は△7二玉まで】

 第2図は自身初の叡王獲得の舞台となった、前期の五番勝負第5局、対豊島将之叡王(当時)戦。ここでの▲9七桂が話題を呼んだ一着だ。手の意味としては次に▲8五桂が実現すれば後手玉が極めて受けにくいというものだが、ここでは▲5五角が多くのプロ棋士にとっての第一感であるとされた。実戦は▲9七桂に△3六歩(△5六歩がまさる)▲8五桂△3七歩成▲6二金△同玉▲4四角△7二玉▲6一銀と進み、ここで豊島が投了した。後手玉は即詰みである。

 のちに藤井自身も▲9七桂では▲5五角が最善だったと振り返っているが、秒に追われる中でこのような桂跳ねに目が行くことが藤井の凄さであると言える。

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写真:琵琶

出口に隠し玉の用意はあるか!?

 改めて両者の戦いについて考えてみよう。まず藤井にとっては初めて後輩棋士(棋士番号が若い)とのタイトル戦である。過去の例からすると大棋士が初めて後輩とタイトル戦でぶつかった時は、格の違いを見せつけているのだが、今回はどうだろうか。そして出口はタイトル戦こそ初挑戦だが、藤井との番勝負はすでに一度経験がある。自身が三段時代に決勝三番勝負へ勝ち進んだ、2018年の第49期新人王戦だ。

 この新人王戦は藤井が2連勝で優勝を決め、また出口が棋士となってからもやはり藤井が2連勝していたが、直近の両者の対決では出口が勝っている。その戦いから2年以上の月日がたった。そこから多くのタイトルを積み上げた藤井の強さは疑うべくもないが、出口も自身の成長を改めて見せつけたいだろう。そして戦型はどうなるか、過去の5局では一度だけ出口が三間飛車に振った将棋がある。純粋居飛車党の藤井と、振り飛車党から居飛車党に棋風改造した出口、居飛車が多く見られることは間違いないだろうが、どこかで出口が隠し玉を披露するか。フレッシュな五番勝負に、要注目である。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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