第33期女流王位戦五番勝負展望

第33期女流王位戦五番勝負展望

ライター: 渡辺弥生  更新: 2022年04月25日

 2022年3月14日、東京・将棋会館の「特別対局室」で第33期女流王位戦挑戦者決定戦が行われた。<紅組>優勝は第29期女流王位の渡部愛女流三段、<白組>優勝は西山朋佳白玲・女王。西山の四間飛車穴熊に渡部が銀冠に組み、端から仕掛けてペースをつかむが西山も得意の玉頭戦に持ち込み反撃。激しいたたき合いとなった。
 下図は終盤戦。先手が渡部、後手が西山。渡部が角を4四へ飛び出したところ。後手の穴熊は急所に歩が2枚垂れていて生きた心地がしないが、ここから西山の手が止まらない。

【第1図は▲4四角まで】

第1図以下の指し手
△2八飛▲6八銀△2九飛成▲3三角成△9八歩▲同香△8六桂
西山は1分で△2八飛。ここで▲3三角成は△8四金▲同銀△7八飛寄成▲9七玉△8六金までとなる。本譜は▲6八銀△2九飛成▲3三角成と桂を取り合う。先手からは8三へ桂を打ち込むわかりやすい寄せがあるが西山はもはや自陣を見ていなかった。△9八歩▲同香△8六桂が厳しい寄せ。△9八歩に▲8三桂は△同銀▲同歩成△同金▲8四歩△9九歩成▲8三歩成△8九龍▲9七玉△9八龍で後手の勝ち。7三の金がどくと飛車が敵陣まで通る。実戦も最後の△8六桂以下一度も自陣を振り返ることなく先手玉を寄せ切り、里見香奈女流王位への挑戦権を獲得した。

タイトル経験者5人を連破し番勝負へ

 挑戦者の西山朋佳白玲・女王は1年前の2021年4月に三段で奨励会を退会し、女流棋士に転向した。奨励会在籍中から女流棋戦に参加し、これまでに白玲1期、女王4期、女流王座2期、女流王将2期の合計9期の女流タイトルを獲得している。現在白玲と女王の二冠を保持。奨励会のころ、2019年10月から2020年3月にかけて行われた第66回奨励会三段リーグ戦で次点を取ったことと、2021年の第92期ヒューリック杯棋聖戦で一次予選を突破、二次予選決勝まで勝ち進んだことが強く印象に残っている。どちらも女性として初めての快挙。西山の棋聖戦の対局日は棋譜中継から目が離せなかった。
 女流王位戦に奨励会員は参加できないので、西山は今期予選からの出場。白組リーグでは初戦から清水市代女流七段、伊藤沙恵女流名人、加藤桃子清麗、甲斐智美女流五段、中井広恵女流六段と5人のタイトル経験者を連破。女流王位戦では負けなしだ。
 将棋は豪快な攻め将棋の振り飛車党。振り飛車なら何でも指すが、穏やかな定跡手順を踏むことはない。中盤戦から繰り出される強烈なパンチには毎度目を見張らされる。早見え早指しで挑戦者決定戦でも持ち時間3時間のうち1時間18分しか使っていない。

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写真:日本将棋連盟

記録を更新し続ける女流棋界の第一人者

 西山を迎えうつのは里見香奈女流王位。女流王位のほか女流王座、女流王将、倉敷藤花の四冠を保持する言わずと知れた女流棋界の第一人者。タイトル獲得数は47期でクイーン王座、クイーン名人、クイーン王位、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格を持つ。女流王位は7期獲得し、現在3連覇中。女流タイトル獲得数は清水市代女流七段の43期を抜いて歴代単独1位で、毎年この記録を更新し続けている。
 中飛車を主戦場とする攻守バランスのとれた振り飛車党。居飛車を指すこともあれば、中飛車に振ったあと玉を左に囲う将棋も良く見るので、何々党、という表現は適切ではないかもしれない。終盤の鋭い寄せが武器で「出雲のイナズマ」の異名を持つが、里見の本当の怖さはちょっとやそっとの不利ではびくともしない受けの強さ、粘り強さだと思う。中飛車で左に囲う際も穴熊ではなく金銀二枚の薄いバランス型の玉型を好む。最後はきっちり一手余して勝ってしまう。終盤の読みの精度は抜群だ。

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写真:日本将棋連盟

女流棋界最高峰の戦い

 現在女流棋界の双肩を担う二人がタイトル戦でぶつかるのは今度が8度目。2019年の第12期マイナビ女子オープン五番勝負、第41期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負、第9期リコー杯女流王座戦五番勝負、2020年の第10期リコー杯女流王座戦五番勝負、2021年の第43期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負、第11期リコー杯女流王座戦五番勝負、2022年の第15期マイナビ女子オープン五番勝負だ。最後の第15期マイナビ女子オープン五番勝負はちょうど番勝負の真っ最中で、二人は同じ相手と二つのタイトル戦を並行して戦うことになる。
 番勝負では最初西山が里見に4連勝。その後2021年の第43期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負から里見が2連勝している。昨年度西山は10月に白玲のタイトルを獲得したあと、里見にタイトルを二つ奪われた。里見は清麗を加藤桃子女流三段、女流名人を伊藤沙恵女流三段に奪われたものの、西山から女流王将と女流王座を取り返した。内容を見ると二人とも将棋の調子は上々。たまたまこういう結果になっているだけで、今回里見と西山のどちらが勝つかはまったくわからない。
 戦型は相振り飛車のほかに最近は里見が居飛車を採用することが多い。先に触れた里見が中飛車から玉を左に囲う将棋もたびたび現れている。今度の番勝負でも居飛車対振り飛車の対抗型、それに近い将棋が多く見られるだろう。序中盤のあっと驚くような工夫や仕掛け、終盤の鋭い攻防にぜひご注目ください。

第33期女流王位戦五番勝負第1局は4月26日、兵庫県姫路市「夢乃井」で開幕する。

 
渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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