伊藤、悲願の初タイトル 第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負を振り返る

伊藤、悲願の初タイトル 第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負を振り返る

ライター: 渡部壮大  更新: 2022年02月28日

 12連覇中の里見香奈女流名人に伊藤沙恵女流三段が挑戦した第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負。伊藤が女流名人戦で里見に挑戦するのは3度目となる。

第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第1局

 第1局は神奈川県箱根町「岡田美術館」にて。角交換から早い段階で戦いとなる乱戦に。バラバラの陣形をうまくまとめ上げた伊藤が形勢をリードする。

【第1図は△6一同玉まで】

 攻められ続けていた先手が反撃に出たのが第1図。▲4五角が後手陣をにらむ好打。△5七歩成▲同銀△5四歩と手筋で受けようとしてきたが、▲7三歩△6三銀▲6五歩と歩を使ったパンチが入って攻めが分かりやすくなった。好防に力を見せた伊藤が先勝。

dijest_48jo_meijin-1.jpg

第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第2局

 第2局は島根県出雲市「出雲文化伝承館」にて。相振り飛車模様の出だしだったが、先手の里見が中飛車から居飛車に戻す珍しい展開。伊藤が押している将棋だったが、里見も強靭な粘りを見せて決め手を与えない。

【第2図は▲3七玉まで】

 先手の要の駒を狙う△2五銀▲5四馬に△1八角が好手順。▲同馬△同成銀で守りの馬を消しながら包囲網を完成させた。以下も着実に先手玉を追い詰め、伊藤が連勝。

dijest_48jo_meijin-2.jpg

第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第3局

 第3局は千葉県野田市「関根名人記念館」にて。伊藤の居飛車穴熊に対し、里見は向かい飛車から速攻を仕掛けてペースをつかむ。

【第3図は▲3二金まで】

 先手は銀を取ったが、先手の穴熊よりも後手の美濃囲いの方が堅く、攻めに専念できる。△3五歩と角の活用を図った。▲5六歩と△3四角に備えたが、△4七歩成▲同銀△2八飛成▲4八歩に△2五角とこちらに活用。以下は銀を取っての△7八銀を実現させて後手が制勝。里見が1勝を返した。

第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第4局

 第4局は「関西将棋会館」にて。第2局と同じく、相振り飛車模様から里見が居飛車に戻す。難解な形勢が続いたが、伊藤が丁寧に受けて徐々に形勢をリードしていく。

【第4図は▲6八玉まで】

 第4図はいよいよ大詰め。後手玉は8三を狙われているが、先手は金駒を手にしていないのでまだ大丈夫で、確実に寄せればよい。△8六桂が勝ちを決めた一着。次に△7八桂成以下の詰めろが受けにくい。実戦は▲7七銀とぶつけたが、それでも△7八桂成が軽手で、先手の投了となった。▲同玉は△8七角、▲同金は△5九角が痛打になる。伊藤が3勝1敗で女流名人奪取を決めた。

dijest_48jo_meijin-3.jpg

 伊藤は9度目の挑戦で悲願の初タイトルを獲得。これまでタイトルを獲得できなかったのが不思議なほどの実力者だが、ついに大願を成し遂げた。一方の里見は長きにわたって保持した女流名人を失い、四冠に後退。4人目のタイトルホルダー誕生により、女流棋界は戦国時代となりそうだ。

注目対局プレイバック

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

このライターの記事一覧

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています