受け巧者の服部か、積極的な攻めの井田か 第11期加古川青流戦三番勝負展望

受け巧者の服部か、積極的な攻めの井田か 第11期加古川青流戦三番勝負展望

ライター: 相崎修司  更新: 2021年09月24日

 第11期加古川青流戦の決勝三番勝負が始まろうとしている。今期の加古川青流戦は四段の棋士と奨励会三段上位者、そして女流棋士2名とアマチュア2名によるトーナメント棋戦で、棋戦名からも感じられるフレッシュさが売りの一つになっている棋戦だ。

 三番勝負に勝ち上がった服部慎一郎四段と井田明宏四段も有望な若手の2人である。服部の棋士デビューは昨年の4月だが、初参加の順位戦C級2組ではあと一歩で昇級という好成績を残した。井田に至っては今年の4月に四段昇段を果たしたので、まだ棋士としてのキャリアは半年もない。それでも本棋戦では決勝三番勝負に駆け上ってきた。

 服部の今期成績は20勝5敗という見事な勝ちっぷりだ。勝ち数20は藤井聡太三冠の27に次ぐ数字である。対する井田はまだ未参加の棋戦もあるため、対局数は服部ほど多くないが、ここまで0.733という高勝率を挙げている。

 両者が本棋戦において、ここまでどのような道のりをたどってきたか。まず服部は初戦で横山友紀三段(10月1日付で四段昇段)を破り、以降は宮嶋健太三段、渡辺和史四段、高田明浩四段を連破してきた。対して井田は徳田拳士三段、上野裕寿三段、伊藤匠四段、冨田誠也四段を破っての決勝進出である。まずは両者にここまでを振り返ってもらった。

 服部「今期の加古川青流戦を顧みると、2戦目の宮嶋三段との対局が、千日手になったことも含めて印象に残っています。千日手局は序盤から攻められて主導権を握られましたが、何とか粘って千日手に持ち込めました」

そして指し直し局については第1図からの次の手を積極的な一着だったという。

【第1図は▲5五歩まで】

「形は△4三銀、あるいはバランスを考えて△6三銀と打つところです。後者は△7三桂・△8一飛型を作る狙いですね。ですがこの時は△4三角と打ちました。▲5四歩の備えだけではなく、△7五歩からの攻めも見ています」

 実戦は△4三角から▲2六飛△7五歩▲同歩△2二玉▲5八金上△3四歩と進んでいる。以下の進行は必ずしも後手が良かったわけではないが「早指しなので勢いを重視し、その姿勢が幸いしました」と服部。

対する井田は準々決勝、伊藤四段戦の終盤を印象に残る局面として挙げた。

【第2図は△8六飛まで】

 井田「第2図まではよかったのですが、この角を取った△8六飛を▲同歩と取ったことで、一瞬ですが逆転されていたようです。以下△6八金▲8八玉△8七歩の進行は、こちらの玉に詰めろが続くかどうかはきわどいのですが、あとで調べてみると先手負けのようでした」
 実戦は▲8六同歩に△6六銀▲3一銀△同金▲6二飛△3二歩▲6六飛成と進み、先手勝ち筋となる。「△6六銀も詰めろですが、これは本譜の順で銀を抜いて勝てると思っていました。後手からすると5五の銀を使いたいので、△6八金~△8七歩の順は読みにくいと思います」と井田。
 では先手は第2図でどう指すかというと、8六の飛車を放置して▲4三歩成と踏み込むべきだった。これは後手玉への詰めろで、対して先手玉に詰みはない。
 だがこれは結果論。井田は▲8六同歩に12分を投資しているが「▲4三歩成の局面の不詰めを読むよりは、△6六銀以下の順を読んだほうがいいと思っていました」と明かす。終盤で時間を残していた井田に対し、伊藤はだいぶ前から1分将棋だったのも大きかったか。

 改めて決勝三番勝負にどう臨むかも両者に聞いた。まずは服部から。
 服部「(三段ながら決勝三番勝負へ進出した)2年前は悔しい思いをしました。特に3局目の内容がひどく、絶対に棋士になってこの舞台に戻ってこようと思っていました。それが出来たのでホッとしている部分もありますが、今回は2年前よりいい内容の将棋を指して優勝したいです」
 対戦相手の井田について持つ印象は「積極的な攻め将棋」。

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名人戦棋譜速報より 撮影:夏芽

 その攻め将棋である井田は
 井田「間もなく棋士になって半年ですが、三段リーグの最後が他力での昇段だったこともあり、プロとしてやっていけるかどうか不安な時期でもありました。棋士になって目に見える結果を出したいと思っていたので、決勝進出はうれしいです。大舞台ということで緊張はするでしょうが、縮こまらずにいい将棋を指したいですね」と語った。

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新四段の記者会見時の井田明宏四段

 井田の持つ服部の印象は「早見え、早指しの受け将棋」

 どうにも棋風では対称的な両者のようだが、一つ共通する趣味がある。ランニングだ。井田は自身の四段昇段時のインタビューで、趣味としてランニングを挙げており、コロナ前は久保利明九段、大石直嗣七段、村田顕弘六段との「マラソン研」なる研究会も行っていた。

 大石七段によるとその中では段違いに井田が速いということだったが、その井田から見ても服部はけた外れに速いそうだ。「10キロ走ると、10分は離されますね」

 両者は家が近所同士ということもあり、そろってランニングをすることもあった。「奨励会時代は朝7時に集まって走ったあと、記録係や研究会に行くということもありました」と服部。

 足の速さは服部に分があるようだが、盤上で寄せの速さを見せるのはどちらか。新鋭同士の注目すべき戦いは、9月25日(土)・26日(日)に加古川市の「鶴林寺」で行われる。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2016年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、叡王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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