ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2021年07月26日
西山朋佳女王に伊藤沙恵女流三段が挑戦した第14期マイナビ女子オープン五番勝負。西山はシリーズ開幕前に奨励会を退会し、女流棋士としての新たなスタートを切った。一方の伊藤はマイナビ女子オープンには初挑戦。タイトル挑戦は8回目で、悲願の初タイトルを狙う。
第1局は神奈川県秦野市「元湯 陣屋」にて。石田流の出だしから双方馬を作り合う乱戦模様になった。形勢は微妙に揺れ動いたが、うまく陣形を整えた伊藤が抜け出す。
【第1図は▲6四竜まで】
ここで△5四香打が竜の横利きを止めながら5七の地点を狙った好防手。▲2五歩△3五馬▲4六桂と必死の防戦だが、△同馬▲同飛△5五銀と手厚く指して後手優勢だ。リードを守った伊藤が先勝。
写真:玉響
第2局は山梨県甲府市「常磐ホテル」にて。相振り飛車から攻め駒をさばいて西山が攻勢に出る。
【第2図は▲3九銀まで】
図は2八の銀を引いて粘りに出たところ。ズバッと△4六飛と切り、▲同歩△4八銀成▲同銀△5六香が鋭い寄せ。▲同金なら△6七角が厳しい。実戦は▲9四桂△7一玉を入れてから▲4七金としたが、△5八銀と張り付いて一手一手だ。西山が1勝1敗に追いつく。
写真:銀杏
第3局は神奈川県藤沢市「時宗総本山 遊行寺」にて。相振り飛車から西山が積極的な動きを見せる。
【第3図は△2二飛まで】
2筋が素通しのままだが、▲6五桂が決断の仕掛け。次に▲4五桂から▲3三角成の筋があるので△5五歩と止めたが、▲9七角とのぞいて5三の地点の薄さを突き、後手はまとめにくい格好だ。うまく攻勢を取った西山が快勝で2勝1敗とリード。
写真:常盤秀樹
第4局は東京・将棋会館にて。角交換の乱戦から相居飛車模様の力戦となった。が、馬と生角の差で伊藤が早々にリードを奪う。
【第4図は△3三同銀まで】
金桂交換で差が広がったところ。ベタっと▲4五金が駒得と厚みを生かす一手。△5一飛に▲5四歩と突き出し、6五の桂も金駒と交換を目指す。以下も順当に押し切り、伊藤が快勝で決着は最終局へもつれ込んだ。
写真:常盤秀樹
第5局も東京・将棋会館にて。西山が先手で三間飛車からの持久戦となる。垂れ歩で揺さぶって仕掛けを得た西山がペースをつかんだ。
【第5図は△4一金まで】
第5図は終盤戦。堅陣のまま攻めている先手が優勢だが、攻め駒が少ないのは気掛かりだ。しかし▲5三歩が鋭い決め手。銀が動くと▲4一竜と取られてしまうので△3一金は仕方ないが、▲5二歩成△3二金上▲4一銀で食いついた。4枚の攻めとなると切れる心配もない。以下も押し切って西山が制勝した。
写真:常盤秀樹
西山は女流棋士として最初のタイトル戦をフルセットで制した。これで4連覇となり、来期の防衛戦には永世称号が掛かる。伊藤はまたもあと一つが届かず、悲願の初タイトルは次の機会となった。
ライター渡部壮大