初戴冠か、歴代最多か 第32期女流王位戦五番勝負展望

初戴冠か、歴代最多か 第32期女流王位戦五番勝負展望

ライター: 飛龍  更新: 2021年04月26日

 第32期女流王位戦五番勝負は里見香奈女流王位(四冠)への挑戦者が山根ことみ女流二段に決まった。山根女流二段がタイトル戦初登場となる一方、里見女流王位は防衛すればタイトル獲得通算44期となり、43期の清水市代女流七段を抜いて史上最多記録を更新する。4月27日(火)から始まる五番勝負を展望したい。

連勝記録

山根女流二段は女流二段に昇段後、ちょうど1年となった昨年10月から今年2月にかけて、女流歴代3位に並ぶ17連勝を記録している。その間、この挑戦につながる女流王位戦挑戦者決定リーグ紅組優勝を1局残して決め、ヒューリック杯女流順位戦順位決定リーグE組、大成建設杯清麗戦予選、岡田美術館杯女流名人戦予選、霧島酒造杯女流王将戦予選と他棋戦でも白星を重ねた。

一方で、歴代最多の21連勝の記録を持つのが里見女流王位だ。いまほど女流棋戦の多くない2015年1月から8月にかけてのことで、6年前となる。両者の年齢差も6。すなわち、いまの山根女流二段の年齢だったときに達成された記録で、指し盛りのひとつの目安かもしれない。

32jyooui_outlook-02.jpg
女流王位戦挑戦者決定戦にて 撮影:常盤秀樹

これまでは里見女流王位の2戦2勝

両者はこれまでに2局対戦している。初対戦は2016年7月と5年近くたっており、あまり参考にならないかもしれない。直近は昨年9月の第10期リコー杯女流王座戦本戦準決勝という大きな舞台で、里見女流王位先手の三間飛車に山根女流二段は向かい飛車で対抗した。

【第1図は▲6三銀まで】

上図は終盤、持ち駒の銀を打ち込んだところ。△6三同金は▲6一角△8二玉▲8三角成△同玉▲7一飛成で▲8一竜以下の詰めろがかかり、一気に寄る。△6三同玉▲7一飛成△7二銀に、さらに▲5二銀とタダで捨てたのが下図。

【第2図は▲5二銀まで】

△5二同玉は▲4一角△4二玉▲6二竜以下の詰みのため△5二同金だが、▲6一角以下、里見女流王位が緩みなく寄せきった。里見女流王位といえば「出雲のイナズマ」といわれるように、こうした鋭い攻めに特長がある。しかし、山根女流二段は『将棋世界』今年5月号で里見女流王位の将棋について、自分にはない厚みを挙げた。この将棋も図に至る前に攻めを切らされた点を指摘している。攻めても勝てる局面で、自陣に手を入れてリードを広げる将棋だと分析した。

相振り飛車のシリーズが本命か

山根女流二段はデビューからしばらくは四間飛車党で鳴らし、相振り飛車も辞さない。1年あまり前には向かい飛車も何局か指している。ここ1年半ほどは相居飛車も採り入れて将棋の幅を広げ、雁木も柱となった。ただ、里見女流王位は雁木を受けて立つかどうか。里見女流王位の前回のタイトル戦は今年1月から2月にかけて行われた第47期岡田美術館杯女流名人戦だが、その開幕戦から3月まで、公式戦、女流棋戦のすべてで先後を問わずに中飛車で通した。その間に敗れたのは第47期棋王戦予選の村山慈明七段戦のみで、ほかの棋士には白星を挙げている。得意戦法にますます磨きをかけている印象だ。

里見女流王位が振り飛車を譲らないとすれば、どうなるか。これまでの山根女流二段の将棋を見ていくと相振り飛車が本命となるが、居飛車の採用があるのかにも注目したい。また、里見女流王位が4月に入って最初に指した将棋は、序盤の駆け引きから居飛車で向かい飛車を迎え撃っている。里見女流王位も相振り飛車を得意とするが、居飛車を持って山根女流二段の振り飛車の展開もあるのかどうか。

タイトルの行方を握る鍵は?

いまの女流棋界は里見女流王位と西山朋佳女流三冠の2強といわれる。実際、タイトルホルダーのいる7棋戦のタイトルをすべてこの2人で分け合っており、他の女流棋士からすれば高い壁だろう。一発勝負、それも持ち時間が短い将棋であればチャンスを期待できるかもしれないが、じっくり考えられる持ち時間の与えられた番勝負で、まとまった数の白星を挙げることは客観的に見ても至難の業かもしれない。

似た状況では、第29期女流王位戦でタイトル戦初出場だった渡部愛女流三段(LPSA所属、挑戦当時は女流二段)が、実際に里見女流王位を相手に3勝1敗でタイトル奪取を実現させた。その五番勝負は第1局が挑戦者の地元の北海道で、終盤での信じられないミスが逆転を呼んだ。

今期は第1局から兵庫県姫路市、札幌市、福岡県飯塚市、徳島県徳島市と転戦する。山根女流二段としては、出身地の愛媛県のある四国の徳島対局が地元といえ、その対局を実現させて勝てば面白いだろう。里見女流王位はタイトル通算44期の新記録が懸かるが、普段から記録にはこだわりを見せない。目の前の一局に集中して臨む姿勢を貫きそうだ。

32jyooui_outlook-01.jpg
棋王戦予選にて 写真:飛龍

最近の両者

2月から五番勝負が始まるまで、月別の対局数を見ると山根女流二段の2月4局、3月5局、4月2局に対し、里見女流王位が公式戦も含めて2月3局、3月1局、4月1局と、いずれも山根女流二段の局数を下回っている。山根女流二段が実戦感覚を生かせるかどうかにも注目したい。

飛龍

ライター飛龍

日本将棋連盟のネット中継記者として関西将棋会館を中心に2013年11月から活動している。一般社団法人日本フォトロゲイニング協会登録監修者。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています