さばきのアーティスト再来、第68期王座戦五番勝負の展望は?

さばきのアーティスト再来、第68期王座戦五番勝負の展望は?

ライター: 夏芽  更新: 2020年09月02日

猛暑続きだった夏が終わり、9月に入れば王座戦の季節である。

永瀬拓矢王座に久保利明九段が挑戦する第68期王座戦五番勝負は、いよいよ9月3日(木)、神奈川県秦野市「元湯陣屋」で開幕を迎える。

永瀬拓矢王座

 永瀬王座は昨年、叡王とあわせて二冠を達成し、名実ともにトップ棋士の仲間入りを果たした。通算成績と今年度成績はともに勝率7割を超え、「負けない将棋」と呼ばれる受けの強さ、安定感はさらに洗練された印象を受ける。エネルギー源のバナナは、いまや永瀬王座を象徴する食べ物だ。
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撮影:常盤秀樹

 前期王座を獲得して以降、朝日杯将棋オープン戦では準優勝。ヒューリック杯棋聖戦と王位戦では挑戦者決定戦まで勝ち進み、他棋戦でも充実した活躍を見せた。

 現在進行中の第5期叡王戦七番勝負では、初防衛まであと1勝。途中、2局連続の持将棋という異例の展開になったが、持ち味を生かした戦い方でシリーズを引っ張っている。特に千日手、持将棋による指し直し局の勝率は高く、前期の王座戦五番勝負も、開幕戦を千日手指し直し局で先勝。シリーズの流れを引き寄せる一局になった。

挑戦者 久保利明九段

 久保九段の王座挑戦は今期が3回目。第55期(2007年)以来、実に13年ぶりの五番勝負登場である。昨年2月の王将戦以来、およそ1年半ぶりの無冠返上を目指す。

 現代振り飛車党の第一人者であり、大駒を十二分に働かせるテクニックは「さばきのアーティスト」と呼ばれている。また、苦戦に陥っても容易に崩れない粘り強さも持ち味だ。kubo_ouzatenbou.jpg
撮影:夏芽

 今年度は4月から公式戦6連勝と好調を維持し、この王座戦の挑戦権獲得のほか、竜王戦の決勝トーナメントではベスト4まで勝ち進んだ。

 いまのタイトル保持者は全員が居飛車党。振り飛車はプロアマ問わず根強い人気で、振り飛車党のタイトル獲得を待ち望む声は多い。

 両者の番勝負は今回が初めて。永瀬王座は10歳以上離れた先輩棋士を挑戦者として迎え撃つことになる。久保九段は今回が15回目のタイトル戦で、経験値という点では挑戦者が上と言えるが、永瀬王座の勝負に徹した指し回しは、相手につけ入る隙を与えない。世代間による感性、戦い方の違いが、どのような形で盤上に表れるか。ふたりとも腰が重い棋風のため、長期戦のねじり合いも予想される。

 戦型予想は居飛車対振り飛車の対抗形が本命。久保九段は中飛車、四間飛車、三間飛車とあらゆる振り飛車を指しこなし、角道を止めるクラシックなタイプから、序盤で角交換する力戦形まで、そのレパートリーは幅広い。対する永瀬王座は居飛車穴熊に潜る持久戦を得意にしているが、展開次第では、同じように振り飛車を用いて、相振り飛車に進める可能性もある。

 ふたりは先日、王将戦二次予選(8月20日)と将棋日本シリーズ(8月29日)で顔を合わせている。開幕直前に2局指すのは珍しいが、実際に盤を挟んで互いに相手の強さ、棋風を再認識したはずだ。

 開幕局は振り駒で先後が決まる。居飛車党のファン、振り飛車党のファン、どちらにとっても楽しみな五番勝負である。

夏芽

ライター夏芽

2011年から関西を拠点にインターネット中継記者として活動。将棋は指すより見て楽しむタイプ。暇さえあれば書店の将棋コーナーに足を運んでいます。

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