百戦錬磨の王者に若き大天才が挑む、第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の展望は?

百戦錬磨の王者に若き大天才が挑む、第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の展望は?

ライター: 相崎修司  更新: 2020年06月26日

 第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負が進行中だ。今期の五番勝負は棋王と王将を併せ持つ渡辺明棋聖に、史上最年少棋士の藤井聡太七段が挑戦。17歳10ヵ月20日でのタイトル挑戦は、屋敷伸之九段が持つそれまでの年少記録、17歳10ヵ月24日を数日とはいえ更新する、史上最年少でのタイトル挑戦となった。そして6月8日に行われた第1局では、157手の熱戦を制した藤井が先勝。やはり屋敷九段の持つ史上最年少タイトル獲得記録「18歳6ヵ月」が更新される可能性にも大きな期待がかかる。

ハードなスケジュール

 両者に共通することは相次ぐ対局によるハードスケジュールだ。第1局から、6月28日に行われる第2局までの20日間だけを見ても、渡辺棋聖は豊島将之名人に挑戦中の第78期名人戦七番勝負第1~3局を指すことになる。対局はこの3局だけだが、2日制のタイトル戦であるため、移動日を含めると1対局に4日間を要する。これは傍から見る以上に負担なのだ。

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撮影:常盤秀樹

 特に棋聖戦のような1日制のタイトル戦と、2日制のタイトル戦を並行して行うのは、体内時計の管理なども含めて、相当に大変であるに違いない。渡辺は王将・棋王の連戦で経験しているが、冬の連戦と夏の連戦ではまた異なるだろう。筆者は以前に「1日制と2日制は全く異なるから、この連戦の大変さはやったものじゃないとわからない」と中原誠十六世名人から伺ったことがある。我々のような部外者が想像する、それ以上のものがあるのだろう。

 対する藤井は、第1局のあと、大橋貴洸六段との王座戦二次予選、阿部健治郎七段との王位戦白組リーグ最終局、杉本昌隆八段との竜王戦ランキング戦3組決勝、永瀬拓矢二冠との王位戦挑戦者決定戦、佐々木勇気七段とのB級2組順位戦と、こちらも重要な対局が相次いだ。

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撮影:常盤秀樹

 対局が多いことは自身が勝っている何よりの証だが、ここまでのハードスケジュールをどう乗り切るか。体力的な面でいえば若い藤井の方が有利そうだが、渡辺には過去にもタイトル戦の連戦を乗り越えてきた経験がある。この面では五分だろう。

番勝負のゆくえ

 両者の対戦成績は藤井の2勝0敗。そのうちの1局が今期五番勝負第1局であることはいうまでもない。ただ、第1局は藤井の先手番だった。先手番と比較すると事前の準備がより必要とされる後手番でどのような戦いを見せるか。番勝負の行方を占う意味でも大きな一番だ。

 百戦錬磨の王者が貫録を見せるか、若き大天才が頂上への道をひた走るか。大注目のシリーズを、存分に堪能していただければと思う。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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