ライター紋蛇
渡辺王将の4期目の王将か、広瀬八段の初獲得か。第69期大阪王将杯王将戦の展望は?
ライター: 紋蛇 更新: 2020年01月08日
渡辺明王将に広瀬章人八段が挑む、第69期大阪王将杯王将戦七番勝負が開幕する。渡辺明王将は4期目の王将、広瀬八段は初獲得を目指す戦いだ。ふたりのタイトル戦は、昨年に行われた第44期棋王戦五番勝負に続いて2回目となる。
劇的な結末
今期の王将戦挑戦者決定リーグの参加者は、前王将の久保利明九段、糸谷哲郎八段、広瀬章人竜王、豊島将之名人、羽生善治九段、三浦弘行九段、藤井聡太七段(肩書・段位はリーグ進行中のもの)。リーグ最終戦の広瀬-藤井聡戦を前に、挑戦権の行方はその二人に絞られた。 勝者が挑戦者に決定する大勝負が、二転三転の末に頓死で決着とは誰も思わなかっただろう。
第1図は△6九飛成と王手したところ。
【第1図は△6九飛成まで】
一分将棋の藤井七段は▲6八歩と合駒したが、正着は▲5七玉で激戦が続いていた。▲6八歩には△7六金から詰んでいる。▲同玉は△7八竜▲7七桂△8五金まで。実戦は▲7六同金だが、以下△5六金▲7七玉△8七香成▲同玉△8九竜▲8八香△7八銀▲7七玉△8五桂打▲同金△同桂▲7六玉△7七桂成(投了図)まで、
【投了図は△7七桂成まで】
広瀬竜王の勝ち。投了図から▲8五玉とかわしても、△8八竜▲8六歩△同竜▲同玉△8二香▲7七玉△8七香成▲7六玉△8六金までの詰み。広瀬は『広瀬章人の一喜一憂ブログ』で、「最後は受け間違いに救われての辛勝でした」と振り返った。
終局後の様子 撮影:常盤秀樹
対戦成績は渡辺有利
これまでの対戦成績は、渡辺の14勝11敗。2019年度は昨年11月の第40回JT杯将棋日本シリーズ決勝、12月の第78期順位戦A級で対局し、渡辺がいずれも制した。
撮影:八雲
今年度の渡辺は勝率が8割を超えており、三冠復帰、JT杯将棋日本シリーズ2連覇、第27期銀河戦準優勝と結果を出している。年明けの第78期順位戦A級・稲葉陽八段戦に勝ち、唯一の無敗を守って初の名人挑戦も視野に入ってきた。
対する広瀬は昨年の12月に竜王を失ったものの、今年度の勝率は6割5分とまずまずの調子だ。ハイレベルな王将戦挑戦者リーグを勝ち抜いたことを考えても、最新研究に後れを取っているわけではない。年末年始を挟み、竜王失冠から気持ちを切り替えて王将戦に臨めることだろう。
撮影:常盤秀樹
ダブルタイトル戦がポイント
渡辺と広瀬はともに居飛車党なので、相居飛車の最新形がシリーズのテーマになる。第1局は1月12・13日、静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」。その直前、1月9日の叡王戦でも渡辺と広瀬は対戦するので、勝者は波に乗って開幕戦を迎えられそうだ。
第3局(2月8・9日)以降で注目したいのは、2月1日に開幕する棋王戦五番勝負の影響である。棋王戦の挑戦者は新鋭の本田奎五段で、渡辺は『渡辺明ブログ』で、「タイトル戦の対戦相手は良く当たる広瀬八段と初手合の本田五段ということで全く色が違うものになりそうです」と書いている。本田五段は角換わりと相掛かりの最新形を得意にしている。新世代の戦いぶりにヒントを得て、王将戦もシリーズ途中から様相が変わってくるかもしれない。
2019年度の将棋界で、まだ誰もタイトルを防衛していない。タイトルホルダーが次々と入れ替わり、将棋界の勢力図は激変している。そのなかで、指し盛りの30代の両者がどのような戦いを繰り広げるかは、今後の将棋界を占う意味でも重要な勝負だ。挑戦者の広瀬が勢いのある指し回しを見せるのか。それともタイトル戦の勝率7割4分の実績を持つ、渡辺が防衛を果たすのか。熱いシリーズを期待したい。