「出雲のイナズマ」里見香奈女流名人か、4度目のタイトル挑戦・谷口由紀女流三段か。第46期岡田美術館杯女流名人戦の展望は?

「出雲のイナズマ」里見香奈女流名人か、4度目のタイトル挑戦・谷口由紀女流三段か。第46期岡田美術館杯女流名人戦の展望は?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2020年01月18日

トップ女流棋士10名によって女流名人への挑戦権を争う、第46期岡田美術館杯女流名人戦女流名人リーグ。8回戦が終了した時点で他に星1つ以上の差をつけて7勝1敗の成績で並んだのが、伊藤沙恵女流三段と谷口由紀女流二段(段位は当時)の二人だ。

リーグ最終日の11月20日、伊藤は香川愛生女流三段、谷口は藤田綾女流二段との対戦となった。先に終局したのは藤田谷口戦。藤田の動きに乗じて巧みに反撃を決めた谷口が、素早く藤田の玉を寄せ切った。一方、大熱戦となった香川伊藤戦は、伊藤の猛攻を凌いだ香川が勝利。これによって谷口のリーグ優勝が決まり、里見香奈女流名人への挑戦権を獲得した。

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第46期岡田美術館杯女流名人戦挑戦者決定リーグ最終局での谷口女流二段

1月19日から始まる第46期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負の展望を予想する。

好調の挑戦者、4度目の大舞台へ

谷口はこれまでに第9期マイナビ女子オープン五番勝負、第24期、第26期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負に登場し、それぞれ加藤桃子女王、里見香奈倉敷藤花と番勝負を戦った。将棋大賞は第43回で女流棋士賞、女流最多対局賞、第44回で女流最多対局賞を受賞。押しも押されもせぬトップ女流棋士の一人だ。現在26歳。

女流名人戦は初挑戦。デビューしたころは中飛車が十八番の攻め将棋だったが、現在は振り飛車全般を手掛けており、受けに回ることも苦にしない。ここ数年で一回り成長し、安定感が増してきた印象だ。

今年度の成績は23勝8敗、勝率0.742。全女流棋士中のランキングは、対局数31が3位、勝数が2位、勝率が3位。12月には女流二段昇段後90勝を達成し、女流三段に昇段した。調子は上々だ。

第1図は谷口がリーグ優勝を決めた、第46期女流名人戦女流名人リーグの藤田綾女流二段との一戦の中盤戦。△3五銀に先手の藤田が4六の角を▲6八角と逃げたところだ。ここから一気に谷口が流れを引き寄せた。

【第1図は▲6八角まで】

図1以下の指し手
△2六歩▲同歩△同飛▲5六銀△3七歩成▲同桂△5七歩▲同角△4四角▲2七歩△2一飛▲6八金△3六歩

△2六歩▲同歩△同飛に▲3五角と銀を取るのは、△3七歩成が王手飛車取り。途中の△5七歩が手筋の焦点の歩だ。▲5七同金直と取るのは、△5五歩が厳しい。本譜の▲5七同角にも△4四角と打って、狙いの△3六歩が実現した。以下も快調に攻めた谷口が大きな8勝目を挙げた。

女流名人10連覇中のクイーン名人

谷口を迎えうつのは、里見香奈女流名人、27歳。女流名人のほか、清麗、女流王位、倉敷藤花の四冠を保持する女流棋界の第一人者だ。タイトル獲得数は清麗1期、女王1期、女流王座4期、女流名人10期、女流王位5期、女流王将7期、倉敷藤花10期の合計38期。とくにこの女流名人戦では無類の強さを見せており、昨年度10連覇を達成。林葉直子さんが女流王将戦で達成した女流タイトル戦の最多連覇記録に並んだ。また昨年9月に初代清麗の座に就いたことにより、史上初の女流六冠となった。

棋風は攻守のバランスのとれた振り飛車党で、終盤の寄せの速さから「出雲のイナズマ」の異名を持つ。もう将棋ファンの皆様にはお馴染みの呼び名だろう。

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第45期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負、第1局終局後の里見女流名人

里見の今期の成績は15勝12敗、勝率0.5555。4月から5月にかけて西山朋佳女王(現女流三冠)と第12期マイナビ女子オープン五番勝負を戦い、敗退。4月から6月にかけて行われた第30期女流王位戦五番勝負では、渡部愛女流王位からタイトルを奪取し、女流五冠に復帰。さらに8月から9月にかけて甲斐智美女流五段と第1期ヒューリック杯清麗戦五番勝負を戦い、清麗のタイトルを獲得、史上初の女流六冠となる。

このあとも里見はタイトル戦で大忙しだ。10月から11月にかけて西山女王と第41期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負を戦い、女流王将のタイトルを失う。11月に行われた第27期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負では伊藤沙恵女流三段の挑戦を退け、防衛。最後に10月から12月にかけて行われた第9期リコー杯女流王座戦五番勝負では西山女王に敗れ、女流王座のタイトルを失い、女流四冠に後退した。

西山という強敵の出現により、里見にしては勝っていない印象を受けるものの、男性棋戦の公式戦では11勝10敗で、現在2連勝中と善戦している。調子はまずまずと見ていいのではないだろうか。

第2図は第28期銀河戦本戦トーナメントDブロック1回戦、大平武洋六段との一戦の終盤戦。後手の大平が△5九桂成と金を取ったところだ。ここから里見が一気に後手玉を寄せてしまった。

【第2図は△5九桂成まで】

第2図以下の指し手
▲3三香△同桂▲3一龍△同玉▲4一金△2二玉▲4二角成△1三玉▲3三馬△2四香▲1五金

▲3三香と打ち捨てから▲3一龍が鋭い寄せ。△同玉の一手に▲4一金△2二玉▲4二角成と金を奪って、あっという間に後手玉は寄り形になった。以下も里見は着実に寄せの網を絞り、2回戦に進出した。

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第45期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負、第4局終局後の模様

戦型は居飛車対振り飛車の対抗型か、相振り飛車が濃厚

里見と谷口はこれまでに10度の対戦があり、里見の9勝、谷口の1勝。番勝負では2016年の第24期と、2018年の第26期倉敷藤花戦三番勝負で対戦している。どちらも里見が貫録を示す結果に終わっており、これだけ見ると里見に分がありそうだが、谷口はここ数年で将棋の質も戦い方も変わり、力をつけたのは間違いない。普段の力を出し切れば、リーグを勝ち抜いた勢いで初タイトルを獲得する可能性も十分にあるだろう。谷口が里見から挙げている1勝が、番勝負の第1局だったというのも大きい。

戦型は谷口の振り飛車に里見が居飛車の急戦や持急戦で対抗する居飛車対振り飛車の対抗型か、相振り飛車になる可能性が高い。両者とも攻めも受けも強い。中盤のねじり合いから、終盤の攻め合いまで、目の離せない熱戦にご期待ください。

第46期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負は、神奈川県「岡田美術館 開化亭」にて開幕する。

※写真はいずれも 撮影:常盤秀樹

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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