将棋川柳・第6乃句『雨宿り助言を言って追ン出され』(万句合・明和4年(1767年)の投句)

将棋川柳・第6乃句『雨宿り助言を言って追ン出され』(万句合・明和4年(1767年)の投句)

ライター: 谷木世虫  更新: 2019年10月17日

将棋川柳

『雨宿り助言を言って追ン出され』

川柳は、その句の内容に"世の中を批判したもの"、また、"皮肉ったもの"という要素が盛り込まれている句が多い--つまり、ある面では庶民の声ともいえるのですが。句の形態としては、まず、五・七・五の前に、「七・七」があるのです(全体としては、七・七・五・七・五となります)。この頭の七・七を「前句」(まえく)といいます。句会などでその時の「テーマ」になるもので、これがまず提示され、その後ろに五・七・五の長句を付ける、という形をとったものがもともとなのです。

例えば、「斬りたくもあり、斬りたくもなし」というテーマ(前句)が提示されたとすると、それに対して「盗人を捕らえてみれば我が子なり」と後ろの句を付けるという具合です。

こういう手法を「前句付」(まえくづけ)といって、川柳は後ろに付けたその部分だけが独立していったものです。

これが江戸庶民の遊び心をくすぐって、いつしか皮肉っぽい句も多くなったのですが。今回の句などは、いかにも川柳という味のある句となっています。

「イヤ~、つい先日のコッタ。雨がにわかに降りだしてサ。ちょいと軒先を拝借と、飛び込んだんだが、ヒョイッと家ン中を覗くと、将棋を指しているじゃねぇ~か。イヤなに、オイラも好きな口だからサ、つい、"そこは銀を打つ一手じゃねぇ~か"って言ッチまったンだ。でサァ、そうした口出しがちょっと続いたのヨ。だって、見てると歯がゆくなるじぁね~か。それがいけなかったネ。何回目かのとき、"馬鹿野郎! トットとウセやがれ!"って追ン出されちまった」

「なるほど、それでビショ濡れになったんだ」

「そうヨ、で、オイラも一句浮かんだネ」

「ほぉ~、どんな句?」

「"助言する、水もしたたるいい男!"」

「馬鹿野郎! トットとウセやがれ!」


ということで、今回も町の将棋道場からアマ初段同士の一局を紹介しましょう。

第1図は、後手が8二に居た玉を△9二玉とした局面です(8二に居ると、先手から▲7四桂打とされ、△9二玉は▲8二金まで。△7四同歩は、▲同桂△7三玉▲8二角or銀までの詰み)。
つまり、△9二玉は早逃げなのですが、第1図で▲9三歩成△同桂▲9四銀とすれば先手の勝ちです(▲9四銀は、次に▲9三銀成△同玉▲9四歩以下の詰めろ)。

【第1図は△9二玉まで】

しかし、先手氏は第1図で考えています。そこに、脇で見ていた人(この人もアマ初段)から、「ここは▲8二銀と打つんだよ!」の助言が入りました。確かに▲8二銀(第2図)は詰めろ。
次に▲9一銀成△同玉▲8二角△同玉▲9三歩成△同玉▲9四銀以下、全25手詰めです。

【第2図は▲8二銀まで】

指し手に迷っていた先手氏は、助言を採用。これに後手は、△3九竜と下駄を預けました。

しかし、先手氏はそこから▲9三歩成(第3図)としてしまい、△同桂▲同銀成△同玉▲9四銀△9二玉▲9三歩△8一玉▲9二角△7一玉となって詰まず、先手が負けてしまったのです。

【第3図は▲9三歩成まで】

先手氏も助言氏も、▲8二銀が▲9一銀成からの詰めろだということは分かっていなかったのですね(アマ初段にはいささか難問かな?)。やっぱり、将棋は自分で考えないといけませんヤね。

谷木世虫

ライター谷木世虫

東東京の下町、粋な向島の出身。大昔ミュージシャン、現フリーランス・ライター。棋力は低級ながら、好きが高じて道場通いが始まる。当初、道場は敷居が高く、入りにくい所だったが、勇気を出して入ると、そこは人間味が横溢した場所だった。前回は、将棋道場で聞かれる数々の「地口」をシリーズで紹介したが、今回は「川柳」がテーマ。これも地口同様、ユーモアと機知に富み、文化として残したいものとの思いで、このコンテツの執筆になった。

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前田祐司

監修前田祐司九段

1954年3月2日生まれ。熊本県出身。アマ時代から活躍し、1970年、71年と2年連続でアマ名人戦熊本県代表として出場。1972年に4級で奨励会入会。1974年9月に四段となり、2000年9月に八段となる。
早見え、早指しの天才肌の将棋で第36回NHK杯では、谷川棋王、中原名人を撃破(※肩書きは当時)。
決勝戦で森けい二九段を千日手の末、勝利し棋戦初優勝を飾った。2014年6月に現役を引退した。

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