将棋川柳・第5乃句『江戸っ子の気性に合うが飛車の利き』(誹風柳多留百二十一編第七丁)

将棋川柳・第5乃句『江戸っ子の気性に合うが飛車の利き』(誹風柳多留百二十一編第七丁)

ライター: 谷木世虫  更新: 2019年08月23日

将棋川柳

『江戸っ子の気性に合うが飛車の利き』

川柳というのは、実に見た目のとおりといいますか、感じたままを切り取って句にしたものですが、その五・七・五の言葉は高段者の手のごとく、多くの意味を含んでいます。いや、意味というより"味"と言うべきかもしれません。

今回の句、これはどちらかといえば意味的にも味わい的にもシンプルで分かりやすいもの。飛車という威勢のよい駒を、江戸っ子の気性になぞらえた句になっています。

「オッオッオッ、どいたどいたどいた~! そこをドキャがレェ~、ベラボーメ!!」
「オ~ヨ、邪魔だ邪魔だ邪魔だ~! 粋なお兄イさんのお通りだ!!」

イメージとしては、往来を急いで現場に駆けつける火消し衆といった感じです。確かに飛車という駒は縦横無尽に動き回りますから、江戸っ子の気性にオーバーラップしたとしてもぜんぜん不自然ではないのですね。

今回も、町の将棋道場で見掛けた局面から飛車の性能が発揮された局面を見てみましょう。

今、図1を迎え先手の人が考えています。

【図1は△6六歩まで】

局面は△6六歩と垂らされたところで、後手の狙いは、次に△4六角と出て(詰めろ)、△3六桂▲3九玉△2八銀の詰みにあります。それを防いで、図1で▲4七銀と守ると、△6七歩成▲同金△9九角成と香を取られ、後手に攻め駒が増え(飛車と銀・桂・香の3枚換え)、ややこしくなりそうです。

しばらく考えた先手は、図1で▲5六飛と打ちました。これは、角取りの先手を取りながら△4六角も防いだ手。飛車は敵陣に打ちたくなるもので、それを自陣近くに打つのはなかなかできません。

火消し衆ほどの威勢はありませんが、図1以下、△3三角▲6六金(図2)と進んでみると、▲5六飛が盤面全体を制圧する好手だったことが分かります。5六の飛車と6六の金が中央を制圧し、後手にはこれといった攻めがなく、手に窮しています。半面、先手には、▲7四とと出て①▲8一飛成の攻めや、②▲6四歩~▲6三歩成が約束されています。この攻め筋が実現可能になったのも、もとは▲5六飛のお蔭なのです。

【図2は▲6六金まで】

このように、飛車は魅力的な駒といえるのですが、これが"角行"だとそうはならず、ヤッパリおかしいのですネ。一度、表題の句を角行に代えて読んでみてください。その違いが分かると思います。

実はこの句、川柳の衰退期といわれる天保年間(主に1830年代)のものです。それだけに古川柳の味を伝える佳句と言われているのです。

谷木世虫

ライター谷木世虫

東東京の下町、粋な向島の出身。大昔ミュージシャン、現フリーランス・ライター。棋力は低級ながら、好きが高じて道場通いが始まる。当初、道場は敷居が高く、入りにくい所だったが、勇気を出して入ると、そこは人間味が横溢した場所だった。前回は、将棋道場で聞かれる数々の「地口」をシリーズで紹介したが、今回は「川柳」がテーマ。これも地口同様、ユーモアと機知に富み、文化として残したいものとの思いで、このコンテツの執筆になった。

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前田祐司

監修前田祐司九段

1954年3月2日生まれ。熊本県出身。アマ時代から活躍し、1970年、71年と2年連続でアマ名人戦熊本県代表として出場。1972年に4級で奨励会入会。1974年9月に四段となり、2000年9月に八段となる。
早見え、早指しの天才肌の将棋で第36回NHK杯では、谷川棋王、中原名人を撃破(※肩書きは当時)。
決勝戦で森けい二九段を千日手の末、勝利し棋戦初優勝を飾った。2014年6月に現役を引退した。

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