ライター生姜
「新時代の王者」VS「不屈の挑戦者」 豊島将之王位VS木村一基九段の第60期王位戦七番勝負の展望を紹介
ライター: 生姜 更新: 2019年07月30日
今年も夏がやってきました。夏といえばそう、王位戦七番勝負の季節ですね。前期(第59期)の激闘から早一年。今期の王位戦七番勝負の展望を紹介したいと思います。
第59期王位戦七番勝負第7局終局直後の模様。豊島はこの年棋聖に続き王位も奪取し二冠を達成した。
王位に君臨するのは豊島将之王位。元々高い実力がありながらタイトルには結びつかなかった時期が続いていました。しかし昨年度にブレイクを果たします。前期の王位戦七番勝負で菅井竜也王位(肩書は当時)に4勝3敗のフルセットの末タイトルを奪取。さらに今年になって名人を獲得し、自身初のタイトル獲得となった棋聖と併せて三冠を達成。一躍棋界の第一人者に登り詰めました。今年度は渡辺明二冠(肩書は当時)に棋聖を奪われたものの、それでも7割を超える高い勝率を維持しています。棋界トップクラスの実力者には変わりないでしょう。棋聖戦では敗れたものの、見方を変えれば、五番勝負での豊富な研究データが蓄積されているともいえます。
なお、豊島王位は王位戦で初の防衛戦。棋聖戦では防衛失敗となりましたが、王位戦こそはとの思いがあるに違いありません。豊島王位にとっては真価の問われるシリーズといえるでしょう。
第59期王位戦七番勝負際7局、感想戦の模様。
対する挑戦者は木村一基九段。王位戦では木村九段にとって苦い記憶があります。木村九段は過去に王位戦で第50期、第55期、第57期で挑戦経験がありますが、いずれも敗退しています。特に第50期は深浦康市王位(当時)に初戦から3連勝し、タイトルを手中に収めたかに見えましたが、あと1勝が遠く、その後4連敗し、結果3勝4敗でタイトル獲得とはなりませんでした。それでも木村九段は研鑽を積み続け、再び王位戦の舞台に帰ってきました。ここ最近の木村九段は第32期竜王戦決勝トーナメントでベスト4に進出、今期王位戦では挑戦者決定戦で羽生善治九段を倒しての挑戦権獲得と好調。タイトル挑戦は今回で通算7回目。今年で46歳を迎えた不屈の挑戦者、木村九段が初のタイトルを狙います。
第60期王位戦挑戦者決定リーグプレーオフ終局後の木村九段。菅井七段に勝って挑戦者決定戦進出を決めた。
過去の対戦成績は豊島王位5勝、木村九段4勝。戦型ごとに調べてみると、9局中6局が横歩取り、2局が角換わり、1局が矢倉でした。横歩取りが多いですね。これは時代の移り変わりや、最新形の流行などによっても左右されますが、いずれにしても相居飛車の戦いに限定されています。両者とも居飛車党なので、今期七番勝負でも相居飛車が濃厚です。事実、第1局は豊島王位の先手で横歩取りとなりました。第2局以降も、最新型の濃密な序盤の駆け引きが堪能できることと思います。もしどちらかが飛車を振ったら......それは大きな話題を呼ぶことでしょう。
加えて、戦型が決まってからは両者の棋風に注目です。豊島王位のシャープな指し回し、木村九段の力強い受けが出るか。ぜひリアルタイムで観戦して感動と興奮を味わっていただけたらと思います。
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第60期王位戦挑戦者決定戦での木村九段。
王位戦七番勝負はすでに開幕しています。第1局は7月3日・4日に愛知県名古屋市『か茂免』で行われました。 後手の木村九段が注文をつけ、横歩取り8五飛戦法という少し懐かしい将棋になりました。木村九段用意の作戦に対して豊島王位はさほど時間を使わずに指し進め、中盤でリードを奪います。終盤に入ってからも差を広げ、自陣に傷ひとつ作らず寄せきりました。第1局は持ち時間を3時間以上残した豊島王位の完勝で幕を閉じました。
注目の第2局は7月30日・31日に北海道札幌市『京王プラザホテル札幌』で行われます。豊島王位がリードを広げるか、木村九段が巻き返すか序盤の大きなポイントといえます。第2局は木村九段の先手番です。戦型は相掛かり、角換わり腰掛け銀が予想されます。また、復活傾向にある矢倉も見られるかもしれません。戦型選択のカギを握るのは豊島王位です。まずは2手目に注目して見てください。今年は例年に比べて天候不順で夏らしい日が少ないですが、盤上では熱い戦いが繰り広げられること間違いなしです。
※記事内の写真は全て 撮影:常盤秀樹