将棋川柳・第3乃句『金銀を置いて桂馬を関羽取り』(誹風柳多留十三編第二十四丁)

将棋川柳・第3乃句『金銀を置いて桂馬を関羽取り』(誹風柳多留十三編第二十四丁)

ライター: 谷木世虫  更新: 2019年05月10日

将棋川柳

この句の意味はすぐには分かりませんよネ~。関羽(かんう)は三国志に出てくる人という程度は分かりますが。それと「金銀」や「桂馬」はどう関わるのか?

この句は次のようなことなのです。

『魏(ぎ)の国の始祖、曹操(そうそう)が関羽を味方につけようと捕らえてみたものの、美女を贈ったり、♪金銀パールプレゼントとやってみても、まったくなびかない。そこであるとき、一日千里を走るという「赤兎馬」(せきとば)なる名馬を見せると、関羽は初めてそれを受け取った。その後、関羽は曹操のもとを去るのだが、金銀は置いて行ってしまう』

とまぁ、実にもったいないこの故事が、表題の句の下敷きになっているのであります。

つまり、句にある桂馬は単に赤兎馬に引っ掛けただけで、それ自体に意味はなく、全体としては、「財宝よりも価値が低い物の方が、時には金銀以上に価値のある物・大切な物だという場合がある」ということ。

将棋の場合、特に終盤、金銀あるいは飛車角などよりも小駒の方が大事な場合がありますが。さて、先日、町の将棋道場で見掛けた図1の局面。今、先手は金をボソッと取られたところ(△6八馬)。ここで先手の人はどう指したでしょうか?

【図1は△6八馬まで】

図1は飛車取りでもあり、一般常識では▲6八同銀と馬を取るのが普通でしょう。そうすれば部分的には金と角の交換になります。ところが、それは△8四銀と縛られてしまい、先手がいけません。△8四銀が詰めろになるからです(次に△8五香▲9七玉△8七金まで)。

正着は▲8五玉(図2)。こうして飛車を見捨て、玉を早逃げさせると、もう先手玉は捕まりません。余程のミスを出さないかぎり、入玉は確定です。

【図2は▲8五玉まで】

この例を表題の句に当てはめると、「飛車取りを置いて早逃げ関羽取り」となるのでしょう。表題のように桂馬という具体的な駒ではありませんが、将棋では時に、"早逃げ"という"形としては見えない物"も大事ということ。

それにしても江戸の庶民というのは皆さん、現代人以上に博学だったというほかはありません。偉い! オイラにはできまヘン。できるのは、"赤兎馬(焼酎)を飲むこと"だけダス。

谷木世虫

ライター谷木世虫

東東京の下町、粋な向島の出身。大昔ミュージシャン、現フリーランス・ライター。棋力は低級ながら、好きが高じて道場通いが始まる。当初、道場は敷居が高く、入りにくい所だったが、勇気を出して入ると、そこは人間味が横溢した場所だった。前回は、将棋道場で聞かれる数々の「地口」をシリーズで紹介したが、今回は「川柳」がテーマ。これも地口同様、ユーモアと機知に富み、文化として残したいものとの思いで、このコンテツの執筆になった。

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前田祐司

監修前田祐司八段

1954年3月2日生まれ。熊本県出身。アマ時代から活躍し、1970年、71年と2年連続でアマ名人戦熊本県代表として出場。1972年に4級で奨励会入会。1974年9月に四段となり、2000年9月に八段となる。
早見え、早指しの天才肌の将棋で第36回NHK杯では、谷川棋王、中原名人を撃破(※肩書きは当時)。
決勝戦で森けい二九段を千日手の末、勝利し棋戦初優勝を飾った。2014年6月に現役を引退した。

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