「里見は将棋に恋をしている」渡辺弥生女流初段が振り返る里見香奈女流四冠の平成

「里見は将棋に恋をしている」渡辺弥生女流初段が振り返る里見香奈女流四冠の平成

ライター: 渡辺弥生  更新: 2019年04月26日

私が女流棋士を目指して女流育成会に入った1年後の平成19年、里見香奈女流1級(現女流四冠)がレディースオープン・トーナメント2006で準優勝した。私にとって女流棋界のニュースで印象に残っているものと言えば、やはり里見のことになる。

まず思い浮かぶのが平成25年に里見が女性として初めて奨励会三段へ昇段したこと。初段、二段へ上がったときも、もちろん女性としては一人目だったが、これから三段リーグに参戦する、というのは衝撃的だった。

次に思い出すのは平成20年に里見が初タイトルを獲得したニュースだ。当時倉敷藤花、女流王将を保持していた清水市代女流二冠から倉敷藤花を奪取。新しいスターが女流棋界に誕生した。

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第16期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負第1局、対局開始の模様。写真:日本将棋連盟所蔵

平成20年(2008年)当時、矢内理絵子女流名人、石橋幸緒女流王位、そして清水市代女流王将・倉敷藤花が女流棋戦のタイトルを保持していた。ことに清水の活躍ぶりはすごい。ようやく20代の若手がタイトルを獲り始め、世代交代も近いのではないかと思われたこの時期、翌年の平成21年には矢内から女流名人を、石橋から女流王位を奪取している。

さて、里見が女流育成会を抜けて女流棋士に昇級したのが平成16年。まだ12歳のときだ。最初の大舞台は平成18年(決勝三番勝負は平成19年)のレディースオープン・トーナメント2006、矢内理絵子女流名人との決勝三番勝負だ。結果は手厚い指し回しが光り、矢内が優勝。このあと、里見は第29期女流王将戦の挑戦者決定戦、続いて第15期大山名人杯倉敷藤花戦の挑戦者決定戦で清水に敗れ、初タイトル挑戦を逃した。このときはまだまだ清水、矢内の壁は厚いという印象を受けた。

ところがわずか1年後の平成20年9月、第16期倉敷藤花戦の挑戦者に名乗りを上げたのは里見だった。三番勝負第1局はねじり合いを制し、先勝。倉敷市芸文館で行われた第2局、先手番の里見は初手▲5六歩と突き、得意の中飛車に振る。図は最終盤、先手の里見が▲1三飛と王手した手に対し、清水が△2三香と合駒をしたところ。1分将棋の中、里見は決めに出た。

【図1は△2三香まで】

△2三香以下の指し手
▲5五角△同歩▲3四金△同玉▲4六桂△3三玉▲3四銀△3二玉▲2二と△4一玉▲1一飛成 まで、里見女流二段の勝ち

▲5五角が寄せを読み切った鋭い一手だ。投了図、▲1一飛成に飛車、角を合駒するのは、▲同と△同銀に▲2三銀成が詰めろ。△3一金は、▲同と△同銀▲3二金△同玉▲3三銀成△同玉▲3一龍△3二桂▲3四銀まで。△3一桂は▲同龍△同銀▲3三桂△4二玉▲5四桂までとなる。

里見は翌々年の平成22年には女流名人、女流王将を清水より奪取し、あっという間に女流棋界のトップに駆け上ることになる。

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第36期女流名人位戦五番勝負第3局終局後の模様。報道陣の多さは当時でも相当なものであった。撮影:常盤秀樹

女流名人、女流王将、倉敷藤花の三冠を保持し、毎年8割前後の勝率を挙げていた里見が「奨励会に挑戦したい」と言い出したのは平成23年のこと。当時、奨励会に所属しながら女流棋士を続ける兼任が認められていなかったため、里見は入会するのに多少の紆余曲折があった。

このときに当時の日本将棋連盟会長、米長邦雄永世棋聖がこのように説明したのが記憶に残っている。

「里見は将棋に恋をしているのだ」

里見は平成24年1月に現行規定で女性として初めて奨励会初段に、平成25年7月に二段に昇段した。それまで女性は1級が最高だったのだから、とんでもないことである。

奨励会は三段まで行ってからが勝負、と聞く。プロ棋士が成績に注目しだすのも、三段リーグからだ。その三段に里見が昇段したのが、平成25年12月。これももちろん女性として史上初。

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第59回奨励会三段リーグ最終戦での里見奨励会三段(当時)。別の対局室で藤井聡太三段(当時)も対局をしていた。撮影:常盤秀樹

このときは心底、「こんなにすごい人だったのか」という驚きと、初の女性の棋士誕生を期待する気持ちが膨らんだ。

残念ながら昨年の3月、里見は奨励会を年齢制限で退会になったが、同じ女性、女流棋士として、里見の初段、二段、そして三段への昇段は、またとない嬉しいニュースであった、ということを伝えたい。

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渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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