藤井聡太七段が朝日杯で連覇達成。行方八段と渡辺棋王を破った第12回朝日杯将棋オープン戦準決勝・決勝戦を振り返る

藤井聡太七段が朝日杯で連覇達成。行方八段と渡辺棋王を破った第12回朝日杯将棋オープン戦準決勝・決勝戦を振り返る

ライター: 上田初美女流四段  更新: 2019年03月08日

朝、振り駒が行われる控え室に対局者全員が集合した。今回のベスト4進出者は40代から10代までが1人ずつ、そして渡辺明棋王(段位は全て対局当時)・藤井聡太七段・千田翔太六段の3名は8割近い年度勝率を保っている。4者それぞれ緊張感を持った面持ちだったが、中でも行方尚史八段の気迫のこもった表情が印象的だった。最年長としての意地、そして周りの好調組に対して内に秘める思いがあったのだろう。

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準決勝戦振り駒の様子。別室で行なわれた。

準決勝 渡辺-千田戦

準決勝は有楽町マリオンの朝日ホールにて2局同時に行われた。チラリと中の様子を見ると、いつもの対局室とはまた違った独特の緊張感が高まっている。まさに観劇の様に将棋を見る瞬間が近づいているが、動きの少ない将棋は観客にどういった想いを伝えられるのだろう、と思いながら佐藤天彦名人との解説会場へと向かった。

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準決勝戦の対局は2局同時に同じステージ上で行なわれた。

対局開始後、すぐに渡辺-千田戦が凄い早さで進んで行く。序盤早々に渡辺棋王が▲6六歩と角道を止め雁木を目指した。対する千田六段も迷いなく指し進めるが、見た事が無い陣形に組んでいる。千田六段と言えば将棋ソフト(AI)を用いた研究の第一人者だが、解説の佐藤名人が「どういう意図があるのか聞いてみたい」という程に、千田玉は現在の人間の感覚とは違う、新しい指し回しを見せていた。

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準決勝戦(渡辺棋王 対 千田六段)対局の模様。

第1図は△6九角と銀取りに角を打った局面。ここでは両者1分将棋で、先手は対応を間違えると一気に形勢を持って行かれてしまう。▲5八金が冷静な受けの好手で、△8六角▲8七歩と進んだ時に5九の地点を先受けしている。△5八角成▲同銀△5九角成▲6七銀と上がった形が美しい。以下は後手の攻めに乗り、最後は後手玉を即詰みに打ち取った。局後に「やってみたけど、この形ではダメでした」とにこやかに話す千田六段を見て、なるほどこの大胆さと素直さが彼の強さなのだと感じた。

【図1は△6九角まで】

準決勝 行方-藤井戦

一方の行方-藤井戦は矢倉模様の出だしから一手一手が難しい将棋となった。時間も互いに序盤から惜しみなく使い、本格的な戦いが起こる前に両者1分将棋に突入した。以前将棋番組で藤井七段が行方八段を指名して対局した事があったが、時間の使い方といい、2人には何か通じる物があるのかもしれない。

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準決勝戦(行方八段 対 藤井七段)対局の模様。

第2図は行方-藤井戦のハイライト。

【図2は▲4七桂まで】

ここで「僕が藤井だ!と思えば」と佐藤名人が指摘していた△4六角が指され、解説会場は大盛り上がり。以下▲同玉△8六飛が△4五銀と△8八飛成~△3九角(または△7九角)を狙っていて受からない。じっくりとした手の積み重ねと共にこういった派手なハイライトもあるのが藤井将棋の憎い(愛される)所だ。

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解説会の模様。途中、加藤一二三九段もゲストで出演した。

決勝戦 渡辺-藤井戦

決勝戦という大一番で、誰もが見たい一局が実現した。渡辺棋王と親交の深い佐藤名人はこの初手合いに「おそらく練習将棋でも指した事のない本当の初手合い。この2人の将棋がどう噛み合うのか予想がつかない」と語った。

先手となった渡辺棋王は準決勝同様、早々に▲6六歩と角道を止め雁木を目指した。何気ない序盤だが▲3七桂を保留しているのが工夫であり、△6四歩を見て▲3七銀から棒銀を狙うのが渡辺棋王用意の作戦。▲3七銀を見て「やっぱり」と佐藤名人が相槌を打った。曰く渡辺棋王は相手の棋風を含め、事前の細かい研究に余念がなく、相手はいつの間にかその中にハマってしまうらしい。

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決勝戦(渡辺棋王 対 藤井七段)対局の模様。

複雑な局面が続く中、冷静に対応した藤井七段が少しずつ優勢を築き上げた。第3図は▲5六銀と打った局面。6七の地点に駒の利きを足しながら△5五角を防いでいる。ここでの△3五金が「ええ手やなぁ」と佐藤名人から関西弁を引き出した好手である。▲3九飛に△4六金のすり込みが痛い。▲5七銀と打ちたいが△同金▲同金△4八銀が痛すぎる。以下▲4七銀打△同金▲同金と守りの金を離してから△6四銀が大人の一手で先手が困っている。優勢な局面でも勝ち急がず、良さを積み重ねられるのも強さの一つだろう。

【図3は▲5六銀まで】

結果は、ご存知の通り藤井七段が勝利し、終局と同時に対局会場・解説会場共に割れんばかりの拍手が起こった。対局直後の両者が解説会場へと移動し感想戦を行う。ジリジリと形勢を離されての負け方は渡辺棋王にとっては珍しく、表情が固い。それでもいつも通り快活に話し、特に佐藤名人と忌憚のない感想のやり取りをして、毅然とする姿は観ている側にさまざまな想いを残したと思う。

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決勝戦終了後のインタビュー。

連覇を決めて感想を聞かれた藤井七段は、ささやく様な声でにこやかに喜びを語った。その姿は昨年よりも堂々としており自信を感じさせた。昨年の初出場・初優勝は驚きを与え、今回の連覇は周りに何を与えただろうか。第13回の朝日杯将棋オープン戦はより熱い戦いとなるだろう。
撮影:常盤秀樹

注目対局プレイバック

上田初美女流四段

ライター上田初美女流四段

1988年11月16日生まれ。東京都小平市出身。伊藤果八段門下。第31期女流王将戦でタイトル初挑戦。第4期マイナビ女子オープンで初タイトルを奪取。2015年11月から2016年3月まで産休の為休場していたが、復帰後の第43期岡田美術館杯女流名人戦、第11期マイナビ女子オープンを一児のママとしてタイトル戦に挑戦した。

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