4年ぶりに王将戦の舞台へ。完全復活した挑戦者・渡辺明棋王の戦いぶりを振り返る

4年ぶりに王将戦の舞台へ。完全復活した挑戦者・渡辺明棋王の戦いぶりを振り返る

ライター: 生姜  更新: 2019年01月12日

いよいよ今年も王将戦の季節がやってきました。王将戦は1951年から続く伝統ある棋戦で、これまで数々の名勝負が繰り広げてきました。あの羽生善治九段が七冠を達成したタイトルも王将です。今年はどんなドラマが生まれるか楽しみですね。それでは早速久保利明王将に挑む挑戦者を紹介しましょう。※いずれも肩書は当時

今期の挑戦者は渡辺明棋王。第62期(2012年)、第63期(2013年)の王将です。当時の佐藤康光王将を破って王将を獲得したあと、羽生善治三冠を退けて防衛を果たしました。このころは併せて竜王、棋王と三冠を保持していたこともあり、まさに脂ののった時期であるといえます。羽生世代を脅かす存在として早くから注目されていた渡辺棋王は次々と羽生世代を打ち負かし、残すタイトルも手中に収めようとしていました。

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第62期王将戦で佐藤康から王将位を奪取した渡辺 王将戦中継ブログより

しかし、第64期に羽生世代のひとりである郷田真隆九段の挑戦を受け、結果は3勝4敗で防衛を失敗。以降は王将リーグに名を連ねるも挑戦までは届かず、王将戦七番勝負の舞台から遠ざかっていました。王将戦だけではなく、タイトル挑戦は3年近く実現できず、さらに昨年度は竜王を失冠。順位戦もA級陥落と厳しい結果が続いていました。

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フルセットの末、郷田に破れた渡辺 王将戦中継ブログより

いわゆる、棋士として正念場を迎えていた渡辺棋王。例年ハイレベルな戦いになる王将リーグですが、今期も期待に違わぬ顔触れになり、渡辺棋王は「ここである程度やれれば、若い棋士にも対抗していけるんだろうと思うし、駄目ならしゅんと沈んでいくのかなと」(※)と、今期の王将リーグについてコメントしていました。

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王将リーグには昨年の挑戦者であり、今期ふたつのタイトルを獲った豊島将之二冠。名人を防衛し、他棋戦でも高い勝率を残す佐藤天彦名人。同じく各棋戦で活躍を続ける広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、中村太地七段。そしてかつての王将位を奪取した郷田真隆九段も在籍します。誰が挑戦してもおかしくない。その中でリーグ戦はやはり混戦になりました。今回は11月26日に行われたリーグ最終局を振り返ってみましょう。

【第1図は△8七飛成まで】

図1は3勝2敗の豊島将之二冠戦の終盤戦。ここまで3勝2敗の渡辺棋王は敗れるとリーグ陥落、勝つとプレーオフの進出が決まるという一番でした。ひとつの勝ち星の差で運命が大きく変わるのも王将リーグの魅力です。

いよいよ終盤戦。先手玉は中段に追いやられ、ピンチに見えます。▲7三歩成は△7六竜▲5五玉△5四金までの詰み。平凡な受けでは△7四金と攻めの要の歩を取られてしまいます。ここで▲6五角が妙手でした。△7六金は重く、▲5六玉で攻めが切れ気味です。本譜は△8六竜と引きましたが、ひらりと▲6七玉。△6六金▲5八玉△6五金▲7三歩成と進みました。角1枚を犠牲にしましたが、後手に持ち駒の金を使わせ、先手玉が安全になっています。本譜は悠々と▲7三歩成が間に合い、以下数手で渡辺棋王の勝利となりました。

これでプレーオフの進出が決定。いま乗りに乗っている豊島二冠を破ったことで、挑戦者の期待がいっそう高まったことと思います。プレーオフの相手は元竜王の実力者である糸谷八段。プレーオフは12月3日に行われ、戦型は角換わりとなりました。

【第2図は△7五桂まで】

後手は矢倉の堅陣。押さえ込まれそうだった攻めの駒たちはすべてさばけ、先手玉にグサグサと攻めの駒が刺さっています。先手玉は一手一手の寄り筋で、勝機は見込めません。そして糸谷八段が投了。渡辺棋王が4年ぶりに王将戦の舞台に戻ってきました。

このころから棋界やファンのSNSを通じてこういった声が強まっていきました。

「やはり渡辺棋王は強い」

そうです。羽生世代や若手が数多く活躍する戦国時代の中で、渡辺棋王というひとりの棋士もまた戦場を駆け回っていたのでした。昨年度末に棋王戦で永瀬拓矢七段の挑戦を退けると、今期は順位戦B級1組で貫録ともいえる負けなしの成績。王座戦も挑戦者決定戦まで進出。トップ棋士が集うJT将棋日本シリーズでも優勝を決めるなど、強い渡辺棋王が戻ってきました。

久保王将との対戦成績は久保王将16勝、渡辺棋王15勝。ほぼ互角といえます。しかし、渡辺棋王にとっては因縁の相手。2010年度に棋王戦でタイトルを争っており、1勝3敗で久保棋王が防衛しています。

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第36期棋王戦五番勝負で対戦している両者 棋王戦中継ブログより

再びタイトル戦の舞台で顔を合わせた両者。当然その記憶は脳裏にあることと思います。3連覇を狙う王将と、調子を上げてきた元王将。どのような決着が待っているでしょうか。

『言葉はすべて単純明快。自分を飾らず何事も楽しむ。棋士・渡辺明 34歳 -ライブドアニュース』

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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