参加資格は、学生であること。小学生から大学院生までが参加する「全国オール学生将棋選手権戦」とは?

参加資格は、学生であること。小学生から大学院生までが参加する「全国オール学生将棋選手権戦」とは?

ライター: 古川徹雄  更新: 2018年02月26日

今年で32回の伝統を誇る、全ての学生が垣根なく参加できる大会「ファーストロジック杯全国オール学生将棋選手権戦・個人戦」が1月6、7日の両日、御茶ノ水ソラシティ(sola city Hall・会議室roomD)にて開催された。

事前に場所も調べずに御茶ノ水駅に到着。駅員さんにソラシティの場所を私がたずねると「あれですよ」と目の前の巨大なビルを指さした。駅から徒歩1分、ガラス面を多くし、採光に工夫がなされたオシャレなビルが今回の会場だ。

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今大会の会場となった御茶ノ水ソラシティ。撮影:古川徹雄

エスカレーターで2階の会場ホール前に上がると、開場30分前だというのに既に参加者や父兄の皆さんが長蛇の列を作って受付を待っている。 今大会の参加者は過去最高となる325名(大学院生5名、大学生132名、高校生80名、中学生72名、小学生37名、最年少は小学校1年生)。 大会会場のホールの外にもたくさんのベンチが設置してあり暖房のきいた環境で休むことができる。地下にはレストラン街やコンビニエンスストア。1階にはコーヒーショップもある最高の環境での開催だ。

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大会会場のホール前には長蛇の列。撮影:古川徹雄

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満員の会場。撮影:古川徹雄

開会式が始まり、主催者代表として日本将棋連盟常務理事・鈴木大介九段が挨拶に立った。渉外担当理事として東奔西走する鈴木九段。理事として最初の交渉先が昨年の団体戦からこの大会に協賛を賜っている株式会社ファーストロジック社で、とても緊張したことをユーモアを交えながら話した。ファーストロジック社の坂口直大社長が将棋を指し、日本将棋連盟の活動に理解があったため、ふたつ返事でご協力いただいたのだ。

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開会式で挨拶をする鈴木大介日本将棋連盟常務理事(九段)。撮影:古川徹雄

続いてファーストロジック社マーケティング部部長の藤江良さんが選手を激励。社名の由来にもなっている「はじめに論理的思考」という考え方を話し、その論理的思考による結果が間違っていても、それを軌道修正して続けることで物事の本質に近づいていくことを説明。「将棋という伝統文化を通して論理的に考えることの大切さを再確認して欲しい。小中学生は高校大学生に臆せず集中して、最高のパフォーマンスを発揮して勝てるように頑張ってください」 とエールを送った。

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開会式で選手を激励する株式会社ファーストロジック、藤江良さん。撮影:古川徹雄

日本将棋連盟職員・石橋弘光さんのルール説明が終わるとすぐに162局一斉に対局開始。全員がお願いしますと頭を下げる様は実に壮観だ。

1日目は全対局、持ち時間30分切れ負け。2勝通過2敗失格の予選の後に、トーナメント戦を行い、ベスト16までを決定する。2日目は準決勝までの全対局が持ち時間15分の秒読み30秒。決勝のみ持ち時間30分の秒読み30秒で行われる。

対局が始まり見てまわっていると、すぐに小学校低学年の女の子が泣きながら指している姿が目に飛び込んできた。局面は駒をボロボロと取られて必敗。相手の大学生も困り果てた様子で、視線を上げられずに盤だけを見つめて指している。かくいう私も、いたたまれずに退散。大学生と小学生の対戦もあり、たまに小学生が勝つ番狂わせが起こるのがこの大会の醍醐味だ。

今大会には小学1年生から大学院生までが参加していたが、残念なことに専門学校生の参加が無かった。現役学生の年齢で(+-2歳)専門学校に通っている皆さんにも参加資格があるので、次回大会には是非参加していただきたい。自身の参加資格が不安な方は日本将棋連盟普及免状部に問い合わせを。

予選連敗で失格となる参加者が出てくるお昼ごろに合わせてプロ棋士による指導対局が準備された。鈴木九段をはじめ、深浦康市九段黒沢怜生五段佐々木大地四段香川愛生女流三段中村真梨花女流三段北尾まどか女流二段らが3面指しから5面指しでそれぞれ指導。指導対局は夕方近くまで続き、希望者のほぼ全員が指導を受けることができた。

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深浦康市九段の指導対局。撮影:古川徹雄

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黒沢怜生五段の指導対局。撮影:古川徹雄

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佐々木大地四段の指導対局。撮影:古川徹雄

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香川愛生女流三段の指導対局。撮影:古川徹雄

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中村真梨花女流三段の指導対局。撮影:古川徹雄

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北尾まどか女流二段の指導対局。撮影:古川徹雄

午後に入るとファーストロジック社の坂口社長がお忍びで観戦。年齢差をものともせず戦う小中学生の姿に目を細めていた。今大会の優勝者にはファーストロジック賞として竹風師作の彫埋駒が送られる。その他にも、参加賞、予選通過賞、敢闘賞(小学生ベスト32進出者)、ベスト16賞、3位、準優勝、優勝、とそれぞれ賞品が用意され、優勝者には五段免状も授与されることになっている。

この大会を協賛したことをきっかけに、会社に将棋部を作りたいと考えるようになったという坂口社長。将棋部の大学生に是非入社して来て欲しいそうだ。株式会社ファーストロジック社は、投資用不動産に特化した国内最大の不動産ポータルサイト「楽待」を運営する東証1部上場企業。

「チームワークを大切にしながらも、自分の意志で主体的に行動し、目標を達成していけるような人に来て欲しいですね。大きな活躍の場を用意して待っています。社員には仕事を通じて自己を成長させ社会に貢献できるようになって欲しいと願っています。我が社はライフ・ワーク・バランスを重視しているので土日祝日は完全に休み。残業も少ないので将棋を続けていくには、とてもいい環境だと思います」とのこと。

社長自らが旗を振るファーストロジック将棋部の1期生になるチャンスだ。

ファーストロジック社採用情報ホームページ

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ファーストロジック賞の竹風作彫埋駒と優勝盾。撮影:古川徹雄

今回の大会には遠方からもたくさんの参加者があり、北海道や岡山から参加した選手もあった。昨年のこの大会の団体戦で優勝した立命館大学からは6名が参加。共に中高一貫校で将棋の名門、岩手(中)高と日大三島(中)高も今大会に日程を合わせて東京合宿を開催し、それぞれ20名程度の中高生を参加させていた。

昨年のオール学生団体戦で活躍した高井戸第四小学校6年生メンバーの青木幾君(5年)の姿もあったが、全国中学選手権優勝の橋本力君(岩手中3)に破れ、予選で敗退。その橋本君もトーナメント1回戦で佐々木昴さん(東大4)に破れ早々に姿を消した。 優勝候補と目される選手や全国タイトルを獲得している選手でさえ、1日目から次々に姿を消していく激しさは、独特の緊張感を生んでいた。

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橋本力君(岩手中3)と青木幾君(高井戸第四小6)の対戦。撮影:古川徹

●杉村涼太朗さん(ベスト64)

1日目の対局で気になる選手がいた。杉村涼太朗さん(大阪経済法科大2)だ。切れ負け将棋は終盤になると時計の叩き合いになるため指し手が荒れ、着手が早くなるものだが、残り時間が危なくなっていても、気にした様子も無くゆっくり考える姿が逆に目立っていた。

予選2局目の白井颯太君(藤枝明誠2)との対戦の最終盤では、自玉は受けが利かないが、王手攻撃をすれば切れ負けを狙えるという局面で潔く駒を投じてしまった杉村さん。ベスト32進出をかけた石川誠也さん(東大3)との対戦でも、早く指して相手を焦らせるようなことは考えず、相手の残り時間が3分、自身の残り時間が2分を切った場面でも、じっくりと考えて一手一手を指していた。結果は二転三転の大熱戦の末に敗戦。

「勝負なので切れ負けや、相手が間違うことを狙って指すべきなんでしょうが、根性というか執念が足りませんでした。東京へは梅田を21時に出て朝6時に東京駅に着くバスで来ました。1日目で負けた後、本当は友だちの家に泊めてもらう予定だったのですが、その友だちが1日目を勝ち上がっていたので、負担にならないように東京駅付近のネットカフェで夜を明かし、バスで大阪に帰りました。昨年は2日目(ベスト16)まで勝ち上がれていただけに悔しかったです。今後は学生大会で結果を出し、関西地区の代表も目指したいです」と杉村さん。

予選1回戦では今大会の優勝者にも勝っていただけに悔しさもあっただろう。その気遣い、やさしい性格が対局態度ににじみ出ていた。

●川又祐斗さん(ベスト32)

立命館大学将棋研究会会長の川又祐斗さんは、帰省中の茨城の実家から参戦。団体戦優勝メンバーの山本将太郎さんと都内で合流し、前泊して臨んでいた。

順当に勝ち上がり、1日目の勝ち抜けをかけて石橋舜さん(早大2)と対戦。「昨年の富士通杯大学対抗戦でも対戦し負けているので借りを返したかった」と川又さん。角換わりとなった将棋は石橋さんの早繰り銀に川又さんが右玉で対抗。優位に立った川又さんだったが、30分切れ負けの将棋で右玉の薄い将棋を勝ちきるのは大変だったようで雪辱ならず。川又さんが敗退したことで立命館の選手全員が1日目に姿を消す波乱となった。

会員68名の立命館大学将棋研究会会長の座を2月に樫村和宏さん(2回生)に引き継ぐ川又さん。

「今回は結果が出せなくて残念でした。3月の学生将棋選手権を目指して頑張ります。会長の任期中は棋士や奨励会員に指導してもらう合宿を開催したり、みんなで協力して新しい試みをいくつか形にできました。今回、特に団体戦でも結果を残せたので責任は果たせたのかなと思います。事務方の仕事が多く、責任も重かったので無事バトンタッチできる見込みがついてホッとしています。この大会の団体戦優勝でいただいたファーストロジック賞の彫埋駒は部で大切に使っています。将棋の勉強は主に実戦とソフト『技巧』を使って自分の将棋の振り返りをすることです」と川又さん。

大所帯をまとめる仕事は大変だったはずだが、いつ会っても笑顔の川又さん。本当にお疲れ様でした。

同じく1日目の最終戦でとてももったいないカードがあった。清水郁巳君(八王子市立第六小5年)白田龍之介君(稲城第六小5年)による小学生研修会員同士の決戦だ。勝ち上がっていけばどこかで対戦するのは仕方ないのだが、ここで小学生が1人消えてしまうのは本当に残念だ。小学生らしく、お互いに気合いの早指しで、持ち時間をたくさん残したまま、対抗形の将棋は、あっという間に一手違いの終盤戦へ。最後、詰むや詰まざるやの局面をきっちり読みきった白田君が勝ち上がりを決めた。

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白田龍之介君(稲城第六小5)と清水郁巳君(八王子市立第六小5)のベスト16をかけた対戦。撮影:古川徹雄

1日目でベスト16までを決める予定だったが、会場の時間の都合で2局が2日目に持ち越しとなった。163名が名を連ねたトーナメントを戦っているわけで、そこも想定内。大会運営に当たっていた連盟職員、奨励会員の皆さんは誰一人昼食を食べる時間も無いままに手合いをつけ続け、指導対局の割り振りに奔走した1日となった。

古川徹雄

ライター古川徹雄

観戦記者。通称ふるてつ。元将棋世界編集部。河口俊彦先生(八段・故人)の「対局日誌」に憧れ、作家・大崎善生氏の「聖の青春」に背中を押されて将棋界の門を叩き、田名後(現『将棋世界』編集長)門下となり今日に至る。元博報堂DYホールディングスグループ経営・教育コンサルタント。こぶ平(正蔵)に似ていると言われるが本人は大いに不満。Twitterアカウントはこちら

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