将棋コラム

「右手が勝手に動いた」王位戦七番勝負で見せた森九段の奇跡の絶妙手とは?

「右手が勝手に動いた」王位戦七番勝負で見せた森九段の奇跡の絶妙手とは?

更新: 2017年08月21日

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森けい二九段インタビュー

第3回は、森けい二九段の将棋人生の中でもっとも印象に残る対局を挙げていただき、その対局についての思い出と簡単な解説もしていただきました。ぜひご覧ください。

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第40期棋聖就位式での森棋聖(当時)

――まずは、初タイトル獲得された二上先生(故人・達也九段)との将棋ですね。

「二上先生との第40期棋聖戦五番勝負第1局が印象に残る将棋です。対局開始1時間ぐらいで大不利になっちゃって。昼休後、すぐに投げてもおかしくない形勢だったんだけど、途中で二上先生が決め損ねてなんとなく長引きそうになって。そうしたらずいぶん遠くのほうに打った歩がと金になって何回も動いたんだけど、最後は大逆転勝ちでした。

そのとき芹沢博文先生(故人・博文九段)が30譜にわたる観戦記を書くことになっていたんです。あとでいわれたら、『1日目の午前中の段階でこんな将棋は30日(回)分も書けないと思っていたら、ずいぶんと粘って逆転してくれたから書く材料ができた』とおっしゃっていた記憶があります」

【図は81手目▲8三歩まで】

1982年6月17日第40期棋聖戦五番勝負第1局二上達也棋聖 対 森けい二八段

このシリーズは森九段(当時八段)の3連勝で初タイトル獲得となった。この局面の駒の配置からすでに、森九段の粘った跡が見て取れる。このあと8三に垂らした歩は8二~9一と香を取り、そこから迂回して4一まで到達。最後は寄せに働いて大逆転勝ちを収めた。

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――この将棋は、ほかにもインパクトのある手が頻出していましたね。

「二上先生にとっては、負かされたというよりも、自分が決め損ねたことに対するいらだちみたいなものがあったみたいで。終わったあとにお酒の席で『森君、よく粘ったね』と言いながらもかなり悔しそうでしたね。3連勝して棋聖になれたけど、そのときはたまたま1局目がひどい将棋を逆転した、という流れがあったので幸運でしたね」

「本当の意味でタイトルを獲れたと思ったのは谷川戦(第29期王位戦七番勝負対谷川浩司王位)。あの時は谷川さんが三冠(名人、王位、棋王)獲っていて、とにかく将棋界で一番強いと。ただ、私から見れば後輩だからね、怖いとは思っていなかったけど、今の羽生(善治三冠)さんみたいな感じで才能はあると思っていました。だけど心の中では負かしてやろうと思っていたから、『おじさんが体で覚えた将棋を教えてやる』なんて言ったんです。そう言った手前、ストレートで負けるのもかっこ悪いからね」

――自らを追い込んだ意味もあったのですか。

「それはあります。確かにその通りで、私はそれで自分の力を出せるみたいなところがあった。でも第3局までは1勝2敗だったんですよ。そして第4局に△1二角という絶妙手を放ったのが印象に残ってますね。考えてみたらいろいろな思い出があるけど、いい手も指しているしね。平凡な手はやっていない。将棋ファンの方に見てもらっても、印象に残るような手をたくさん指せたかなと思っています」

【図は40手目△1二角まで】

1988年8月15、16日第29期王位戦七番勝負第4局谷川浩司王位対森けい二九段

図の△1二角が名角。「夕べ、寝ずに考えた手」と森九段が局後に明かした一手。▲2三歩に△6六角▲同歩△2四飛を用意している。谷川王位は現局面で▲2四飛と返し、秘術を尽くした戦いが続いた。

――もっとも印象に残った一手を教えてください。

「同じシリーズの将棋ですね。3勝3敗で最終局を迎えたんです。先手番で得意のひねり飛車を採用しました」

【図は80手目△4五歩まで】

1988年9月21、22日第29期王位戦七番勝負第7局谷川浩司王位対森けい二九段

「ここで私の直感は▲8三歩成でした。以下、△4六歩と金をタダで取らせて▲3六銀で指せるとみていたんだけど、もっと得をできないかと。そこで指した手が▲2五歩。実は、これは考えて指した手じゃなくて、自分の右手が勝手に動いたんです。よかろうと悪かろうと指しちゃったら待ったできないですよ(笑)。こんなことは自分の将棋人生の中で初めてでした。あとで考えたら、たまたま絶妙手だった。天の声じゃないけど、まるで神が降りてきたような気がしました」

時の名人に挑戦してタイトルを奪取したこのシリーズは、森九段の「おじさんパワー炸裂」と将棋界でも話題になりました。なお、第29期王位戦七番勝負第7局についての棋譜と詳しい解説は、モバイルアプリ「日本将棋連盟ライブ中継」の「棋士人生、この一局」で掲載中です。こちらも、ぜひご覧ください。
最終回は、盤外と今後について話を伺います。

森けい二九段インタビュー

玉響

ライター玉響

平成元年生まれ。2004年から2016年1月まで奨励会に在籍。同年5月からフリーライターとして活動開始。以来、日本将棋連盟のネット中継業務を担当している。ほかに将棋番組制作、将棋教室の仕事にも携わる。将棋漬けの日々を送っているが、実戦不足なのが悩み。

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