永世棋聖の佐藤康光九段。伝説の「第61期王将戦」をご紹介。盤外でも、ファンのため全力を尽くす彼の魅力とは?

永世棋聖の佐藤康光九段。伝説の「第61期王将戦」をご紹介。盤外でも、ファンのため全力を尽くす彼の魅力とは?

ライター: 直江雨続  更新: 2017年02月05日

2017年2月1日のA級順位戦8回戦、ファンの心に残る死闘を繰り広げ、A級残留に望みをつないだ佐藤康光九段。将棋界の一番長い日と呼ばれる2月25日の最終戦を前に、佐藤康九段についてこのコラムでご紹介させていただこうと思います。

タイトル通算獲得数は歴代7位。永世棋聖の称号を持つ大棋士

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佐藤康光九段は1969年10月1日生まれの47歳。京都府八幡市出身、田中魁秀九段門下です。タイトル戦への登場は37回。うち、竜王1期、名人2期、棋王2期、王将2期、棋聖6期を獲得しています。棋聖のタイトルを通算5期以上獲得したことにより『永世棋聖』の資格保持者です。タイトル通算獲得数は13期で、これは歴代7位の記録となります。

現在竜王戦は2組(1組以上:24期)、順位戦はA級(A級以上:20期)です。 棋戦優勝は、銀河戦3回、大和証券杯最強戦1回、NHK杯戦2回、将棋日本シリーズJTプロ公式戦2回、早指し新鋭戦2回、勝抜戦5勝以上1回と、通算11回です。 2006年度にはタイトル戦5連続挑戦という空前絶後の大記録を打ち立て、将棋大賞の『最優秀棋士賞・最多対局賞・最多勝利賞・升田幸三賞』を受賞するなど将棋界を代表するトップ棋士のひとりとして数多くの活躍をされています。

また、その常識にとらわれない独創的な序盤戦術と終盤の切れ味は常にファンを魅了し続け、2011年度には2度目の升田幸三賞を受賞しています。その2度目の升田幸三賞を受賞した「▲5七玉」の一手が出たのが第61期王将戦、久保利明王将に佐藤康九段が挑戦したシリーズの第1局となります。

伝説の番勝負 第61期王将戦

2012年1月8日(日)9日(月)に行われた第61期王将戦七番勝負 第1局 佐藤康光九段 VS △久保利明王将。この対局の25手目に驚愕の一手が飛びだしました。

それがこの▲5七玉!これは次に後手の飛車に5六の歩を取られるのを防いだというものですが、しかし、玉が単騎で5七の地点に上がって5六の歩を守るという構想には誰もが驚きました。この手はファンからは「天空の▲5七玉」「ラピュタ玉」などと呼ばれることになります。

佐藤康九段はこの対局に勝利すると、第2局も勝利、さらに2012年2月16日(木)17日(金)に行われた第3局でも驚きの構想を見せます。

51手目の▲6五銀上! ご覧ください、この盤面中央に並んだ三枚の銀の美しいフォーメーションを。ファンから「天空のシルバートライアングル」と呼ばれる伝説的局面です。この対局にも勝利した佐藤康九段は開幕3連勝。続く第4局は敗れたものの、第5局に勝利して自身にとって3年ぶりのタイトルを獲得したのです。

翌年の王将戦では挑戦者となった渡辺明竜王に1勝4敗で敗れてタイトルを失冠してしまいますが、ファンは佐藤康九段が再びタイトル戦の舞台で独創的な新手を繰り出してくれることを楽しみに待っています。

東日本大震災でのチャリティー活動

佐藤康九段が棋士会会長になったのは2011年の4月1日です。この年は3月11日に東日本大震災が発生しました。未曽有の大災害を前に、棋士にできることはなにかないかと佐藤康九段はすぐに行動し、4月5日に棋士会によるチャリティーイベントと街頭募金が行われたのです。

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佐藤康九段は和服姿で渋谷駅に立ち、声を張り上げて募金を呼びかけます。

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募金箱を手に並んだ羽生、佐藤、森内というトップ棋士3人の姿に通行人も思わず足を止めていました。そして、多くの将棋ファンが募金をし、棋士に握手を求めるシーンが見られました。

その後、将棋会館で棋士会主催のチャリティーイベントが開催されました。チャリティーイベントは指導対局のほか、チャリティー色紙のサイン会や、バザー、チャリティーオークションなどが行われ、当日の収益はすべて義援金として寄付されました。その後、今度は千駄ヶ谷駅前に場所を移し、再び募金活動を行いました。

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未曽有の大災害により、多くの将棋ファンはさまざまな不安に押しつぶされそうな時期でしたが、棋士たちの先頭に立って声を張り上げる佐藤康九段の姿に、多くのファンが背中を押され、励まされたのです。

佐藤康九段はその後も、東北での復興イベントに何度も参加し、将棋を通して震災で傷ついたファンを励まし続けています。その姿からは棋士としてファンのために何ができるかを常に考え続け率先して行動する佐藤康九段の信念が垣間見え、ファンもまたそんな佐藤康九段に信頼を寄せています。

そうして佐藤康九段は棋士会会長として2011年から2017年までの約6年間、さまざまな棋士会イベントを精力的に開催し、また自身も先頭に立って出演し、直接ファンとの交流を続けてきました。昨年末に行われたクリスマスフェスタでは、ファンへのサプライズとして、趣味であるバイオリンの演奏を披露し、その音色でもファンを魅了していました。

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このイベントの模様はこちらのコラムでご覧ください。

佐藤康九段のこれまでの実績や、棋士会会長としての活動についてご紹介しました。 ファンから見た佐藤康九段は、面白い将棋を見せてくれるだけでなく、常にファンのことを第一に考えてさまざまなイベントを開催してくれる棋士です。

それらの実績によって多くの将棋ファンからの強い信頼を集めている佐藤康九段。これからも佐藤康九段の放つ一手一手が注目されることでしょう。盤上でも、盤外でも、ファンのために全力を尽くす佐藤康九段の次の新手に熱い期待を寄せたいと思います。

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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