遂に開幕!「絶対王者、羽生」VS「27歳実力派、糸谷」王座戦の見どころに迫る

遂に開幕!「絶対王者、羽生」VS「27歳実力派、糸谷」王座戦の見どころに迫る

ライター: 直江雨続  更新: 2016年09月19日

2016年の第64期王座戦は9月6日に開幕しました。

挑戦者は糸谷哲郎八段。2014年に竜王位を獲得したことでも有名な、27歳の若手実力者。乱戦・力戦が得意で、力強い玉さばき(王様が盤上を自由に動き回る。本人もあちこち歩き回る)に定評のある関西所属の棋士です。

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糸谷八段にとって、過去に竜王戦で森内俊之竜王(当時)、渡辺明二冠(当時)との番勝負の経験はありますが、羽生王座とのタイトル戦はこれが初めてとなります。

迎え撃つのは羽生善治王座。この王座戦では無類の強さを誇っています。過去24年間のうち23年間の王座。人生の半分以上王座のタイトルを持っています。ちょっとすごすぎて意味がわかりません。

最強の羽生王座に対し、勢いに乗る糸谷八段が挑む図式。いったいどんな戦いになるのか期待が膨らみますね。

この王座戦五番勝負をさらに楽しむために、王座戦についての説明と、挑戦者の糸谷哲郎八段のこれまでの歩みを振り返ってみたいと思います。

羽生マジックはここでも?王座戦の勝負の分かれ目はなんと夕食休憩?!

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王座戦は1953年に一般棋戦として創設され、1983年より、タイトル戦に格上げされました。主催は日本経済新聞社。五番勝負で行われ、持ち時間は5時間の1日制。

ほかの1日制のタイトル戦と違い、王座戦のみ『夕食休憩』があります。この『夕食休憩』こそが、王座戦を観戦するときの注目ポイントです。ここ数年、夕食休憩前までは「挑戦者が良さそう、羽生王座ピンチ!」に見える局面になることが多々ありました。

しかし、『夕食休憩』を挟んでいざ終盤戦となると、不思議と挑戦者が明快に勝つ手が見つからない。数手進むと、「実はもともと難しかったのではないか?」「いやいや、もはやこれは羽生勝ちになったのでは?」となり、結局最後は羽生王座が勝利する、というパターンがよく出てくるのです。

まさにこれは『羽生マジック!』

そうです。『夕食休憩』を制すものが王座戦を制すのです。

挑戦者への道は長く厳しい!3段階のトーナメント戦

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王座戦は一次予選、二次予選、挑戦者決定トーナメントの3段階のトーナメント戦で挑戦者を決定します。

一次予選は順位戦C級1組以下の棋士と女流棋士4名が参加し、トーナメント方式で行われます。そのうち6名が一次予選を勝ち抜き、二次予選に進出します。

二次予選は一次予選の勝ち抜き者6名と、シード者以外の棋士により行われます。(挑戦者決定トーナメントのシード者の人数は変動があるため、二次予選の勝ち抜き者は例年10名程度です。)

挑戦者決定トーナメントは二次予選の勝ち抜き者と、前年のベスト4、タイトル保持者によって行われます。

そしてその挑戦者決定トーナメントの優勝者が、王座のタイトル保持者との王座戦五番勝負に挑む権利を得るのです。

2016年の王座戦のトーナメント振り返り

第64期王座戦 一次予選

今期の一次予選を勝ち上がったのは

  • 増田康宏四段
  • 千葉幸生六段
  • 上村亘四段
  • 斎藤慎太郎六段
  • 千田翔太五段
  • 佐藤和俊六段 の6名でした。

第64期王座戦 二次予選

二次予選

  • 増田康宏四段
  • 松尾歩八段
  • 畠山鎮七段
  • 山崎隆之八段
  • 稲葉陽八段
  • 佐藤和俊六段
  • 深浦康市九段
  • 三浦弘行九段
  • 阿久津主税八段
  • 中村太地六段 が勝ち上がりました。

第64期王座戦 挑戦者決定トーナメント

二次予選の勝ち抜き者10名に前年度ベスト4の

  • 佐藤天彦八段(前期挑戦者)
  • 豊島将之七段
  • 渡辺明竜王
  • 久保利明九段と、

タイトル保持者の

乱戦・力戦・殴り合い?勝ち上がったのは糸谷哲郎八段!

今期の挑戦者決定トーナメントを勝ち抜いたのが糸谷哲郎八段でした。糸谷八段の戦いを振り返ってみます。

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1回戦、深浦康市九段戦 力戦VS粘り!

1回戦の相手の深浦九段は王位3期の実績を持つ、言わずと知れた大棋士のひとり。戦型は相居飛車の力戦調となりました。

前例のない難しい将棋でしたが、序盤早々ポイントを稼いだ糸谷八段がその有利を最後まで生かしきって勝利。不屈の根性で粘る深浦九段の指し回しも印象に残った一局でした。

2回戦、渡辺明竜王戦 急転直下の終局!

2回戦の相手は前年の竜王戦で戦い、竜王を奪われた相手でもある渡辺明竜王。ここまでの対戦成績は渡辺8勝、糸谷3勝と分が悪い相手です。戦型は角換わり。

ちなみにこの対局が行われる12日前、渡辺竜王がキャプテンを務める『FCセンダガーヤ』と糸谷八段がキャプテンを務める『FCフォーチュンアイランド』が対戦するフットサルの試合が行われ、ニコニコ生放送で中継されました。この時のフットサルでは『FCフォーチュンアイランド』が勝利し、糸谷八段はMVPに輝きました。

さて、この日の対局は意外なほど一方的な展開になりました。67手目の▲1二銀は渡辺竜王が見落としていた厳しい攻めで、以下数手指したところで渡辺竜王が投了。持ち時間5時間の王座戦ですが、お互いに2時間以上の持ち時間を残しての終局でした。

3回戦、稲葉陽八段戦 壮絶な長手数の熱戦!

挑戦者決定戦への進出を懸けた大一番。相手の稲葉陽八段は今年順位戦でA級に昇級し、勢いに乗る関西若手棋士のホープ。そして糸谷八段とは同じ1988年生まれのライバルでもあります。

ちなみに渡辺弥生女流初段が以前女流棋士会Web Siteの中のブログにて、糸谷稲葉戦を以下のように表現していました。

「中継を見ながら、前日の糸谷八段と稲葉八段の対局を思い出した。八段同士の先生の将棋に対して、誠に失礼で申し訳ないのだが、最後の方は「棋は対話なり」どころか、ケンカそのもの...に見える。平成26年の7月、お二人はB級2組の順位戦で対戦しているのだが、将棋から感じられる雰囲気は同じである。コンニャロー、クラエ!コンニャロー、クラエ!(両先生、すみません)」

そしてこの将棋も横歩取りの出だしから、まさに『コンニャロー、クラエ!コンニャロー、クラエ!』な189手の大熱戦となりました

この将棋はぜひ皆さんにも盤に並べていただきたいですね。絶対に負けたくない相手への『コンニャロー、クラエ!』の応酬は見ごたえ十分です!

挑戦者決定戦 佐藤天彦名人戦 奨励会時代からの盟友と

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将棋界というところは少年時代のライバル関係が、大人になっても延々と続くところにロマンがあります。

佐藤天彦名人と糸谷哲郎八段もまた、同じ1988年生まれで、同じ1998年に奨励会に入会した同期という関係。奨励会入会前、小学4年生の糸谷少年と5年生の天彦少年は第23回小学生将棋名人戦でも対戦があり、その時は糸谷少年が勝利しています。

関西の奨励会で切磋琢磨した糸谷少年と天彦少年、二人は帰りの新幹線が一緒になることも多く、いろいろなことを語りあったといいます。いわば『盟友』。そんな二人が、タイトル戦挑戦をかけた大一番でぶつかりました。

戦型は佐藤天彦名人の得意戦法である横歩取りに進みました。難解な中盤戦から佐藤の攻め、糸谷の受けという展開の終盤へ。最後は122手目に△8一歩と打った手が敗着となりました。代わりに△8二歩なら佐藤勝ちだったというのですから、将棋というのは恐ろしい。

こうして同世代のライバル(盟友)を倒し、糸谷哲郎八段が王座戦の挑戦者に決定しました。

2013年中村太地六段、2014年豊島将之七段、2015年佐藤天彦八段(当時)。20代の若手棋士の挑戦を渾身の将棋で跳ね返し、連覇を続けてきた羽生王座。

今年もまた27歳の糸谷哲郎八段の挑戦を受けることになりました。乱戦・力戦にめっぽう強く、怪物と呼ばれる棋士、糸谷八段。二人がどんな戦いを繰り広げるのか、ワクワクが止まりません!そして『夕食休憩』を巡る駆け引きや、その前後での形勢の揺れ動きにもぜひ注目して観戦してみてください。歴史に残るような名局が誕生することを期待しています!

*写真はすべて王座戦中継ブログより引用

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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