ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2024年07月23日
藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦した第9期叡王戦五番勝負。同学年の二人がタイトル戦で激突するのは竜王戦、棋王戦に続き早くも3度目だ。
第1局は愛知県名古屋市「か茂免」にて。角換わり腰掛け銀から難解な寄せ合いから終盤戦を迎えた。
【第1図は△5六歩まで】
お互いに玉頭に拠点を抱えていて際どい局面だが、▲7七桂△6六歩▲8四歩△同飛▲6五桂が好手順。△同桂なら▲6三銀と打ち込む手が厳しい。実戦は△6四金と払ったが、▲6六飛と飛車を走って先手勝勢になった。
写真:紋蛇
第2局は石川県加賀市「アパリゾート佳水郷」にて。角換わりから後手の藤井は△3三金型早繰り銀で攻めていく。しかしカウンターに成功し、伊藤ペースになった。
【第2図は△2八角成まで】
飛車は取られたがこの瞬間の先手玉はまだ大丈夫。▲4四歩が急所の寄せ。△同歩なら▲3四馬のすり込みが厳しい。△4六飛と攻防の飛車で反撃したが、▲4三歩成△同玉▲4四銀△5二玉▲3四馬で先手の勝ち筋に入った。伊藤は本局でタイトル戦初勝利。そして公式戦で藤井からの初勝利にもなった。五番勝負は1勝1敗に。
写真:銀杏
第3局は愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」にて。角換わり腰掛け銀から藤井の攻めが決まってリードを奪うが、伊藤も激しく迫っていつしか形勢は逆転した。
【第3図は▲8七銀まで】
後手が細い寄せをつなげるかだが、△6八歩成▲7六銀△同馬が冷静な順。慌てて△7八とと取らないのがポイントだ。以下▲6八金に△8七銀▲7九玉△6七歩と玉を下段に落としながらの寄せが続く。以下も際どいところはあったが、一分将棋の中でも正確に押し切った。伊藤が後手番での勝利で2勝目をあげて奪取まであと1勝に。藤井がタイトル戦で追い詰められたのは初めてだ。
写真:翔
第4局は千葉県柏市「柏の葉カンファレンスセンター」にて。角換わりのじっくりした展開から伊藤は穴熊、藤井は右玉へ構えて戦いが始まった。藤井がうまい仕掛けでリードを奪う。
【第4図は▲4七金まで】
ここで△7五馬と引いたのが手厚い好手。▲5五歩△4五銀▲6七銀で銀ばさみの形を作ったが、△8五桂▲4六歩△7七桂成▲同金△8五銀から押しつぶして後手制勝。追い詰められての後手番だった藤井だが、会心の指し回しで決着は最終第5局へ。
写真:玉響
第5局は山梨県甲府市「常盤ホテル」にて。振り駒の結果先手は藤井となり、角換わりから伊藤の右玉、藤井は穴熊の持久戦となった。穴熊からの猛攻で藤井が押し切るかに思われたが、伊藤の粘りの前にいつしか攻守が入れ替わっていく。
【第5図は▲6四桂まで】
ここで△8八金▲同竜△7八金と踏み込んだのが好判断。金を渡すので怖いが、詰みがなければ後手勝ちがはっきりする。▲3四金△4二玉▲5二桂成△3一玉▲7八竜△同と▲4二銀から迫ったが、王手ラッシュもわずかに届かず、後手が逃げ切った。伊藤が3勝目をあげ、シリーズを制した。
写真:牛蒡
伊藤は初タイトルを奪取。21歳8ヶ月でのタイトルは歴代8位の早さだ。藤井はタイトル戦の連勝記録が22でストップ。同学年のライバル対決はまだ始まったばかりで、これからも数多く大舞台で戦うことだろう。
ライター渡部壮大