異例のタイトル戦――第16期マイナビ女子オープン五番勝負の展望―

異例のタイトル戦――第16期マイナビ女子オープン五番勝負の展望―

ライター: 玉響  更新: 2023年04月03日

 今年も桜が咲く季節にマイナビ女子オープン五番勝負が開幕する。今期で16回を数える五番勝負は、西山朋佳女王に甲斐智美女流五段が挑む。既報の通り、甲斐女流五段の現役引退が昨年度末に発表された。今回の五番勝負は異例のタイトル戦になる。

【挑戦者・甲斐智美女流五段】

 挑戦者に名乗りを上げたのは甲斐女流五段。今期のマイナビ女子オープンは予選で石高澄恵女流二段、加藤圭女流二段、本戦で野原未蘭女流初段、上田初美女流四段、山根ことみ女流二段、そして挑戦者決定戦で加藤桃子女流三段を破って挑戦権を手にした。

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写真:八雲

 甲斐の現役引退が昨年度末に発表されたことは衝撃だった。今後は将棋とは異なる、新たな分野に進むという。現在参加中の棋戦で、すべての対局を終えると引退となる。これまで獲得したタイトルは計7期。女王の座に就いたのは第3期(2010年度)だ。甲斐は相振り飛車辞さずの振り飛車党で、居飛車も指しこなす。振り飛車党の西山を相手に、居飛車と相振り飛車のどちらを主軸に戦うかがポイントになるだろう。

【西山朋佳女王】

 迎え撃つのは西山女王。前期五番勝負では里見香奈女流五冠に1勝2敗とカド番に追い込まれたが、そこから底力を発揮して2連勝で防衛。5連覇を達成した西山は、史上初となる永世女王の資格を得た。そして今年2月には伊藤沙恵女流名人からタイトルを奪取し、女流三冠に返り咲いたばかりだ。女流8大タイトルは再び里見女流五冠と西山の2人で分け合う構図になり、依然としてその牙城を切り崩すことが容易ではないことを知らしめた。

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写真:玉響

 今回の五番勝負も女王に死角は見当たらないが、西山は甲斐に負け越しているというデータがある(下図参照)。対戦成績は西山の奨励会時代を含めて2勝3敗(1千日手)。直近の顔合わせは2月の女流王位戦挑戦者決定リーグ紅組だ。この対局は実質、紅組の優勝者決定戦で大一番だったのだが、甲斐の手厚い指し回しに屈した。内容面で目を引いたのは、西山が後手番でダイレクト向かい飛車を採用したこと。それまでは角道を止めるオーソドックスな三間飛車を主力戦法にしていたが、ここにきてレパートリーを増やしている。

対局日 棋戦名 西山 甲斐 手数 戦型 備考
2012/7/12 リコー杯女流王座戦本戦     42 相振飛車 千日手
2012/7/12 リコー杯女流王座戦本戦 88 相振飛車  
2015/8/28 リコー杯女流王座戦本戦 140 相振飛車  
2022/2/9 大成建設杯清麗戦予選 119 三間飛車  
2022/2/21 女流王位戦挑戦者決定リーグ 103 相振飛車  
2023/2/20 女流王位戦挑戦者決定リーグ 115 角交換型振り飛車  

 甲斐は今年1月の時点で引退届を提出していて、まさか自分が挑戦者になるとは思っていなかったという。今回の異例ともいえる五番勝負は結末がどうなるかより、それぞれの立場における心境や空気感が、盤上にどんな形として表れるのか。そこに注視したい。

玉響

ライター玉響

平成元年生まれ。2004年から2016年1月まで奨励会に在籍。同年5月からフリーライターとして活動開始。以来、日本将棋連盟のネット中継業務を担当している。ほかに将棋番組制作、将棋教室の仕事にも携わる。将棋漬けの日々を送っているが、実戦不足なのが悩み。

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