伊藤は初の防衛戦、西山は女流名人戦に初登場 ―第49期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負展望―

伊藤は初の防衛戦、西山は女流名人戦に初登場 ―第49期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負展望―

ライター: 牛蒡  更新: 2023年01月11日

 第49期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負は、伊藤沙恵女流名人と西山朋佳女王・女流王将で争われる。女流で最も歴史のある棋戦であり、栄誉を懸けた戦いだ。伊藤が連覇を達成するのか、西山が歴代で10人目の女流名人になるのか。第1局は2023年1月15日、神奈川県足柄下郡箱根町「岡田美術館」で行われる。

初の防衛戦に臨む

 伊藤は前期の五番勝負で初めてタイトルを獲得した。初戴冠までに9回のタイトル挑戦は将棋史上最多だ。悲願達成に涙を流したシーンは忘れがたい。あれから1年、今回は初めて防衛戦に臨む。伊藤にとっては新たなステージ、新たな挑戦である。

 本年度の成績は1月10日の時点で19勝5敗(勝率0.792)。本年度の勝率ランキング1位。自己最高勝率(19年度の0.783)も更新しそうな勢いだ。もともと勝率の高い女流棋士だが、さらに安定感が増した。ただ、対局数は、昨年度の53局から24局に激減した。女流名人リーグを戦っていないことに加え、タイトル挑戦がなかったことが影響している。また、二強といわれる里見香奈女流五冠と西山には、それぞれ1戦していずれも敗れた。この2点だけは不本意だったかもしれない。

49jo_meijin_outlook_01.jpg

女流名人獲得なるか

 西山は今期から女流名人戦に参戦した。予選を4連勝で勝ち抜き、女流名人リーグは8勝1敗で挑戦権を獲得。里見の女流名人戦五番勝負の連続出場記録を13で止めた。21年10月に女流四冠となって以降、里見との激しいタイトル争いで二冠まで後退したが、再び冠数を増やそうとアクセル全開でくるはずだ。

 本年度の成績は39勝16敗(勝率0.709)。こちらは対局数、勝数、連勝(11連勝)のランキング3部門で本年度1位。ちなみに対局数=55局は史上1位タイの記録であり、女流名人戦第1局で単独1位になる。スポーツ報知の報道によれば、西山は先月の女流王将就位式で、「とにかく対局をやっていた記憶がある。対局がメインの1年間で充実していた」と話したという。

49jo_meijin_outlook_02.jpg

直近の対戦

 対戦成績は伊藤3勝、西山10勝(両者の奨励会員時代を含む)。西山が3連勝中。直近の対戦は、昨年9月の倉敷藤花戦だった。その対局を少し振り返ってみよう。西山の先手で三間飛車、伊藤は居飛車で対抗。序盤から馬を作り合う力戦模様だった。

【第1図は▲5七同金まで】

 第1図の局面は終盤戦。形勢は互角に近い。ただし、伊藤は数手前から1分将棋に追い込まれていた。西山は残り28分。図から△3六歩▲3八銀△4五桂▲5三歩成で攻め合いになったが、ここから伊藤が崩れ、西山が力で押し切った。

 西山の勝因は、左辺の押さえ込みと、終盤で互角の攻め合いに持ち込めたことだろうか。伊藤も従来の受け将棋から攻めの比重を高めているが、攻めの力では西山に分がある。伊藤は逆の展開に持ち込みたかった。具体的には上部が厚い陣形に組み、西山の猛攻をしのぐために時間を残す。金銀が自陣下段に残る形は伊藤らしくなかった。女流名人戦では、盤上の勢力争いと時間の使い方に注目したい。

2回目のタイトル戦

 伊藤と西山は21年春の第14期マイナビ女子オープン五番勝負で戦い、3勝2敗で西山がタイトルを防衛している。タイトル戦は当時以来2回目だ。伊藤は各3時間という持ち時間を有効に使いたい。西山は本年度の55局のうち23局が里見戦だった。里見戦では相振り飛車が中心だったが、伊藤は対抗形もよく指すし、里見と伊藤では棋風も異なる。里見戦とは違った戦い方が求められるだろう。

 前期の女流名人戦五番勝負では、開幕前に伊藤と西山で練習将棋を指したと聞く。伊藤の初戴冠の裏には西山のアシストもあった。今回は栄冠を懸けた真剣勝負の場だ。フルセットまでもつれる名勝負を期待したい。

牛蒡

ライター牛蒡

2010年、サラリーマンから「名人戦棋譜速報」の中継記者に転身。 現在は日本将棋連盟モバイルの中継業務も担当。ペンネームを「牛」に改名しようかと検討中。

このライターの記事一覧

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています